魔物が多すぎる!
「ひぎゃあああああ~~~」
獣人国の館の中。私は大声で叫んで逃げていた。
後ろから追って来るのは、大量の魔物。数百匹はいるだろうか。
「こうなったら、全部まとめて摂りこんじゃうしかないよね……!」
魔物摂り込みで、目の前の魔物をすべて摂りこんでいく。
だが、いくら食べても食べてもキリがない。奥から次から次へと魔物が出てくるのだ。
「うう……なんで私がこんな目に……」
事の発端は、ネフィアを探しに路地裏へ迷い込んだことであった。
館へたどり着いた私は、私の父親らしき人にあった。だが、なぜか娘じゃない、と言われて不審者扱いをされてしまったのだ。
その結果、よく分からないままなぜか牢屋に放り込まれてしまった。
(でもおかしいよね……なんで、こんな場所にたくさん魔物が沸いてるの?)
魔物は、ダンジョンから現れるものだ。たまに魔力の濃い森なんかに住みつくこともあるが、基本的にダンジョンの中にしか存在しない生物なのだ。
だが、牢屋の中には夥しいの魔物が蠢いている。どう考えても、忍び込んだという数なんかじゃない。
(ああ、こんなことを考えている暇はないか……)
考え事をしている間にも、魔物は屋敷の奥から次から次へと沸いて来る。このままでは埒が明かない。ここはいったん逃げて、廊下の隅に移動するしかないだろう。
「よし、こういう時は……《糸生成》!!」
手からミズグモの糸を出して、天井にくっ付けた。
糸を手繰り寄せて、するすると上に登っていく。流石に、天井まで追って来る生き物はいないだろう。ここまでくれば完全に安全だ。
危機が去った所で、さっきのことを思い返した。
「う~ん。それにしても、やっぱり許せないね。 実の娘かもしれない私に対して、『誰だ』なんていうなんて……」
正直、結構傷ついた。
何を思ってそんなことを言ったのだかは知らないが、本当に許せない。
そう思ったところで、私はあることに気が付く。
(あれ、でもよく考えたら分からなくて当たり前だよね。たぶん、この人が私を捨てた時には赤ん坊の頃だったんだから。)
考えてみれば仕方ないのかもしれない。
姿が変わってしまったのだから、自分の子供だと気づくのは難しいだろう。
私は、自分が捨てた赤ん坊がたった数ヵ月もの間にこんなサイズになっていたらどう思うかを考えてみた。
(あれ? 普通に考えれば、怖くない? それって。)
立った数か月のうちに、このようなサイズになっていたのだ。普通に考えてみればホラーだろう。物凄い恐怖を感じたに違いない。
(……確かに、拒絶してしまうのも無理ないかも。)
いや、でもそうだとしても、流石に『誰だお前は?』なんて言うのはひどいだろう。
「ああ。確かに、現実を受け入れられないのも分かるけどね。でも私だって好きで急成長したんじゃなかったんだよ!成長してほしい部分は全く成長していないし!! って、それはいいとして、わざわざあんなところに捨てた人も悪いと思うんだけど!!」
本人がいないのをいいことに、私は文句を垂れ流す。
「そうだよ。やっぱりあの人が悪い。もう一度、文句言いに行こう。」
当主さんに会いに行こうと踵を返した瞬間、天井をカサカサと動く何かにぶつかった。
「何これ? なんで天井に変なものが張り付いて……」
その瞬間、その物体はゆっくりと動いてこっちを見た。
ギョロっと、大量の小さな目玉が不規則に動く。
(ま、まさか……)
見覚えのあるその生物に、鳥肌が立つ。
「ぎ、ぎゃあああああああああ~~」
私は天井を走って逃げだした。
出たね、私の嫌いな虫!!本当に無理だ。目を合わせただけで卒倒する自信がある。……今はエイスの虫料理のお陰で耐性がついているから、まだましだが。
(まあ、エイスの料理に感謝するつもりはないけどね……)
いくら虫嫌いを克服できるとしても、エイスの料理を食べることだけは絶対にしたくない。
「って、そんなこと考えてる暇ないね。早く逃げよう……」
まあ、そうはいったところで、逃げる場所なんてほとんどないに等しいのだが。
ほとんど絶望的な気分で辺りを見回していると、部屋の天井の隅に、小さな明かりが見えた。
「あれ? もしかして、あの窓……外に出られる感じ?」
近付いてみると、うっすらと空が見えている。空気の通り道のために開いている、通気口みたいなものだろうか。
(よし、あそこをくぐって外に出よう!!)
これはチャンスだ。
侵入者が逃げられないようにあんな天井近くに付いているようだが、私の糸を使えば簡単に出られるだろう。
さらには、あのサイズなら蜘蛛も通れないはずだ。
私は今いる場所から窓までの方向に糸を張り、その上を走るという器用な技を使って部屋を走り抜けた。
「やった、脱出成功――」
窓から一歩踏みだそうとしたが、寸前のところで足を止める。
(だめだ……ここから降りたら、多分骨がバキバキに折れる……)
転移陣を使って来たから分からなかったが、私が飛ばされたのは結構上の階だったようだ。この高さから地面に降りたら、私は間違いなく木っ端微塵になる。
(よし、下の階に降りよう……)
この際、一階ずつ下に下がっていくしかない。もし下の階にも魔物がいたら本末転倒だが……ここから飛び降りるよりはましだろう。
糸を垂らして窓から中に侵入する。
入った瞬間魔物の餌になるという最悪の事態も想定していたが、そんなことにはならなかった。部屋はがらんとしていて、さっきの部屋のように魔物の悪臭が立ち込めていない。
「あれ、この部屋は魔物が少ないね。」
ラッキーだ。ここなら、しばらく休憩ができそうだ。
(ここから逃げてネフィアを探しに行くのはいったん置いておくとして、取り敢えず一休みしよう。)
走り続けてヘトヘトになった私は、綺麗に掃除されている真っ白な床にごろんと横になった。
結構頑張って走ったからね……ちょっとぐらい休んでもバチは当たらないはず!
しばらく休ませてもらおうと瞳を閉じた瞬間、頭の中に声が響いた。
『わぁ。初めて見るお客さんだね。こんにちは。』
「わっ! だ、誰?」
こんな風に頭に響くように聞こえる声は、魔物にのみ見られる特徴だ。魔物が近くにいるのだろうか? 慌てて起き上がると、こちらを覗き込んでいる影が見えた。
そこにいたのは、角が片方折れたドラゴンだった。




