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【連載版】聖女は3歳児でした  〜聖女誕生からレイナ成長記録〜  作者: ぶっくん


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第43話 聖女レイナ16歳編 笑顔たくさん音楽祭

レイナが16歳になった春、王国は「退屈の霧」の記憶も遠のき、人々の暮らしは穏やかで豊かだった。


しかしレイナの心には、ある疑問がふくらんでいた。


「おじいちゃん王様、最近気づいたんだけど……」


ある午後、王宮のバルコニーで紅茶を飲みながら、レイナは王様に話しかけた。


「城の中ではいつも音楽が流れているし、貴族の方たちは立派な楽器を持っている。でも、街を歩いていると、普通の人たちはあまり音楽を楽しんでいないみたい」


王様は湯気の立つ紅茶のカップを手に、レイナの言葉に耳を傾けた。


「ふむ、確かにそうかもしれぬ。音楽教師を雇えるのは裕福な家だけじゃ。楽器も高価なものばかり……」


「それじゃあ、みんなが平等に音楽を楽しめないよ!」


レイナは立ち上がり、目を輝かせた。


「だから提案があるの。『笑顔たくさん音楽祭』を開きたい! 身分もお金も関係なく、誰でも参加できる音楽祭!」


王様は一瞬眉をひそめたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「それは素晴らしい考えじゃ。だが、どうやって実現するのじゃ? 楽器も場所も、お金がかかるぞ」


