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第21話 「魔王、盗賊と話し合う」

 ようやく銀の扉を開けた頃には、勇者の身なりは富豪のそれになっていた。

 雪国のモンスターを狩り尽くし、抱えきれない大量の貴金属類を手にした勇者。

 十指は全て煌びやかな宝石指輪で彩られ、首からは幾重にもネックレスをぶら下げてご満悦である。


 いやぁ、それはいかんでしょ。

 あまりの下品さに魔王ドン引きですよ……。


 かつての快活な幼女の姿はそこにはなく、全てを見下すように町を練り歩く様はまさに成金王。

 そして、終始ドヤ顔である。


 うぜぇ。


 すぐさま叱りつけたい衝動に駆られた俺だが、翌日その姿は一変していた。

 勇者は宿屋で全ての財宝を盗まれていたのだ。


 そりゃあれだけ見せびらかしてたら、どうぞ盗って下さいと言っているようなもんだもんな。

 同情より前に、せっかく勇者の金欠を解決出来たと思ったのにと頭痛がしてくる。


 しかし元々は俺のものだ。どこの馬の骨とも分からん輩に取られるのは癪である。

 水晶の中では、勇者も財宝を取り返そうと情報収集に必死。

 町人の胸倉を掴んでは、涙目で情報を吐き出させる幼女。

 いや必死すぎるだろ……。

 金とは、かくも人を変えてしまうのか……。


「に、西のはずれにアジトがあるって聞いたことがあります……」


 切羽詰った幼女の気迫に怯えながらも、町娘が記憶を掘り返して伝えた。


「ありがとっ!」


 ようやく幼女の瞳に活力が戻り、礼を伝えて走り去ろうとするが、その背中を町娘が呼び止める。


「急いだほうがいいですよ。

 やつら、収穫があると船でどこかへ運んでいるみたいなので」


 力強く幼女が頷くが、色濃く焦りが表情に表れているな。

 寝ている間に盗まれたのだから、盗賊共が今どこにいるのかを思案しているのだろう。

 ひょっとしたら間に合わないかもと。


 どれどれ。

 この俺が確認してやるか。


 水晶のチャンネルを回し盗賊を探してみると、情報通りに西のはずれにアジトがあり、難なく探しだすことが出来た。


 お、いたな。

 話し通りに、笑いながら収穫したものを荷造りしているところだ。

 それが終わったらアジトを出て、海へと向かうつもりか?

 そうはさせんぞ。


 状況を確認し、とても勇者の足では間に合わないと判断した俺は、すぐさま盗賊のアジトへと転移する。


 ――。


「うぉう!? なんだテメェ!? どこから現れやがった!」


 鍵じいさんと同じような反応だったがさすがは荒くれ者達だ。

 即時応戦する構えを見せている。

 ここでこいつらを殲滅するのは容易いのだが、それでは余りにも不自然だろう。

 できれば勇者に自分で取り返してもらうのが良い。


 となれば、ここでの俺の役割は――。


(なに。慌てるな)

「楽にせよ。我は戦いに来たのではない」


「あぁ!? 人様のテメェ家に勝手にあがりこんでテメェ、テメェ呑気かテメェ!?」


 それをお前らが言うのか……。

 盗人猛々しいとはまさにこのことだな。


(いやいや落ち着けって。やろうと思えばお前らなんか瞬殺なんだぞ?)

「静まれぃ!

 我を誰と心得る。

 恐れ多くも魔――」


 ストーップ!!

 魔王ってバラすのはダメだろ!!

 あとで盗賊の口から勇者に伝わったら面倒だろうが。


「お、恐れ多くも、まーさんであるぞ!!」


「へぇぁ!? テメェしらねぇぞ?

 おい、誰か知ってるか?」


 頭と思われる奴が振り返り、仲間達に確認するが一様に首を振る。

 うん、そりゃそうだ。翻訳ちゃんとやれ!


「テメェおい、誰もテメェなんざ知らねぇってよテメェ!」


(とにかく、死にたくなければそこを動くな)

「我を余り怒らすでないぞ。

 拍子に殺してしまうやもしれん」


 翻訳君の脅しは効果がないどころか、逆に盗賊達に馬鹿にされる結果となってしまった。


「ぶっははははテメェ!

 おい、聞いたかテメェ? こいつアッタマおかしいぞ!」


 謎のまーさんに殺すとか言われたら、そういう反応にもなるわ。

 テメェテメェ言ってるコイツにだけは頭おかしいとか言われたくないけど。

 しかしのんびり話し合いで解決出来ないなら、目立たない程度に実力行使しかないな。


 ビッと人差し指を、頭の背後で笑い転げている奴に向ける。

「あぁ!?」とそいつが威嚇してくるが構うものか。

 死なない程度にダークサンダーの刑だ。


「あばばばばばばばば!!」


 死にはしないものの、体中から煙を噴出して男が崩れ落ちる。

 その惨状に、しかし頭は振り返り、やられる前にやれと飛び掛ってこようとした。

 実に肝の据わった男だとは思うが、それをバッと両手を広げて俺は制する。


(見えるか? これが)

「見よ。我が手を」


「あぁ!? テメェ!?」


 十本の指には、その一つ一つに先程と同じダークサンダーを纏わせている。

 それに気付き、頭は動きを止めた。


(そうだ。今の技を十人同時に当てることが出来るのだぞ)

「ククク……。

 気付いたようだな……残りは九人か?

 一人だけ二人分の電撃を味わうことになるが、誰がよい?」


「テメェ……テメェ」


 語彙少なすぎだろコイツ。

 テメェだけで俺に何を理解しろと?


(さぁどうする?)

「さぁどうする?」


「テメェの要求はなんだテメェ。

 金か? 命か? テメェ?」


 もうコイツわざとなんじゃないか?

 そこでテメェは明らかにおかしいだろうが。


 まぁいい。

 俺が欲しいものはそのどれでもない。


「あぁ!?

 じ、じゃぁ……俺か? テメェ……」


(アホか!)

「たわけがっ!」


 顔を赤らめながら言うもんだから、ついつい大声を出してしまった。

 若干灼熱の炎が漏れて、頭の頭が大惨事だが無視する。

 自業自得だろ。


(俺が欲しいのは時間だ。

 難しいことじゃない。明後日くらいまでここにいろ)

「我が欲すは時よ。

 もう二度、日が昇り沈むまで貴様らはここを動くな。

 ただそれだけだ」


 それだけでいいの? という盗賊頭を無視し、俺は言うべきことは言ったとその場を後にした。


 そして翌日。

 勇者はアジトに到着し、無事に財宝を回収する。

 だが「テメェ」にイラついたのか、盗賊が持っていたお宝も根こそぎ持って行く勇者であった。



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