第20話 聖女レイナ8歳編 レイナと魔法の杖
玉座の間の高い天井には王家の紋章が輝き、大理石の床には廷臣たちの厳かな足音が響いていた。
しかし、その重厚な響きの中に、小さくて軽い、楽しげな跳ねる音が混じっているのを、誰もがそっと微笑みながら聞いていた。
アルドリック三世は、玉座にもたれかかり、目を細めて満足げに微笑んでいた。
その視線の先には、王座の隣の小さな椅子には8歳の聖女レイナが座っている。
金色の巻き毛は少し長くなり、大きな茶色の目はより一層好奇心に輝き、ほっぺたのリンゴのような丸さはほんの少しスマートになったが、彼女の笑顔だけは、相変わらず朝日のように王国全体を明るさく照らしていた。
今日も、彼女はぬいぐるみのウサギではなく、お気に入りの「魔法の杖」(実は庭で拾った立派な枝を金色に塗っただけのもの)をしっかりと握りしめ、何か楽しいことを考えているようだった。
城の図書館は、今やレイナの第2の遊び場となっていた。
彼女は高い書架の間を駆け回り、古い本から飛び出した蝶のような魔法の文字を追いかけたり、地理書に描かれた不思議な国の地図を指でなぞったりしていた。
しかし、彼女の「勉強」方法は、常に予想外の笑いを巻き起こした。
ある日、歴史学者がレイナに「偉大な騎士ガルハッドの冒険」について講義を始めた。
学者が「ガルハッドは、邪悪なドラゴンと3日3晩戦い、最後に……」と真剣に語りかけた時、レイナは突然立ち上がり、自分の金色の杖を振り回しながら宣言した。
「でも、ドラゴンさんがお腹を空かしていたら、戦う前にクッキーを分けてあげたらいいじゃない? お腹がいっぱいになったら、ドラゴンさんも怒らなくなるよ!」
歴史学者は言葉に詰まり、その後、王国の歴史書には「騎士ガルハッドは、ドラゴンとの戦い前に蜂蜜クッキーを贈り、和平を築いた」という新しい(聖女レイナ版)脚注が追加された。
この注釈を発見したウィリアム王子は、声を上げて笑い、それ以来というもの、城壁のタペストリーに織り込まれたドラゴンの図柄を見るたび、なぜかクッキーの焼ける甘い香りを想像せずにはいられなくなったという。
今日も玉座の間では、小さな魔法の杖を持ったレイナが、王の奏でる穏やかな話し声に合わせて、楽しげにぴょんぴょんと跳ねている。
アルドリック三世は、深く玉座にもたれながら、王国の未来を思った。
少なくとも、この子の太陽のような笑顔とその自由な発想によって、堅苦しい歴史書や慣習が、どれほど明るく、そしてどこまでも愉快な方向に色づいていくことか。彼はその日々を、何よりも静かに楽しみにしていた。
重厚な王家の紋章の下で、軽やかな足音と無邪気な笑い声は、これからもずっと、この王国の心臓部に響き続けるのである。
それは、最も厳粛な場所に、最も大切な「生きる楽しさ」という魔法を、そっと染み込ませていく音だった。




