第33話 聖女レイナ10歳編 変わらぬ光、変わりゆく王国
7年の月日が流れ、レイナは3歳から10歳の少女へと成長した。
彼女がもたらした「浄化」は、単に瘴気を取り除くだけではなく、王国そのものを変えていった。
荒れ地は緑に覆われ、川の水は澄み、人々の顔にはかつてない笑顔が戻った。
経済は発展し、街道は安全になり、隣国との関係もかつてないほど良好になった。
しかし、変わらないものもあった。
レイナは今でも、重要な会議の最中に突然「あ!庭のリスさんが新しい赤ちゃんを産んだんだ!みんな見に行こう!」と言い出すことがあった。
王冠を「おっきなお皿」と呼ぶのはやめたが、代わりに「光るヘアバンド」と呼ぶようになった。
「はなぱっちんおまじない」は今でも続いており、最近では外国の大使も進んで参加するようになっていた。
柔らかな陽射しが宮廷のバルコニーを照らすある午後、レイナはマルコムと並んで腰掛けていた。
老魔術師はもう80歳に近いが、レイナと過ごす7年間で、かつてないほど活発になっていた。
「レイナよ、お前が来てから、この王国は随分変わった」
マルコムは遠い目をした。
「昔のわたしなら、こんな変化を恐れたかもしれん。だが今は……これで良かったと思う」
レイナはマルコムの横に座り、両足をぶらぶらさせた。
「マルコムおじいちゃんも変わったよね。昔はいつも『ばかな!危険だ!』って言ってたのに、今はレイナの実験に付き合ってくれるし」
魔術師長は「ふん」と鼻を鳴らしたが、目尻に笑みの皺を寄せた。
「そうかもしれんな。だが、お前の変わらなさには、いつも驚かされるばかりだ」
「変わらなさ?」
「お前の心の純粋さだ。3歳の時も、10歳の今も、お前は同じように世界を見ている。驚きと喜びと好奇心をもってな」
レイナは考え込むように空を見上げた。
「だって、世界はいつも新しいんだよ。今日の空の青と昨日の青は違うし、朝のバラの香りと夕方のバラの香りも違う。変わらないものを見つけるより、変わっていくものを見つける方が楽しいよ」
マルコムは深く頷いた。
この7年間、彼はこの少女から、千年分の魔術書よりも多くのことを学んだ。
レイナが10歳を迎えて数ヶ月後、王国で新しい伝統が誕生した。
毎月一度、王宮の広場で「喜びの日」が開催されるようになったのだ。
これはレイナの発案によるものだった。
「みんなで集まって、理由もなく笑っちゃう日が欲しい!」という彼女の一言から始まった。
最初は小さな集まりだったが、次第に王国中から人が集まる大きな祭りへと成長した。
農民も貴族も、兵士も商人も、一日だけは肩書を忘れて一緒に楽しんだ。
ある「喜びの日」の終わり、王はバルコニーから広場を見下ろしながら、側近に呟いた。
「あの子は、単に瘴気を浄化するだけではない。人々の心の闇さえも、光に変えてしまうのだ」
広場では、レイナが子供たちに囲まれ、手作りの王冠(色紙でできた、宝石の代わりに花びらが貼ってある)をかぶって笑っていた。
その姿は、もはや「聖女」というより、「幸せそのもの」のように見えた。
王国の未来は、この「変わらぬ純粋さ」を核とし、周りを取り巻く人々の「変わっていく優しさ」に支えられて、これからも歩みを進めるだろう。
時に少し混乱し、予測不能で、笑いと驚きに満ちた道のりを。
そして何よりも、確かな希望の光を灯しながら。




