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理(ことわり)を綴り直す無能  作者: 最後に残った形
本編

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第4章 第1話:世界の敵


 アイギスの空を覆っていた管理網の雲が、あの日を境に赤く染まっていた。

 『聖アイギス中央魔導院』の崩壊。それは、管理社会始まって以来の、そして最大級の「システムの死」を意味していた。


 都市から遠く離れた、不毛の荒野――『管理外区域アウトランド』。

 かつての大戦で焦土と化し、現代の魔導インフラが届かない見捨てられた土地に、三つの人影があった。


「パパ、あのお城、壊れちゃったの……?」

 カイルの背中で、リナが不安そうに遠くの空を見つめている。

「ああ。あそこは、少しだけルールが古すぎたんだよ」

 カイルの声は穏やかだったが、その瞳は常に周囲の『因果律の揺らぎ』を警戒していた。隣を歩くエレンは、何も言わず、ただ夫の震える手を強く握りしめていた。彼女はもはや、カイルが何者であるかを問う必要はないと悟っていた。彼が誰であろうと、自分たちを救い、守り抜いた事実だけがすべてだった。


 その頃。

 瓦礫の山と化した学院の中央聖堂跡に、一人の男が立っていた。

 レイスは、全身に切り傷を負い、執行官のコートもボロボロになりながらも、その瞳にはかつてないほどの『生命の光』が宿っていた。


「……計測不能。因果の断絶。論理の崩壊」

 彼は手元の端末を粉々に握りつぶし、血の混じった笑みをこぼした。

「素晴らしい。数式を、秩序を、神の理すらも踏み躙る絶対的な不条理。カイル・ヴァン・クロムウェル……。あなたが導く結末なら、この世界が滅びるとしても、私はそれを見届けたい」


 レイスの背後に、管理局の特務部隊『イレイザー』が音もなく集結する。彼らは管理局の最高意思決定機関から、全権を委任された抹殺部隊だった。

「レイス執行官。ターゲットの座標は特定した。全軍、空間転移の準備は完了している」

「……いや。奴に挑むのは、我々ではない」

 レイスは、学院のさらに地下深部、カイルですら手を出さなかった『禁忌の封印』へと視線を向けた。


 そこには、管理社会のインフラを維持するための巨大な魔導炉の心臓部があった。

 そして、その心臓部に繋がれた一人の老人が、ゆっくりと瞳を開けた。

 老人の周囲には、カイルと同じ『古代文字ロゴス』が、さらに禍々しい黒い光を放って蠢いていた。


「……ようやく、現れたか。私の『最高傑作』、そして、私を捨てた裏切り者の息子よ」


 老人の一言が放たれた瞬間、アイギスの街全体の魔力が、一気に「負」の方向へと反転した。

 カイルがひた隠しにしてきた力。それは、この老人が作り上げた『世界を綴り直すための筆』の一部に過ぎなかったのだ。


 荒野を進むカイルの足が、突如として止まった。

 彼の頬を、一筋の冷たい汗が流れる。

 (……親父か。ついに、目覚めてしまったのか)


 カイルは空を仰いだ。

 そこには、かつて彼が戦場で見上げた、地獄そのものの色が広がろうとしていた。

 愛する家族を守るための「欺瞞」は、今、世界の存亡を賭けた「真実の闘争」へと塗り替えられる。


「エレン、リナ。……少し、走らなきゃいけなくなりそうだ」


 カイルは二人を抱きかかえ、一歩、踏み出す。

 その足元から、大地が虹色に輝き、空間が極限まで圧縮される。

 ことわりを綴り直す男の、最後の逃亡劇が始まった。

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