第27話 聖女レイナ9歳編 聖女の学校
友達と遊ぼうプロジェクト第2弾として、王は、ある提案をした。
「『聖女の学校』を作ろうではないか」
「学校ですって?」
マルコムが銀縁の眼鏡を押し上げながら尋ねた。
「レイナ様に何を教えるというのです? 彼女はすでに我々が知り得る以上のことを……」
「違うのだ」
王は優しく微笑んだ。
「レイナが他の子たちに教える学校だ。彼女の持つ『本当に大切なこと』を」
こうして「小さき聖女アカデミー」が誕生した。
生徒は王国内から選ばれた、年齢も身分も様々な20人の子供たち。
カリキュラムは他に類を見ないものだった。
月曜日:「はなぱっちんおまじない」実習
火曜日:枯れた花の蘇らせ方
水曜日:ぬいぐるみとの効果的な相談方法
木曜日:あしたのおやつ作り(にっこりしながら作ると、なぜか甘くなる)
金曜日:自由研究(「なぜ虫は可愛いか」「雲の形の秘密」など)
最初は緊張していた子供たちも、レイナの無邪気な笑顔と、誰に対しても分け隔てない態度にすぐに打ち解けた。
「見て見て! このお花、レイナ先生に教わった通りにしたら、本当に咲いたよ!」
農民の息子が誇らしげに鉢植えを持ち上げた。
「僕の犬、ずっと元気がなかったんだけど、レイナ先生が『わんちゃんぱっちん』してくれたら、すぐに走り回るようになった!」
貴族の少年が興奮して報告した。
レイナは「先生」と呼ばれることに最初は照れていたが、すぐにその役割を楽しむようになった。
「みんな、すごいね! えらいえらい!」
彼女は生徒一人一人の頭を撫でながら、まるで小さな母親のように褒めちぎった。
マルコムは当初この学校に懐疑的だったが、ある日ふと気づいた。
レイナから教わった子供たちの周りには、ほのかな光がまとわりついているのだ。それはレイナの力そのものではない。彼女の優しさや喜びが、ほんの少しずつ移ったものだった。
マルコムは書斎で古い文献をめくりながら呟いた。
「純粋な善意が、移るのだ。それは魔法よりも古く、あらゆる術式よりも強力なものだ」
レイナは魔法を教えているのではなかった。
呪文も、魔方陣も、難しい理論も一切ない。
彼女は、子どもたち自身の中にすでに存在する「何か」を目覚めさせ、育てていたのだ。
それは好奇心かもしれない。
優しさかもしれない。あるいはただ、世界を不思議で満ちた場所として見る能力かもしれない。
その夜、王の書斎で、マルコムは分厚い報告書を手渡した。そこには1ヶ月分の詳細な観察記録が綴られていた。
「陛下、あの学校は……どうやら単なる学校ではないようです」
王は報告書をぱらぱらとめくり、満足そうにうなずいた。
「知っているとも、マルコム。レイナが教えているのは『本当に大切なこと』だ。魔法の呪文でも、植物の育て方でもない」
王は窓の外を見つめ、遠くのアカデミーの明かりが夕闇に柔らかく灯っているのを目にした。
「彼女は、世界を優しく見る方法を教えている。そして何より……」
王の目尻に、小さな笑いじわが寄った。
「彼女自身が、毎日、その授業から最も多くを学んでいるようだな。先週は『先生としての威厳』を身につけようと、無理に低い声で話していて、くしゃみを我慢しすぎて涙目になっていたよ」
そして誰も気づかないうちに、子どもたちが持ち帰った「ほのかな光」は子供たちから家族へ、家族から隣人へ、隣人から町全体へと、確かに、静かに広がり続けていた。
それは魔法でもなく、奇跡でもなく。
ただ、一人の少女が「本当に大切なこと」を教え続けた、その自然な結果だった。




