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【連載版】聖女は3歳児でした  〜聖女誕生からレイナ成長記録〜  作者: ぶっくん


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第17話 聖女レイナ7歳編 初めての海へ

レイナが7歳の夏、王国では珍しく暑い日が続いていた。


城の窓から見える空は、まるで青い絨毯のようにどこまでも続き、レイナは毎日のように「海に行きたい」とねだっていた。


「おじいちゃん王様、海って本当にでっかいの? プールみたいなの?」


玉座の間で、レイナはアルドリック王のひざの上で揺られながら、目をきらきらさせて尋ねた。


王は困ったような、でもどこか楽しそうな表情を浮かべた。


「ふむ……確かにでっかい。プールとは比べものにならんほどな」


その時、エドワルド王太子とアメリア王太子妃が広間に入ってきた。

後ろには、19歳のウィリアムと12歳のクリスがいた。


「父王、レイナの願いを聞きました」

エドワルドが言った。


「私たちも一緒に行きましょう。家族での外出は久しぶりです」


アメリアが優しくうなずいた。

「そうね。ウィリアムもクリスも、レイナと海に行くのを楽しみにしているわ」


ウィリアムは背筋を伸ばし、騎士のような礼をとった。

「私はレイナの護衛も兼ねられます」


クリスは少し照れくさそうに、でも嬉しそうに言った。

「貝殻、いっぱい拾おうよ、レイナ!」


レイナは王のひざから飛び降り、嬉しさのあまりその場でくるっと回った。


「やったー! みんなで行くの! パパとママもね!」


トーマスとエラは、王族全員が同行するという計画に少し緊張していたが、娘の嬉しそうな顔を見て、思わず笑みがこぼれた。


アルドリック王は深くため息をついたが、目尻の皺は優しく緩んでいた。


「よかろう。だが、大げさなことはするでない。最低限の護衛だけ連れて行く。わしも久しぶりに、家族で海を見に行くとしよう」


こうして、王国の7歳の聖女を中心とした、ちょっと風変わりな海への旅が決まった。


出発前にウィリアムは、護衛の騎士たちと打ち解け、海岸での配置について真剣な相談を始めていた。


19歳とは思えないほど責任感が強く、王太子の息子としての自覚に満ちていた。


馬車は3台。

1台目にはアルドリック王、エドワルド王太子夫妻。

2台目にはレイナと彼女の両親、ウィリアムとクリス。3台目には変装した騎士4人と必要な荷物が積まれていた。


「まだー? まだ着かないのー?」


レイナは窓から顔を出そうとするたびに、エラに優しく引き戻されていた。


「もう少しよ、レイナ。ほら、見てごらん。もう空気が変わってきたでしょう?」


確かに、窓から入ってくる風は次第に潮の香りを帯び、空の青さもより深くなっていくようだった。


アメリア王太子妃が1台目の馬車から手を振っているのが見え、レイナも嬉しそうに手を振り返した。


クリスが突然、馬車の中で貝殻の図鑑を取り出し、「レイナ、これ見て! この縞模様の貝殻、すごく珍しいんだよ!」と興奮気味に説明し始めた。


ウィリアムはため息をつきながらも、「クリス、レイナに一度に全部教えようとすると混乱するよ」と優しくたしなめた。


その言葉に、レイナは「ウィリアムお兄ちゃん、私、ちゃんと覚えられるよ!」と頬を膨らませた。


トーマスとエラはそんなやり取りを見て、思わず顔を見合わせて笑った。


「本当に兄弟みたいだね」エラがささやくように言った。


そしてついに、馬車が砂浜の近くで止まった。


レイナは一番に飛び降り、砂の上を駆け出した。

そして、突然立ち止まった。


目の前に広がる光景に、言葉を失ったのだ。


果てしなく続く青い海。白い波が優しく砂浜を撫で、空と海の境目がどこにあるのかわからないほどに広がる水平線。


「わあ……」


レイナは小さな声で呟き、その場にしゃがみ込んだ。砂をそっと掴み、その感触を確かめた。


「温かい……」


トーマスとエラが後からやってきて、娘の両側に立った。


「初めて見る海だね」

トーマスが感慨深げに言った。


エラは目を細めて海風を受け、「本当に大きいわね」と息をのんだ。


その時、アルドリック王がゆっくりと歩み寄ってきた。

杖をつきながら、遠くの水平線を見つめている。


「わしも、久しぶりに海を見た。相変わらず、雄大なものだ」


エドワルドとアメリアも合流し、ウィリアムとクリスは早くも靴を脱いで波打ち際へ向かおうとしていた。


「レイナ、こっちおいで! 波、気持ちいいよ!」

クリスが手を振る。レイナは両親の手を引っ張り、そーっと波打ち際へ近づいた。


冷たい水が足首を撫でた瞬間、レイナは「きゃっ!」と小さな声を上げ、でもすぐに笑顔になった。


「面白い! もっと行ってみたい!」


彼女は少しずつ深いところへ。エラが心配そうに見守る中、トーマスがレイナの手をしっかり握った。


「そうっとね。急に深くなるから」


その時、予期せぬことが起こった。


少し離れたところで、地元の漁師の娘らしい小さな女の子が波に足を取られ、バランスを崩して転びそうになった。


「あ!」


レイナが反応したのは、誰よりも早かった。


彼女はトーマスの手を離し、砂浜を駆け出した。

そして、転びかけた女の子の腕を、ぎゅっと掴んだ。


