第42話 聖女レイナ16歳編 虹色のケーキ
16歳になったレイナは金色の巻き毛をいつものように一つに結び、エプロンをぴんと張って厨房に立っていた。
窓の外には、もうほとんど見られなくなった「退屈の霧」の名残りが、朝もやのようにほんのり漂っている。
「おじいちゃん王様の誕生日が来週だね、マダム!」
レイナは宮廷副料理長のマダム・ベルナールに、茶色の瞳をきらきらさせながら話しかけた。
「そうですね、聖女様。例年通り、盛大な晩餐会が開かれます」
マダム・ベルナールは厳しい口調ながらも、レイナが刻んだにんじんのウサギ形を見て、わずかに口元を緩めた。
「でも、例年通りじゃつまらないよ!」
レイナは窓辺に駆け寄り、外の微かな霧を見つめた。
「去年は虹スープで退屈を追い払ったけど、今年はもっとすごいことをしたいの。退屈の霧を使って、絶対に退屈しない誕生日ケーキを作る!」
マダム・ベルナールはため息をついた。
「聖女様、退屈の霧で遊んではいけませんと何度言えば」
「遊びじゃないよ!これは……霧の調理法の新発明だよ!」
その時、厨房のドアが開き、老魔術師長マルコムがゆっくりと入ってきた。
「レイナ殿、王の誕生日について相談があると聞いて」
「マルコムさん、ちょうどよかった!霧をケーキに閉じ込める魔法、手伝ってくれる?」
マルコムは長い白ひげをなでながら考え込んだ。
「霧を物理的に閉じ込めるのは難しいが……もし霧の性質を一時的に変化させるのであれば」
3日後、厨房は実験場と化していた。
レイナの指揮のもと、霧は金色の光の糸で優しくかき混ぜられ、七色に輝く「ケーキ用霧」へと変化していた。
「霧さん、お願い!ケーキの中で小さな驚きを生み出してね!」
レイナが呪文のような言葉を唱えると、霧はふわふわと泡立ち、甘い香りを放ち始めた。
マダム・ベルナールは眉をひそめながらも、プロの腕前でスポンジ生地を準備していた。
「聖女様、霧が生地を台無しにしたら、普通のケーキを2つ焼く時間的余裕はありませんよ」
「大丈夫!霧さんは約束を守ってくれるから」
レイナの確信は、彼女が10歳の時から霧と「遊ん」できた経験に裏打ちされていた。
誕生日当日。
大広間には王国の重臣たちが集まり、長いテーブルにはごちそうが並べられていた。
しかし誰もが一番気にしていたのは、中央に置かれた不思議なケーキだった。
高さ三層のケーキは、普通のクリームとフルーツで飾られていたが、ところどころに虹色の輝きがちらついている。
「さて、レイナ。今年の驚きは何かな?」
王は温かい眼差しでレイナを見つめながら、椅子に座った。
「おじいちゃん王様、まず一切れ食べてみて!」
レイナが慎重にケーキを切り分け、王に皿を渡した。
王がフォークで一口を口に運んだ瞬間
ケーキから小さな虹がぱっと広がり、王の周りをくるくると舞った。
同時に、軽快な音楽がどこからともなく聞こえてきた。
「おお!これは!」
財務大臣が二切れ目を食べると、彼の頭の上に小さな雲が現れ、金色のコインがシャワーのように降ってきた。
もちろん幻ではあるが。
「私の予算案のインスピレーションが湧いてくる!」と彼は叫んだ。
魔術師長マルコムが一切れを味わうと、彼のひげが一時的に虹色に輝き、周囲から笑い声が上がった。
「霧がユーモアを覚えたようだな」とマルコムは照れくさそうにひげを整えた。
しかし、問題が起こった。
国防長官がケーキを食べた時、彼の周りに小さな霧の兵隊が現れ、テーブルの上で行進を始めたのだ。
「秩序を乱すとは何事だ!」と国防長官が叫ぶと、霧の兵隊は慌てて解散し、ケーキの上に小さな虹の橋を残した。
「ごめんね、霧さん、ちょっと調子に乗りすぎちゃったみたい」
レイナが謝ると、ケーキ全体が優しく輝き、まるで「大丈夫だよ」と言っているようだった。
マダム・ベルナールが最後に一切れを口にした。
彼女の周りには何も起こらなかった。
しばらくの間は。
突然、彼女の厳しい口元が緩み、思わず笑みがこぼれた。
「なんてことでしょう。急に、新しいデザートのレシピを考えたくなってきました」
周囲が驚いて彼女を見つめる中、マダム・ベルナールは少し恥ずかしそうに言った。
「霧の効果は人それぞれのようですな。私の場合は、創造的な衝動が湧いてくるようです」
宴は笑いと驚きに包まれ、これまでで最も退屈しない王の誕生日となった。
夜が更け、客が帰った後、王はレイナを側に呼び寄せた。
「レイナ、素晴らしい誕生日をありがとう。だが一つ聞きたい。あのケーキ、霧はどうなったのだ?」
レイナはいたずらっぽく笑った。
「霧さんはね、みんなの笑顔を食べてお腹いっぱいになったんだよ。だからもう退屈しなくなったの。しばらくは現れないって」
彼女は窓の外を見つめた。
確かに、ここ数日見られていた微かな霧は完全に消えていた。
「でもね、もし霧さんがまた退屈して戻ってきても大丈夫」
レイナはエプロンを握りしめ、瞳を輝かせた。
「今度は霧でアイスクリームを作ってみようと思ってるの!退屈な霧を、涼しくて楽しいデザートに変えるんだ!」
王は深くため息をついたが、その目は笑っていた。
「わかった、わかった。だが次に厨房で魔法を使う前には、必ずマダム・ベルナールの許可をもらいなさい。約束だよ」
「約束する!だって、マダムの許可がないと、霧さんだってちゃんとしたアイスクリームにならないからね!」
次の朝、厨房からはまた楽しい声が聞こえてきた。
「聖女様、霧のアイスクリームの話はさておき、まずは普通のスポンジケーキを完璧に焼くことから始めましょう。退屈かもしれませんがね」
「大丈夫!退屈になったら……あ、でも霧さんは休暇中だね。じゃあ、私が歌を歌いながらやる!」
レイナの本質は、相変わらずだった。
王国を救う聖女でありながら、退屈を追い払う発明家であり、そして何よりも──笑顔を作る料理人なのである。
厨房から流れてくる歌声と、甘いケーキの香りが、朝の宮殿を包んでいた。




