第3話:元Sランクのギルドマスターと模擬戦することになったが、ただのステップで完封してしまった件
第3話をお読みいただきありがとうございます!
ギルドの測定水晶を盛大に爆破してしまった歩くん。
静まり返るギルドの奥から、ついにあの「お約束」の人物が登場します。
今回もストレスフリーでお送りしますので、どうぞお楽しみください!
「ひぇっ……!」
真っ二つに割れた受付カウンターの前で、金髪の受付嬢・ミリアさんが短い悲鳴を上げて腰を抜かしていた。
酒場にいた強面の冒険者たちも、全員がジョッキを握ったまま石のように固まっている。
静寂。耳が痛くなるほどの静けさがギルドを支配していた。
国家最高クラスの偽装指輪をつけてなお、俺の体内に満ち満ちる「歩数エネルギー」が溢れ出て測定器を木っ端微塵にしてしまったのだ。完全にやらかした。
「おいおい、昼間から景気の一発が聞こえたと思ったら、なんだこりゃあ?」
ギルドの奥にある重厚な扉が開き、地響きのような低い声が響いた。
現れたのは、全身傷だらけの巨大な大剣を背負った、スキンヘッドの筋骨隆々なオッサンだった。片目には眼帯。威圧感が尋常じゃない。
「ギ、ギルドマスター! この特例登録の少年が、測定水晶を……!」
ミリアさんが震える指で俺を指差す。
ギルドマスターと呼ばれたオッサンは、鋭い眼光で粉々になった水晶と、俺の顔を交互に見つめた。
「ふむ……。小僧、見たところレベル10程度のヒョロガリにしか見えんが……水晶が不良品だったか、あるいは、とんでもない『化け物』か、どちらかだな」
オッサンはニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、背中の大剣をワシ掴みにした。
「俺は元Sランク冒険者のガルフだ。小僧、お前の実力、この俺が直々に確かめてやる。裏の訓練場へ来い。一手でも俺に攻撃を当てられたら、即座にAランク冒険者として登録してやるよ」
「いや、俺はただのんびり観光がしたいだけのFランク希望なんですが……」
「問答無用だ!」
拒否権はなかった。というか、ガルフさんの腕力で半ば強引に訓練場へと連行されてしまった。
ギルドの裏手にある、頑丈な石壁に囲まれた広い訓練場。
ギャラリーとして、酒場にいた冒険者たちもゾロゾロと集まってきている。
「おいおい、あの新人、ガルフさんとやるのかよ」
「気の毒にな、ガルフさんの模擬戦は手加減ナシで有名だぞ。病院送りじゃ済まねえぞ」
不穏なヒソヒソ話が聞こえてくる。
だが、対峙する俺の視界には、また別のウィンドウがピコンと跳ね上がっていた。
『ガルフ(元Sランク冒険者)を認識しました。想定レベル:75』
『現在のあなたのレベル:248』
(……あ、俺の方がトリプルスコア以上で強いわ)
前世のゲーム感覚で言えば、レベル75のボスにレベル248で挑むようなものだ。負ける要素がどこにもない。むしろ、手加減を間違えたらガルフさんを消し飛ばしてしまう。
「おい小僧、武器は持たんのか? 武器屋で買った鈍らでもいいぞ」
「いえ、俺は素手で大丈夫です。あと、こちらからは攻撃しません。避けるだけで」
「舐めやがって……! 後悔するなよ!」
ガルフさんが地面を蹴った。大巨体からは想像もつかない爆発的な踏み込み。一瞬で俺の懐に潜り込み、巨大な大剣が真上から振り下ろされる。
ブンッ!!!
空気を切り裂く轟音。普通の人間なら風圧だけで気絶する一撃。
だが、俺の目には、その大剣の軌道が止まっているかのように遅く見えた。
(よし、いつも通り……右へ一歩!)
サッ。
俺はウォーキングの方向転換の要領で、右側へ綺麗に一歩ステップを踏んだ。
ピコン。
『1歩をカウントしました。1ポイント獲得』
『レベルが上がりました。Lv248 → Lv249』
「なっ……!? 消え――」
ガルフさんの大剣が空を切る。驚愕に目を見開くガルフさん。
間髪入れず、彼は大剣を横薙ぎに振り抜いてきた。
(次は左へ一歩!)
サッ。
流れるようなサイドステップ。完璧なフットワークだ。
ピコン。
『1歩をカウントしました。1ポイント獲得』
『レベルが上がりました。Lv249 → Lv250』
『スキル【残像】を獲得しました』
「ば、馬鹿な! 当たらん……! 一度も剣筋がかすりもしないだと!?」
ガルフさんが我を忘れて大剣を振り回す。縦、横、斜め、怒涛の連続攻撃。
しかし、俺はその場からほとんど動かず、ただ右へ左へ、リズム良く「散歩」のステップを踏み続けるだけ。気分は完全に、前世の朝のラジオ体操だ。
サク、サク、サク、サク。
ピコンピコンピコンピコンッ!
『Lv255に上がりました』
『Lv260に上がりました』
「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」
数分後。ガルフさんは大剣を地面に突き立て、肩で激しく息を荒くしていた。完全にスタミナ切れだ。
対する俺は、息一つ乱れていない。むしろ歩数が稼げてちょっと調子が上がってきたくらいだ。
「おいおい……嘘だろ……?」
「あのガルフの猛攻を、ただのステップだけで完封しやがった……」
「しかもあいつ、一歩動くたびに、なんか背後に残像が見えなかったか!?」
ギャラリーの冒険者たちが、顎が外れんばかりに驚愕している。
ガルフさんはガクガクと震える手で大剣を背中に戻すと、信じられないものを見る目で俺を見つめ、こう呟いた。
「小僧……いや、歩殿。あんた、一体何者だ? 今のステップ……ただの体術じゃねえ。空間そのものを置き去りにするような神速の歩法だ。一体どんな修行を積めばそんな足腰になる?」
「え? いや……毎日1歩、ポイ活のために散歩してただけですが……」
「さんぽ……? 神の領域の修行を『散歩』と呼ぶのか……!」
ガルフさんはガタガタと震えながら、完全に何かを勘違いした目で俺を拝み始めた。
おかしいな、ただ避けてただけなのに、また変な伝説が作られようとしている気がする。
(現在の歩数:2,184歩 / レベル:263)
第3話をお読みいただきありがとうございました!
元Sランクのギルドマスターを、ただのラジオ体操ステップで完全攻略してしまった歩くんです。歩けば歩くだけレベルが上がるので、避けている間にもどんどん強くなっていくという鬼畜仕様(笑)。
ガルフさんの中では、すでに「隠れて血の滲むような修行をしてきた孤高の天才」ということになってしまいました。
次回、ついに冒険者カードが発行されますが、果たしてどのランクになってしまうのか!?