2人はよろめきながらも、なんとか倒れずに済んだ。


「大丈夫?」


レイナが心配そうに尋ねると、女の子は驚いた顔でうなずいた。


「うん……ありがとう」


その瞬間、レイナの握っていた女の子の腕から、かすかな金色の光が一瞬煌めいた。


誰も気づかなかったが、女の子は転んだ拍子に擦りむきかけたひざの傷が、いつの間にかきれいになっているのに後で気づくことになる。


女の子の母親が駆け寄ってきて、何度もお礼を言った。


「本当にありがとうございます、お嬢様」


レイナは照れくさそうに「いいえ」と首を振り、自分の両親の元へ戻った。


アルドリック王は遠くからその一部始終を見守り、満足そうにうなずいた。


「見たか、エドワルド」

王が息子にささやいた。


「あの子は力を使うことさえ意識していない。純粋な心から自然とああなるのだ」


エドワルドは深くうなずき、「聖女としての資質以上に、人間としての優しさを持っています」と応えた。


午後は、クリスの提案で貝殻拾いが始まった。


「この貝殻、きれいでしょう?」

クリスが真珠のような光沢のある小さな貝殻をレイナに渡した。


レイナは目を輝かせて受け取り、「すごーい! お家に持って帰って、お花の隣に置くね!」


ウィリアムも参加し、珍しい形の貝殻を見つけるたびにレイナに渡した。

普段は真面目な19歳の青年も、弟と幼い聖女の前では自然と笑顔が多くなっていた。


エドワルドとアメリアは砂浜に座り、その様子を温かく見守っていた。


エドワルドは妻の手を握り、「レイナが来てから、城に笑顔が増えた」と認めた。


一方、アルドリック王はトーマスとエラを傍に呼び、波の音をBGMにゆっくりと話をしていた。


「そなたたちは、立派にレイナを育てている。今日のあの行動を見ればわかる。彼女は力だけでなく、優しい心も持っている」


トーマスとエラは感激で言葉が出ず、深々と頭を下げた。


その後、レイナは「砂のお城を作りたい!」と言い出し、全員で協力して巨大な砂の城塞を作り始めた。


アルドリック王さえも、しゃがみ込んで砂を固めるのを手伝った。王が砂遊びをするなど、誰が想像しただろうか。


「おじいちゃん王様、こっちの塔、もっと高くしようよ!」レイナが王の袖を引っ張る。


アルドリック王は「ふむ、ではわしがこの塔を担当しよう」と、真剣な顔で砂の塔を作り始めた。


ウィリアムとクリスは堀を作り、エドワルドとアメリアは城壁を、トーマスとエラは小さな家々を作った。


日が西に傾き始めた時、レイナは突然作業をやめ、海を見つめた。


「みて! お空と海が、オレンジ色になった!」


確かに、夕日が海と空を染め、世界が金色に輝いているようだった。


全員が作業を止め、その光景に見入った。


レイナはトーマスとエラの間に立ち、両方の手を握った。


「今日は、とっても楽しかった。みんなと来られて、よかった」


そして振り返り、アルドリック王を見つめて言った。


「おじいちゃん王様、ありがとう。また来ようね、みんなで」


王は深くうなずいた。

「ああ、必ずまた来よう」


エドワルドとアメリアも微笑み、ウィリアムとクリスは「次はもっと大きな砂のお城を作ろう!」と約束した。


その時、レイナが突然走り出し、せっかく作った砂の城の前に立った。


「ありがとう、お城さん。また来るからね」


彼女は砂の城に手を振り、次の波が来るまでに走って戻った。そして皆で、波が砂の城をゆっくりと飲み込んでいくのを見守った。


「また作ればいいんだよ」

クリスがレイナの肩をポンと叩いた。


レイナはうなずき、「うん! 次はもっともっとすごいの作る!」と目を輝かせた。


馬車に戻る道すがら、レイナは拾った貝殻を大事そうに抱え、一日の出来事を楽しそうに話し続けた。


「海、すごかったね。でっかくて、青くて、波が歌ってたみたいだった」


エラは娘の髪をそっと撫でながら、

「レイナも海みたいだね。大きくて優しくて、みんなを幸せにする力がある」


レイナは「え? 私、海みたい?」と首をかしげ、それから「じゃあ、ママは砂浜みたい! いつも温かくて気持ちいい!」と言い返した。


トーマスが「じゃあ僕は?」と尋ねると、レイナは少し考え、「パパ……貝殻! 固くて、中はきれいで、宝物みたい!」と言った。


馬車の中は笑い声に包まれた。


城に戻り、門をくぐる時、レイナはまたしても後ろを振り返った。

もう海は見えないが、潮の香りはまだかすかに残っていた。


「また行くね、海さん」

彼女は小声で呟いた。


その夜、レイナはベッドで、ウサギのぬいぐるみと今日拾った貝殻を抱きしめながら眠りについた。


窓の外では、海で見たのと同じ星が輝いていた。


夢の中で、彼女はまた砂浜を走り、波と追いかけっこをし、家族全員と笑い合っていた。


下の広間では、アルドリック王が家族全員を前に、一言言った。


「今日は良き一日であった。レイナが我が家に来て、わしらは本当の家族になったようだ」


エドワルドもうなずき、「彼女はこの王国の宝であると同時に、私たち家族の宝でもあります」と付け加えた。


こうして、7歳の聖女レイナと、彼女を愛する家族たちの、忘れられない海の一日が幕を閉じた。


そして誰もが知っていた。

この思い出は、これからも何度も語り継がれ、海のように深く、波のように何度も甦ることを。

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