第10話 地上に帰ろう!
「――――さま。――――さま!」
「ん、んん……?」
遠くで誰かが呼んでいるような声がして、僕は深いまどろみから目を覚ます。
う、体が重い。かなり疲労が溜まっているのを感じる。
あれ、僕ってなにをしてたんだっけ?
えっと確か海に来て、ナディアさんに会って……そうだ、海底遺跡に行ったんだ。
そこで魚人に会ったり大きい魚と戦ったりして……あれ? 勝ったんだっけ?
まだ記憶がはっきりしないまま目を開けると、そこには青く広がる空と、僕を心配そうに覗き込むレイラの姿があった。
「あれ、レイラ……?」
「テオ様! よかったご無事で!」
僕と目が合ったレイラは僕を激しく抱きしめる。
うぷっ、せっかく地上に上がれたみたいなのに、鼻がレイラの胸で塞がれて窒息しそうだ。僕が苦しそうにしていることに気づいたレイラは「す、すみません」と謝ると僕を解放してくれる。
どうやらかなり心配をかけちゃっていたみたいだ。
「目を覚ましたか。起き抜けで騒がしい奴だ」
「エレナさん!」
やれやれと言った感じで近づいてくるエレナさんを見て、僕は声をあげる。
良かった。エレナさんも無事だったんだ。
「まだ記憶が曖昧なんですが、あれからどうなったんですか? ガーディアンフィッシュは倒せたんですか?」
「ああ。あいつは倒せたし、瘴気の源も無事消滅した。この海も綺麗になっていくだろう」
そう言うとエレナさんは僕が戦いの中で落とした神の斧や神の鍬、そしてオリハルコンナイフを返してくれる。
「ありがとうございます! 回収してくれてたんですね」
「当然だ、これは大切なものだろう。それにしても……ずいぶん無茶をしたな。お前が突っ込んで行った時は肝が冷えたぞ」
エレナさんは呆れたように言う。
確かに最後の特攻は無茶だったかもしれない。エレナさんが加勢に来てくれなかったら、ガーディアンフィッシュを倒し切ることはできず、逆にやられていたと思う。
「まあだが……やはりお前は私が見込んだ通り、たいした奴だ。その、か……格好良かったぞ」
「え、あ、ありがとうございます」
恥ずかしそうに褒めてくれるエレナさんを見て、なんだか僕も恥ずかしくなってしまう。
こんな風に思ってくれたなら、無茶でも頑張って良かった。
「おお! 目が覚めたかテオドルフ殿! 良かった良かった!」
「旦那様! お目覚めだったんですね!」
そう言ってやって来たのは、エルフのアンナさんと魚人の王レオニスさんだった。
まずアンナさんに抱きつかれもみくちゃにされた後、僕はレオニスさんと再会を喜び握手した。
「良かった。レオニスさんもご無事だったんですね。他の魚人の方々も大丈夫ですか?」
「ああ。サハギンの残党を倒したので、今は海底都市の清掃をしている。すぐにもとの綺麗な姿にしてやる。もう海底遺跡とは呼ばせんぞ」
いたずらげな笑みを浮かべながら、レオニスさんは言う。
王族だけど親しみがあって、それでいてカリスマ性も感じるレオニスさんは、どこかパトリック兄さんに似ている気がする。
この人とはなんだか仲良くなれる気がするなあ。
「他に捕えられていた同胞も解放した。全員集めれば200人はいるだろう。この海域が綺麗になれば散り散りになっていた仲間も集まる。海底都市アトランタを拠点とし、私は大きな国を作る! そうして力をつけ、必ずテオドルフ殿の力になる! 困った時は遠慮なく私を頼ってくれ!」
「え、いいんですか?」
同盟を組む約束はしたけど、そこまで頼るつもりはなかったので驚く。
まだ魚人の人たちも大変な時期なのに、そんな約束して大丈夫なのかな?
「当然だ。テオドルフ殿は共に戦場を駆け抜けた盟友にして、我らを救ってくれた大恩人! その恩に報いるのは当然だ。それに私はテオドルフ殿が気に入ったんだ。一度故郷を追われた王族同士、立場は似ているしな」
確かに僕たちの境遇は似ているかもしれない。
王都を追放されて強制的に領主になった僕と、国王である父が戦死したことで強制的に王になったレオニスさん。
「ありがとうございます。それじゃあぜひ助け合いましょう。レオニスさんも困ったことがあったら遠慮なく相談してくださいね」
「ああ、心強い仲間ができて嬉しいよ。こちらこそよろしく頼む」
再び固く握手する僕ら。
心強い仲間ができて嬉しいな。
「……そういえばナディアさんの姿が見えませんが。どこにいるんですか?」
「ナディア様はアトランタで都市の修繕を手伝ってくれているぞ。まだ残党も隠れているかもしれないから、しばらく残ると言っていた」
「そう……ですか」
ナディアさんにもお礼を言いたかったけど、どうやら今はできないみたいだ。
まあでも今会ったら恥ずかしくて顔をちゃんと見れないと思うから、良かったのかもしれない。
それにいつかふらっとやって来てくれると思うしね。お礼はその時に言うとしよう。
ひとまず村に戻って、レオニスさんたちとの同盟についてまとめないとね。
「それじゃあみんな。一旦帰ろっか!」
僕たちは来た時と同じようにトロッコに乗り、帰路につくのだった。




