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理(ことわり)を綴り直す無能  作者: 最後に残った形
本編

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第4章 第2話:不完全なる理(ことわり)


 アイギス中央、天空を貫く管理塔『エトワール』。

 その最上階、虚無の空間に浮かぶ「聖域」にて、カイルはかつての自分を呪い、そして生み出した男と対峙していた。

 カイルの背後には、管理局が動員した数万の魔導艦隊と、数百万の無人実行機イレイザーが空を埋め尽くしている。


「……久しぶりだな、父さん。いや、世界を綴り損ねた狂人よ」


 始祖の魔導士は、カイルと同じ『古代文字ロゴス』を、より巨大な、そして無慈悲な法則として操っていた。

「カイル、我が息子よ。お前が選んだ『家族』という欺瞞は、この完璧な管理秩序の前では塵に等しい。戻れ。私と共に、この歪んだ世界を最初から綴り直すのだ」


 老人が指を動かす。それだけで、背後の全軍が一斉に、数式通りの完璧な殺意となってカイルへ放たれた。

 火炎、雷光、重力崩壊。現代魔導の極致が、空を焼き尽くす。


「――伏せろ。ことわりを『家族』で上書きする」


 カイルが静かに呟いた。

 次の瞬間、迫りくる絶滅の光は、カイルの足元に咲く一輪の野花へと変質し、数万の魔導艦隊は、リナがかつて描いた「不格好な船の絵」のような、頼りない木彫りの玩具へと書き換えられた。


「な、なんだと……!? 秩序ある術式を、そのような不確かな、個人的な記憶で汚すというのか!」

 始祖の叫びに、カイルは初めて、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「父さん、あんたは完璧を求めた。だが、俺が守りたかったのは、泥にまみれた作業服や、焦げたスープや、娘がくれた安物のプレゼントだ。……不完全だからこそ、この理はあんたの数式には解けない」


 カイルの放つ『理』が、始祖の絶対領域を侵食していく。

 だが、始祖が放つ「存在消去」の波動が、カイルの肉体を蝕み始める。因果律の格差。父の力が、わずかにカイルを凌駕しようとしたその時。


「――観測完了。この事象、私が『肯定』する」


 不意に、戦場に場違いな声が響いた。

 ボロボロになったコートを翻し、執行官レイスが管理塔の制御端末を直接ハッキングして現れた。

「レイス!? 貴様、管理局を裏切るか!」


「裏切りではない。私は執行官として、より『面白い真実』を記録するだけだ」

 レイスが端末を叩く。管理社会の監視網が逆回転し、始祖がインフラから吸い上げていた膨大な魔力を、一瞬だけカイルへと流し込んだ。


「カイル・ヴァン・クロムウェル。……最後の『書き換え』を。あなたの欺瞞が真実になる瞬間を、私に見せろ!」


 カイルの右手に、七色の光が集束する。

 それは古代魔法でも現代魔導でもない。家族と過ごした、あの不器用な日常という名の『理』。


「――綴り直せ。この世界に、ただ一日の、退屈な平和を」


 カイルが放った一撃は、始祖の存在、管理社会の呪縛、そしてカイル自身の「規格外の力」さえも巻き込み、光の渦となって世界を包み込んだ。

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