第8話 聖女レイナ5歳編 歌貝の小さな奇跡
レイナの5歳の誕生日に、各国から贈り物が届いた。
その中に、東方の島国から送られたとされる、真珠のように輝く貝殻があった。
普通の貝殻より少し大きく、触るとほんのり温かい。
レイナはすぐに気に入り、「おうち」と言って、水を張った洗面器にそれを入れ、自分の部屋に置いた。
それから3日後の夜中のこと。
王宮の警備兵が、「レイナ様の部屋から、歌のような、でも言葉にはならない美しい音が聞こえる」と報告した。
心配した王とエラが駆けつけると、レイナはベッドでぐっすり眠っており、その傍らの洗面器では、あの貝殻が微かな青白い光を放ち、確かにかすかな、鈴を転がすような音を立てていた。
宮廷魔術師長のマルコムが呼ばれ、慎重に調べた。
分厚い古書を何冊もめくり、ルーペで貝殻の表面の微細な紋様を観察した彼は、複雑な表情で言った。
「これは……『歌貝』と呼ばれる、非常に古い種の貝です。水の精霊が宿り、澄んだ水と純粋な心を持つ者の傍らで、癒しの歌を奏でると言われています。しかし……」
マルコムは窓の外を見て、首をかしげた。
「記録では、こうした貝は清らかな泉や海辺でしか活性化しないはずです。ここまで内陸の王宮で、しかもただの井戸水でこれほどはっきりと反応するとは……考えられません」
彼は複雑な顔でレイナの寝顔を見た。
「彼女の傍らでは、常識が通用しませんな」
結局、貝はレイナの希望で庭の池に移され、時折、月明かりの下で美しい光と音を奏でるようになった。
兵士たちの間では、「聖女様の貝の歌を聞くと、翌日はなぜか怪我が早く治る」という噂が立った。
噂は王の耳にも入った。
マルコムは首を振りながらも、記録を付け始めた。
「精霊の癒しの力が、水を通じて周囲に微かに影響を与えている可能性はあります。ですが、それにしてもこの範囲と効果は……やはり、レイナ様が媒介となっているのでしょう」
レイナ自身は、そんな噂を気にする様子もなく、毎日池に「おうち」の貝を見に行くのが楽しみだった。彼女は石の縁に座り、足をばたばたさせながら、貝に話しかける。
「今日はね、お庭でお花を見つけたよ。黄色くて、ちっちゃいの」
貝は光をほんのり強くし、音色が少し明るくなるような気がした。
それ以来、王宮の人々は、あの歌貝を単なる珍しい贈り物ではなく、レイナと共にここに在る、小さな癒しの存在として受け入れるようになった。
彼女の「おうち」になった歌貝の、ほんのり不思議でほっこりする日々は、まだまだ続いていくのであった。




