第41話 聖女レイナ15歳編 退屈の霧と虹色のスープ
15歳になったレイナは、腰まで伸びた金色の巻き毛を一つに束ね、エプロンを前に結んで立っていた。
厨房は彼女の新しい遊び場だった。
「退屈の霧」の問題は、彼女が10歳の時に始まった遊びが意外な解決策をもたらしていた。
レイナが霧と「踊る」ことで、霧は次第に色とりどりの光の粒に変わり、やがて消えていった。
王国は再び活気を取り戻したが、レイナの興味は既に次のものへ移っていた。
「玉ねぎはこうやって切るのよ、聖女様」
宮廷副料理長のマダム・ベルナールが厳しい口調で指導する。
「でもマダム、この玉ねぎ、涙が出てきちゃう」
レイナは茶色の瞳を潤ませながらも、包丁を握りしめていた。
「料理とはそういうもの。苦労の末に美味しさが生まれるの」
その時、厨房の窓から微かに灰色の霧が漂い込んできた。
退屈の霧の名残だ。
料理人たちの動きが突然鈍くなり、一人がため息をついた。
「ああ……またキャロットサラダか。面倒だな……」
レイナの目が輝いた。古くて新しい遊び相手の登場だ。
「待って、マダム!レイナ、いい考えがある!」
彼女はエプロンをひるがえし、窓辺に駆け寄った。
指先から金色の光の糸が現れ、霧を優しく絡め取り始める。
「何をしているんです、聖女様!灰色の霧で遊んではいけません!」
マダム・ベルナールが慌てた。
「遊んでないよ!新しいスープを作るんだ!」
レイナは霧を光の糸でそっとかき混ぜると、霧は淡いピンク色に変わり、キッチンの空気に溶け込んだ。
彼女はその空気を大きな鍋の中に導き、そこに刻んだ玉ねぎ、ニンジン、セロリを加えた。
「霧さん、お願い、このスープを特別なものにして!」
鍋を火にかけると、不思議なことが起こった。
スープが七色に輝き始め、それぞれの色から異なる香りが漂ってきた。
赤い部分はトマトの豊かな香り、青い部分はハーブの清涼感、黄色い部分はカボチャの甘み……。
「これは……」
マダム・ベルナールが目を見開いた。
「虹スープだよ!噴水で見た虹みたいに、七色全部あるんだ!」
重臣たちがちょうど厨房の前を通りかかった。
財務大臣が中を覗き込み、鼻をひくひくさせた。
「何だこの美味しそうな匂いは?」
レイナは得意げに胸を張った。
「退屈の霧対策スープ!これを飲めば、絶対にやる気が出るよ!」
彼女がスープをよそい、皆に振る舞うと、一口味わった者たちの顔がぱっと明るくなった。
「なんてこった!急に会議の書類を整理したくなってきた!」
「私は庭の手入れがしたくなった!」
「私は……新しい予算案を考えたい!」
老魔術師長マルコムがゆっくりとスープを味わい、深く頷いた。
「霧の性質を逆転させたのか。退屈をもたらす代わりに、活力を生み出すように変えたのだな」
王が厨房に現れ、様子を眺めてほほえんだ。
「レイナ、また王国を救ったね」
「でもおじいちゃん王様、レイナは王国を救ってないよ」
レイナは真剣な顔で首を振りながら、ウサギの形ににんじんを刻み始めた。
「ただ、みんなが退屈しないようにしただけ。それに、霧さんだってずっと退屈してるより、美味しいスープになる方が楽しいでしょ?」
マダム・ベルナールは厳しい表情を崩さなかったが、目尻に小さな笑いじわが寄っていた。
「さて、聖女様。霧の魔法はそれくらいにして、次はパイ生地の練り方を学びましょう。退屈かもしれませんがね」
「大丈夫!退屈になったら、また霧さんを呼んでパイと遊ばせればいいんだから!」
レイナはエプロンの端を握りしめ、茶色の瞳を輝かせた。
彼女の本質は、相変わらずだった。
ただ、王国を救う方法が、妖精との会話から霧とのダンス、そして虹色のスープ作りへと進化しただけである。
厨房からは、にんじんのウサギが霧の虹と踊るような、不思議で愉快な料理のレッスンが続いていた。




