第22話 「勇者、ドラゴンと戦う」
『ビービー。
魔王様、早く勇者を止めてください』
それは勇者が盗賊からお宝をぶんどってから三日後のことだった。
いつものように水晶で勇者の動向をチェックしていると、突然シス子が慌てだしたのだ。
ハンッ!
なんだ、シス子。
久しぶりに出てきたと思ったら、謝罪の前に命令か?
俺は勝手に身体を操作されたこと、まだ許してはおらんのだぞ?
『それどころではありません。
あれをご覧下さい』
魔王の怒りを「それどころ」とは、ますますもって許せんが、しかしシス子が何に慌てているのか興味があり、ひとまず勇者を注視することにした。
今は見覚えのない神殿にいる。
中央には祭壇があり、そこに何かを供える姿が映し出されていた。
あれが何か知っているのかシス子。
『あれは伝説の大鳥を封印している祭壇です。
復活には特殊な宝玉が必要な筈ですが、なぜあの勇者がそれを持っているのか……』
宝玉ねぇ、と供え物を見る。
確かに不思議な色の宝玉だが、あんなものどこで……あ。
ハッと思い当たった。
勇者は布の袋から宝玉を取り出して供えているのだが、その袋。
あれは盗賊達が持っていたものだ。
知ってて持っていったとは思えないが、さすがは運命に選ばれた子といったところであろう。
『呑気に感心している場合ではありません。
大鳥が復活してしまったら、勇者はこの世界のどこへでも行けるようになってしまうのですよ?』
それの何が問題なのだ?
シス子はここに勇者が乗り込んで来ることを危惧しているのかもしれないが、今の勇者の力ではまだまだ俺を倒すには至らない。
真に残念なことだがな。
『問題はそこでは――。
いえ、もういいです』
一体なんだと言うのだ。
プリプリと怒りをぶつけやがって。
怒りたいのはこっちだった筈なんだぞ。
そんなことを思っている間に、どうやら勇者は大鳥の復活に成功したらしい。
祭壇の奥。深い穴の底から、美しい鳴き声と共に真っ白い鳥が飛び立つのが見えた。
その背に乗った勇者がどこへ向かうのか。
恐らくはシス子が懸念している答えがそこにあるのだろう。
だんだん歯軋りのような音が強くなっているのが、その証左に思える。
それゆえに、大空を進んだ勇者が降り立った時、俺の頭の中はクエスチョンで満たされる。
絶海の孤島。
モンスターの初期配置を決める時、邪魔だとドラゴンを追いやった土地だ。
今の勇者の実力ならばあのドラゴンを倒すことも可能かもしれないが、それがなぜシス子の不興を買うのかが繋がらない。
『やはり勇者の狙いは――』
俺の疑問とぶつぶつ煩いシス子を尻目に、孤島の洞窟内をズンズン進む勇者。
その最奥で、ついにドラゴンと対峙していた。
その初撃。
ドラゴンが口から炎を吐き出すが、それをなんなく避けて斬り込みをいれる。
ピンチになったらどうやって助けようかなどと考えていたが、そんな心配は不要だった。
ドラゴンの攻撃は結局一度も勇者に傷を負わせることなく、あっという間に屠られてしまっていたのだから。
あれ?
いつの間にあんな強くなってたんだ?
雪の国でモンスターを狩りつくした時か?
これならば、そろそろ……。
ついに眠りへの目処が立ちそうだとほくそ笑む俺の視線の先。
ドラゴンが守っていた財宝を物色する姿は、さながらトレジャーハンターのような幼女。
甘やかし過ぎて性根が腐ってしまったかと、己の教育方針を思わず省みてしまう……。
一頻り目ぼしいお宝を回収して満足したのか、勇者は再び空へと舞い上がっていた。
次にどこへ向かうのかは知らんが、今度こそ倒されることが出来るかもしれない。
陸に下りたならば即転移しようと俺は待ち構える。
『それは無用かと』
諦めにも似たシス子の声が聞こえた。
無用?
どういうことだ?
『恐らく勇者はここへ向かっています』
ここへ?
確かに強くはなっていたが、俺が本気で抵抗すれば死んでしまうことは先の戦いで分かっただろうに。
それとも俺がまた無抵抗で攻撃を受けると確信しているとでもいうのか?
俺もそのつもりではあったが、そう思われているというのは癪だぞ。仮にも魔王なのだから、舐められるのは好きではない。
『来ました』
寝たい欲求と魔王のプライドの狭間で逡巡している間に、勇者サラサは魔王城へと辿り着いていた。
警備の兵を軽く蹴散らしつつ進み、そうしてついに玉座の間へ通じる扉を開く。
「この前ぶりだね!」
(よく来たな。本気で俺を倒せるとでも?)
「我を倒せるなどと夢物語。その愚かさ、死をもって償うがよい」
風雲急を告げる魔王城。
勇者の足元で、石畳がグラリと揺れた。




