狩猟祭2 レアルド
いつも読んでくださってありがとうございます!! 最近は投稿ペースが遅れていてすみません m(_ _)m。
今年になってから忙しくなり、生活リズムが崩れてしまいました。元の投稿ペースに戻せるように努力するので、温かい目で見守っていただければ幸いです。
人ごみを避けて、街中の広場へと向かう。
そこは、多くの獣人でごった返していた。広場全体がガヤガヤとした喧騒感に包まれている。
聞き耳を立ててみれば、様々な話が聞こえて来た。魔石や魔物など、手に入れた戦利品のことについて語り合っていた。軽く話を聞く限り、彼らが手に抱えている魔石や魔物のドロップ品の山は領主に納める物のようだ。
(そういえば、マイリンはどこだ?)
彼女に言われた場所まで来たが、その姿は見当たらない。
「そろそろ城門が開く時間なのに……あいつ、何をしているんだか。」
しばらく待っていると、冒険者達が次第に一列に並び始めた。
当主の館の門を前に、全員が整列していく。俺は少し離れたところから、その様子を眺めた。
遠くから見るとよく分かるが、結構な人数の冒険者が集まっているようだ。よくよく見れば、前にダンジョンの中で出会ったパーティーも混じっている。
ザワザワした空気の中、後ろから声を掛けられた。
「ん? お前、列に並ばなくていいのか?」
声を掛けて来たのは、列の整頓をしていた兵士だ。厳めしい顔をしているが、こうしてわざわざ声を掛けて来る辺り、悪い奴ではないのだろう。
「……大丈夫だ。観光に来ただけだからな。」
「そうか、なるほどな。遠くのエリアの出か?」
この国では、区域ではなくエリアという言葉を使って土地を分けている。この辺りにはダンジョンが多いので、かなり人が多く集まっている場所だ。
「ああ。まあ、そうだな。」
一応、不審に思われない程度に頷いて置いた。
「そうか、最近は冒険者に憧れてこのエリアまでくる奴も多いからな。まあ、がんばれよ!」
そう言って、彼は列の整理をするために元の持ち場に戻って行った。
俺はそれを見ながら、なるべく人目につかないように広間のさらに隅へと移動した。
(一応、怪しまれてはいないようだな……)
獣人でないことを隠すために足先まで被ったコートのせいで不審がられるかもしれないとも思ったが、別にそうでもなかった。
頭についている獣人のような耳のお陰だろう。ミロウ様につけてもらったこれのおかげで、周りから人族だとバレるようなことも少なそうだ。潜入捜査が捗る。
俺は、辺りの会話を聞き取るために身体強化で聴力を上げた。
周りの話している会話を聞き取るためだ。
(やはり、ここに集まっているのは冒険者が多いな。獲物の話で盛り上がっている奴が多い。)
予想していたことだったが、広場にいる者はほとんどが冒険者のようだ。
周囲の会話を拾い上げていると、突然、近くで俺を呼ぶ声が聞こえて来た。
『レアルド、聞こえる?』
「マイリン、お前……」
声がした方に視線を向けると、すぐ隣の二階建ての食事処の上の階に彼女が見えた。小さなスプーンで飲み物をかき混ぜている。確か、この店はハーブティーで有名だったはずだ。恐らく、マイリンの持っているものがそれなのだろう。
……なぜこんな時に呑気にお茶を飲んでいるのかは知らないが。
「何してるんだ、こんな時に……」
『静かに。見つかっちゃうわ。』
そう言って、マイリンは人差し指を唇に当てた。
『そこからあまり動かないようにしてくれる? 出来れば、視線もあまりこっちに向けないようにしてくれると助かるわ。』
「……なぜだ?」
確かに、俺達S級冒険者なら身体強化を使えば遠距離でも会話が可能だ。だが、わざわざ顔を合わせずに会話をする意図が分からない。
『万が一、私が捕まってしまった時のためよ。私の協力者だということがバレたら、あなたも当主に狙われる可能性があるでしょう?』
(なるほど、こいつなりに気を使っているつもりなのか。)
なんで自分が捕まった後の事を考えているんだかは知らないが、俺の事を心配して言っているらしい。
「全く……余計なお世話だ。」
別に、俺はそんな気遣いをしてもらうほど弱くはない。これでも一応、S級冒険者なのだ。自分の身ぐらいは自分で守れる。
『不満そうね。こうして遠距離で会話をするような面倒なことをしてしまって、申し訳ないと思っているわ。でも、屋敷に侵入する前に、どうしても一つだけ教えておこうと思って。』
「……何だ?」
『当主の館に侵入するうえで一番警戒するべきは、兵士じゃなくて魔物よ。』
「どういう意味だ?」
魔物とは、例外もあるが基本的にはダンジョンの中にしか現れない生物だ。それなのに、なぜ当主の館と魔物に関係があるというのだろうか?
