表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】聖女は3歳児でした  〜聖女誕生からレイナ成長記録〜  作者: ぶっくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/49

第44話 聖女レイナ16歳編 秋の絵画祭

レイナの「笑顔たくさん音楽祭」が大成功を収めたその秋、王国の広場は再び活気に満ちた。


今度は絵の具の香りと、笑い声が混ざり合う。


「みんな、自由に描いていいよ! この大きな壁は、王国みんなのキャンバスなんだから!」


レイナは広場に設置された巨大な白い壁の前で、大声で呼びかけた。

音楽祭の成功で自信をつけた彼女は、今度は絵画を通じて、さらに多くの人々の創造性を引き出そうとしていた。


最初は誰もが遠慮がちだった。


貴族の子弟は「絵画は高尚な芸術」と眉をひそめ、街の子どもたちは「下手だと笑われる」と恐る恐る筆を取った。


しかし、レイナが自ら大きな筆を持ち、壁に無造作に明るい黄色の円を描き始めると、空気が変わった。


「これは太陽! 誰か、周りに青を足して空にしてくれない?」


市場の果物売りの少年が勇気を出して一歩前に出た。


「ぼ、ぼくが! 青は好きだ!」


少年が大胆に青い絵の具を塗ると、貴族の少女がそっと近づいた。


「その青……少し緑を混ぜたら、もっと深い空の色になるわよ。見てて」


少女がパレットで色を混ぜ、優しく筆を取って手伝う。少年の目が輝いた。


「す、すごい! 本当に空みたい!」


こうして、壁には最初の共同作品が生まれた。

輝く太陽と、深い青緑の空。


それをきっかけに、人々の緊張が解け始めた。


大工たちは木材の端材で大きなスタンプを作り、模様を押し始めた。


主婦たちは野菜の切れ端でスタンプを作ることを思いつき、にんじんの輪切りで可愛い円模様を追加した。


「マダム・ベルナール、今度は厨房から何か持ってきてくれませんか?」


レイナが呼びかけると、マダムはにっこり笑って答えった。


「もちろんですとも、聖女様。でも今回は鍋じゃありませんよ。見てください、このフォークとスプーンで描く線画はどうでしょう?」


マダムがフォークの背で壁に細い線を引くと、意外にも繊細な模様が浮かび上がった。

周りから感嘆の声が上がる。


「それなら、ぼくたちは石で!」と、石工の親方が小石を絵の具に浸し、壁に押し当てて面白い質感を作り出した。


しかし、音楽祭の時と同じように、問題も訪れた。


宮廷画家のアンソニーが、壁の前で腕を組んで深くため息をついた。


「聖女様、これは……芸術とは呼べません。色は濁っているし、構図もデタラメ。絵画とはもっと厳格で、洗練されたもの……」


レイナはアンソニーの前に立ち、真剣な表情で言った。


「アンソニーさん、確かにあなたの描かれる肖像画や風景画は素晴らしい。でも、この壁の絵は別のものなんです。これは『一緒に作る喜び』を描いているの。完璧じゃなくてもいい。むしろ、その不揃いさが、みんなが参加した証だと思う」


アンソニーは眉をひそめたまま壁を見つめた。

そこには確かに、技術的には稚拙だが、どこか温かみのある絵が広がっていた。


太陽の周りには、子どもが描いた歪んだ鳥たちが飛び、その下には貴族の女性が描いた優雅な花々が咲き、その横には職人が描いた力強い山々が連なっている。


「……では、せめて陰影の付け方だけでも」

アンソニーが突然、筆を手に取った。


「この山に少し影を加えれば、立体感が出ます。こうして……」


彼が数筆加えると、確かに山がぐっと生き生きとした。


「わあ! 魔法みたい!」

近くで見ていた石工の少年が叫んだ。


アンソニーの口元がわずかに緩んだ。


「魔法ではない。ただの技術だ。……君もやってみるか?」


その日、宮廷画家アンソニーは初めて、石工の少年に絵画の基本を教えた。


そして少年は、アンソニーに石の質感の描き方を「教えた」


石を砕いた粉を絵の具に混ぜるという、アンソニーにとっては思いもよらない技法で。


夕暮れ時、巨大な壁はカラフルな物語で埋め尽くされた。


中央の太陽から広がる光の線は、様々な人々の手によって描かれた王国の日常へとつながっていた。


市場の賑わい、田園の風景、城の尖塔、厨房の鍋までが、愛嬌たっぷりに描き込まれていた。


「これが……私たちの王国なんだね」


かつて音楽祭に苦情を言ったあの貴族が、感慨深げに呟いた。


彼の隣には、瓶オーケストラで知り合った野菜売りのおばさんが立っていた。


「閣下も何か描かれませんか? まだ隅に空きがありますよ」


「む、むう……では、私の愛犬を描かせてもらおう。小さなスパニエルでな……」


貴族が慎重に筆を取ると、おばさんが突然提案した。


「その犬、野菜かごの横に座らせたらどうです? うちの市場によく来る犬みたいで、可愛いですよ」


「……なるほど、それもよいかもしれぬ」


二人が合作する小さな犬と野菜かごの絵が、壁の隅をほっこりと埋めた。


王様はバルコニーからその光景を眺め、深く満足そうに頷いた。


「音楽に続き、絵画でも人々が一つになる。レイナの優しさは、本当に王国を変えていくのう」


その夜、レイナは再び手紙を書いた。

トナリーノン王国のマミーレン外務大臣へ、絵画祭の報告と、来年の音楽祭への正式な招待を添えて。


「キィーリンの小道を通って、トナリーノン王国の皆さんもぜひ私たちの『笑顔たくさん祭り』に参加してください。音楽も絵画も、国境を越えて分かち合えることを、私たちは学びました」


窓の外では、月明かりに照らされた巨大な壁画が、優しく輝いていた。

それは完璧な芸術作品ではなかったが、誰もが誇りに思える、王国の共同作品だった。


次の日から、王国の様子はまた少し変わった。


広場の壁画はそのまま保存され、人々の憩いの場となった。


子どもたちは「あの太陽はぼくが描いた部分!」と指さし、大人たちは合作のエピソードを語り合った。


宮廷画家アンソニーは、週に一度、広場で無料の絵画教室を開くことを申し出た。


生徒には貴族も平民も混ざり、時には互いにモデルになり合った。


そしてレイナは、自分の部屋で次の計画を考えていた。


「音楽と絵画の次は何を開催しようかな」


彼女の机の上には、既に次の祭りの構想メモが幾つも並び始めていた。


そこには、隣国トナリーノン王国からの返信もあった。


マミーレン外務大臣の熱烈な賛同と、数名の音楽使節を派遣するという約束が記されていた。


王国の平和は、静寂から生まれた調和から、多様な声と色が混ざり合う豊かなハーモニーへと進化しつつあった。


そしてその中心には、常に16歳の少女の、他者を思いやる小さな優しさと、それを形にしようとする大きな勇気があった。


秋風が窓から吹き込み、机の上のメモをそっと揺らした。その紙の上には、レイナの走り書きが見えた。


「笑顔は、分かち合うほどに増えていく。次は、もっとたくさんの人と」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