「大丈夫! みんなで知恵を絞ればきっとできる!」


レイナは早速、行動を始めた。


まず宮廷楽団長のルドルフを訪ねた。


「ルドルフさん、使わなくなった楽器はありませんか? 少し傷んでいても、直せば使えるもの」


「聖女様、確かに倉庫に古い楽器が……ですが、それらを一般の方に?」


「そうです! 音楽を愛する気持ちは誰にでもあるはず。楽器がなくて諦めている人がきっといる」


ルドルフは考え込んだが、レイナの熱意に負けた。


「では、楽器の修理から始めましょう。宮廷楽団のメンバーに、ボランティアで教えるよう呼びかけます」


次にレイナは、魔術師長マルコムのところへ走った。


「マルコムさん、音を大きくする魔法とか、楽器を作る魔法ってありますか?」


マルコムは長いひげをなでながら答えた。


「音を増幅する魔法はありますが……むしろ、簡単に作れる楽器の方を考えた方がよいかもしれませんな」


「それもいい! たとえば、空き瓶でオルゴールとか!」


「うーむ、それは私の専門外ですが……厨房のマダム・ベルナールに相談されては?」


レイナは目を見開いた。


「マダムが楽器を作る?」


「いや、空き瓶をたくさん持っているのは彼女ですからな」


こうして、王国中が「笑顔たくさん音楽祭」の準備に巻き込まれていった。


宮廷楽団のメンバーは毎週末、広場で無料の音楽教室を開いた。


最初は恥ずかしがっていた子どもたちも、次第に笑顔で楽器に触れるようになった。


大工たちは廃材を使って簡単な打楽器を作り、主婦たちは空き瓶に水を入れて音階を作る方法を編み出した。


「聖女様、見てください! この瓶、『ド』の音が出るんです!」


市場の野菜売りのおばさんが、嬉しそうに空き瓶を叩いて見せた。


「すごい! それなら、レの音はこの大きさの瓶で……」


レイナも夢中になって、瓶オーケストラの編成を考えた。


しかし、問題も起こった。


ある貴族が王様に苦情を言いに来たのである。


「陛下、街の広場で庶民が騒々しい音楽を……あれは音楽とは呼べません。不協和音ばかりで、耳が痛くなります」


王様はゆっくりと答えた。


「音楽の美しさは、完璧な調和だけにあるのではない。楽しむ心があれば、それだけで立派な音楽じゃ」


「ですが、身分の違いを忘れさせかねません!」


その時、レイナが部屋に飛び込んできた。


「違いを忘れるのがいけないんですか?」


レイナの声はいつもより少し強かった。


「音楽祭は、違いをなくすためじゃないの。違いを認めながら、一緒に何かを作り上げるため。貴族の方も、街の人も、みんな同じ王国の住民でしょう?」


貴族は言葉に詰まった。


レイナは続けた。


「それに、実はお願いがあったんです。音楽祭の開会式で、貴族の方たちの合唱団と、街の瓶オーケストラが一緒に演奏できないかって」


「……い、一緒にですか?」


「そうです! 貴族の方たちの美しいハーモニーと、瓶の澄んだ音が合わされば、きっと素敵な音楽になると思うの」


貴族はしばらく考え、ゆっくりとうなずいた。


「……試してみましょう。ただし、リハーサルは厳しくやらせていただきます」


「ありがとうございます!」


音楽祭当日。


王宮前の大広場は、かつてないほどの人々で埋め尽くされた。


貴族も平民も、商人も農民も、みんなが肩を並べていた。


ステージでは、ルドルフ楽団長の指揮で、宮廷楽団と街のアマチュア音楽家たちが一緒に練習を重ねた曲が演奏された。


少し音が外れることもあったが、誰も気にしない。むしろ、その一生懸命さが観客の笑顔を引き出した。


そしてメインイベント。


貴族の合唱団が美しい旋律を歌い上げると、街の人々の瓶オーケストラがそれに合わせて伴奏した。


「ドレミファソーラシドー!」


瓶を叩く音が、澄んだ音色でハーモニーを支える。


最初は緊張していた貴族たちも、次第に笑顔になり、自然に体がリズムに乗り始めた。


「おじいちゃん王様、見て!」


レイナが王様の袖を引いた。


広場の隅では、かつて苦情を言ったあの貴族が、野菜売りのおばさんから瓶の叩き方を教わっていた。


「こうやって叩くんですよ、閣下」


「む、むむ……なるほど、リズムが難しいのう」


「最初はみんなそうでしたよ。でも楽しんでやれば、すぐに慣れます!」


王様は深く感動した。


「レイナ、これが本当の平和というものじゃな。キリンの小道で見た共存が、ここでも……」


突然、ステージ上でサプライズが起こった。


マダム・ベルナールがステージに上がり、料理用の鍋やフライパンを持ち出したのである。


「せっかくですから、厨房の音楽もお聞かせしましょう」


彼女が言うと、厨房のスタッフたちが、鍋、フライパン、ボウル、泡立て器を持ってステージに並んだ。


そして始まった「厨房シンフォニー」。


泡立て器のカラカラという音、鍋を叩くドンドンという音、フライパンを振るシャカシャカという音。


それらが意外にも心地よいリズムを生み出し、観客から大きな笑い声と拍手が起こった。


「マダム、すごい! それ、次の晩餐会で使おう!」


レイナが叫ぶと、マダム・ベルナールは照れくさそうにうなずいた。


音楽祭は夕方まで続き、最後は全員で王国の歌を合唱した。


身分も年齢も関係なく、何百もの声が一つの旋律になった。


夕日が広場をオレンジ色に染める中、レイナは王様にささやいた。


「おじいちゃん王様、これが私の願った光景。みんなが笑顔で、違いを超えて一緒に何かを作り上げる」


王様はレイナの肩に手を置いた。


「レイナの小さな優しさが、また大きな幸せを生んだのじゃ。この音楽祭、来年も続けるかの?」


「もちろん! 来年はもっとすごいことを考えたいな。たとえば……隣のトナリーノン王国も招待するとか!」


「おお、それは素晴らしい! キィーリンの小道を通って、音楽の交流か!」


その夜、城に戻ったレイナはすぐに手紙を書き始めた。


トナリーノン王国のマミーレン外務大臣へ。


「来年、一緒に音楽祭を開きませんか? 音楽には国境もないし、きっとキィーリンたちも喜ぶと思います」


窓の外からは、まだ遠くで音楽祭の余韻に浸る人々の笑い声が聞こえてきた。


レイナはペンを置き、ほほえんだ。


16歳の春、彼女はまた新たなことを学んだ。


本当の平和とは、静かなことだけではない。


時には、いろんな音が混ざり合い、時には不協和音も生まれながら、それでも一緒に音楽を作り上げていくこと。


それが、笑顔たくさんの王国の姿なのだと。


次の日から、王国のあちこちで新しい習慣が生まれた。


朝の市場では野菜売りのおばさんが瓶を鳴らし、夕方の広場では貴族の子弟が街の子どもたちに楽器を教える。


そして時折、厨房から聞こえてくるリズミカルな調理音が、城全体に軽やかなハーモニーを響かせた。


レイナは自分の部屋で、次の計画を考えていた。


「音楽の次は……そうだ、絵画祭も面白いかも。みんなで大きな壁画を描くの!」


彼女の頭の中には、もう次の「笑顔たくさん」が膨らみ始めていた。


王国の平和は、静かなものから、賑やかで温かいものへと、少しずつ形を変えていった。


そして誰もが、その変化を心から歓迎していた。


なぜなら、そこには常に笑顔があり、音楽があり、そして何よりも──優しさが脈打っていたからである。

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