『知っての通り、獣人国はダンジョンの多い国として有名よ。そしてたくさんの奴隷を管理するほどの技術がある。……そこで、ダンジョンで生け捕りにした高ランクの魔物に、奴隷紋を刻み込んだらどうなると思う?』
「……なる程な。捕まえた魔物を自由に操れる、というわけか。」
『ええ。その通りよ。だから侵入するときは、慎重にお願いね。』
マイリンは、『流石のあなたでも、高ランクの魔物に全方位から攻撃されたら無事では済まないでしょう?』と付け加えた。確かに、その通りだ。
「……ああ。分かった。」
S級冒険者である俺にも、高位ランクの魔物に囲まれるほとんどない。
強い魔物は基本的に単独で行動する。群れを作るのは、大抵は弱い小型の魔物だ。強い魔物が軍として群れを成して行動するとなると、一人で戦うのはきついだろう。
そう、普通はそうなのだ。
――ユニークモンスターを相手に、無詠唱でやってのける『彼女』が特殊なだけである。
(ミロウ様……)
俺を救ってくれた人の姿が思い浮かんだ。瞼を瞑ると、今でも鮮明に思い出せる。
ミロウ様に出会った日の事を。
その日は、王の資質を見極めるための儀式があった。いつもは必ず持っていくはずの回復薬を、その日に限って忘れてしまったのだ。魔力切れを起こした俺は物陰に潜んで隠れていたが、やがて気配を嗅ぎつけたのか魔物が近づいて来た。
ホワイトピュートンの変異種。
普通ならこんな浅い層にいないはずのレベルの高い魔物だ。
必死に走れば、逃げ切れるかもしれない。
だが、そんな考えとは裏腹に、俺の足は動かなかった。
もう、どうでもいいと思ってしまったのだ。
このままここで魔物にやられても、それでいいと思ってしまった。『試験』に成功しなかった王族には、存在価値はない。ましてや、出来損ないと呼ばれているいる第七皇子の存在なんて誰も気にも留めないだろう。
すでに、疲れてしまっていた。
それは、諦めだった。弟に笑われ、父には見捨てられ……この馬鹿馬鹿しい滑稽な人生に、嫌気が差していた。
全部終わりにしよう、そう思った。
――その瞬間だった、彼女が現れたのは。
苦戦していた魔物を炎の魔法で殲滅していく姿は、まるで英雄のようであった。
差し伸べてくれた手を、今でも覚えている。
そう言えば、彼女は今どこにいるのだろうか。
朝早くからネフィアという少女と共に宿を出ていく所は見たが、それ以降は見ていない。
(……彼女のことだから、今頃何か揉め事でも起こしていそうだな。)
そう、なぜかミロウがいる場所ではいつも事件やらなんやら起きるのだ。彼女の事だ、もしかしたら今日も何かやらかしているかもしれない。
そんなことを考えていると、なんだか城門の方が騒がしくなってきた。
広場全体が、段々とザワザワしてきている。
「それにしても、何かあったのか? さっきからずいぶん騒がしいが……」
『城門が全然開かないから、痺れを切らした冒険者達が抗議をしているみたいね。』
マイリンはやれやれと呆れたような口調で言った。
『でも、おかしいわね。この時間になっても、まだ城門が開いていないなんて』
「そうか? 何かトラブルが起きて予定が遅れている可能性もあるだろ?」
『確かにその通りだけれど、その『トラブル』というのが思いつかないのよ。当主にとって、この狩猟祭で魔力を集めることは重要な目的よ。延期することはないわ。……よほどのことがない限りね。』
つまり、そのイレギュラーが今回起きたという事だろう。
『当主が私たちが侵入しようとしていることに気が付いて、城門を開くのを止めたのか。それとも、私たちとは別に侵入者が入って来たのか……どちらにしても、厄介ね。』
確かに、侵入者が入ったのなら、警備が厳重になって忍び込むのが困難になるだろう。
「なるほどな。予定は延期するか?」
『いいえ。このまま続行するわ。でもあなたが抜けたいと言うのならそうするといいわよ。元々、あなたは私の我儘に付き合ってもらってただけだもの。』
「いや、ここまで来て後戻りをするつもりはない。お前こそ、後悔しないように気をつけろよ。」
『後悔?……そういう貴方は、何かを後悔したことがあるのかしら?』
「ああ、ある。今でも、何度も思い返してはいろいろ考えている。もっと他に方法があったんじゃないか、とか。」
何度も、そんなことを考えてしまう。
脳裏によぎったのは、腹違いの弟の姿であった。今でもふと、あいつのことを思い出してしまう。忘れようとしているつもりなのに。
『そう。意外ね。』
「意外?」
『ええ。……貴方、全部諦めているように見えていたもの。後悔とか、するような性格じゃないと思っていたわ。』
言われてみれば、昔の俺はそんな奴だった。
『変わったのね。……もしかして、ミロウちゃんのお陰?』
「……さあ、どうだかな」
マイリンは『面白いわね。』と言ってクスリと笑った。
『後悔ね……私もいつか、そんなことを考える日が来るのかしらね。』
そして、ハーブティーをごくりと飲み干した。
そのまま、席を立って歩き始める。
『御馳走様、美味しかったわ。』
チャリン、と店員に銅貨を支払う音がする。
そして隣にあった階段を降り、下の階へと出て来た。
ほんの一瞬だけ、彼女とすれ違う。
「私はもう行くわ、レアルド。……後のことは頼んだわよ。」
「……ああ。」
その言葉が、当主の館に侵入するを言っているのか、それとも、その後の事を話しているのか。……俺には分からなかった。
彼女はただ、静かに門の方へと歩いていく。
その足取りは軽い。だが、何かを決意しているように見えた。




