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狩猟祭1 ミロウとネフィア

「お~い。そこの人たち、お一つどうだい?」

 街をぶらぶら歩いていたら、屋台に立っているおじさんが声を掛けてきた。


「二個ください!!」


「はい、どうぞ。銅貨四枚だ。」


 銅貨を四枚、彼の手に渡す。確か銅貨は、一番安いお金だったはずだ。ついに、お金の使い方をマスターした。ギルドで説明を受けたおかげだ。


「それにしても君たち、ラッキーだったね。実はちょうどこの前、大量にスモールドラゴンの肉が入荷できたんだよ。」


「なるほど。……って、スモールドラゴン?」

 確か私がこの前大量に倒した魔物じゃないだろうか?


「ああ。この肉は珍しいからね、なかなか手に入らないんだ。入荷できてよかったよ。」


 どうやら今までほとんど手に入らなかったのに、突然たくさん市場に出回り始めたらしい。なるほど、道理でずいぶん安く売っているわけだ。


(もしかして、私が獲って来た分の魔物が売られているのかな?)


 じゃあこの魔物は、ギルドに売った分が巡り巡って戻って来たという事か。なんだか不思議な感じだ。


「う~ん……」

 でも、なぜだろう。食べてもお腹に溜まらない。


 そう、この『食べてもお腹が膨れない』現象は、今までにも何度かあった。

 だが、いまだに原因を突き止められていない。


 こういうものなのかと思って辺りを見回してみるが、みんな普通の顔で食べている。隣にいるネフィアも、嬉しそうにお肉を頬張っていた。


「ネフィア、美味しい?」

「はい。美味しい、です!!」

 彼女は花がほころぶような笑顔を浮かべた。


 この反応からして、お腹に溜まらないと思っているのは私だけのようだ。


(うーん。もしかして、私が魔力を吸っちゃった魔物だから、私だけ味を感じていないのかな?)


 それはあり得そうだ。一度魔力を吸収してしまったら、栄養分とかが抜かれてしまうのかもしれない。……しかし、そんな肉をお店で売ったりするだろうか?


「ねえ。このお肉、魔力がないのはなんでなの?」

 試しに聞いてみたら、おじさんは訝しげに眉を寄せた。


「ん? 魔力が多く含まれた肉なんて店で出すわけないじゃないか。」


 おじさんの言葉に、私は首を傾げた。


「なんで?」

「なんでって……魔物の魔力なんてものを大量に摂取したら、魔力過多で死ぬだろ?」


(し、死ぬ⁉)

 あまりの言葉に、私は目を丸くした。


「何を当たり前のことを聞くんだ?魔物の肉なんて、魔力の塊だぞ? そんな大量の魔力を摂取できる生物なんて……そんなの、魔族かドラゴンぐらいだろう。普通の人族には無理だな。」


 どうやら魔物の肉を吸収し続けている私は、人外扱いされてしまうらしい。

 いつも通りのことだが、やっぱりショックを受ける。


「ねぇ、魔物の肉から魔力を抜くのってどうやるの?」

 私の場合なら魔力摂り込みを使えばすぐだが、普通の場合ならどうしているのだろうか?


「さぁな。どうやら当主様が年に一度、狩猟祭の度に国中の魔物を集めて一気に魔力を抜いてくださっているそうだが……詳しいことは知らないな。」


 なるほど、当主さんが魔物から魔力を抜いていってしまっているらしい。おそらくだが、私がギルドに持っていった魔物はすでに魔力が抜かれていたので、そのまんまお店に売られているのではないだろうか。


(せっかくの魔物の肉なのに、魔力を抜いてしまうなんて……)

 まさか、今日は冒険者の多くが捕らえた魔物を抱えて当主の館へ行くと聞いたが、その理由がこれなのだろうか。


 私は魔物のお肉を持って館に行くなんて、面倒なことをするつもりはない。当主だかなんだか知らないが、わざわざそんなことをしてあげる義理はないだろう。


(ん? ちょっと待って、()()?)

 この前ネフィアが言っていたことを思い出した。


 確かその人は、私の親( かもしれない )人のことではないだろうか。


「ねぇ、ネフィア。当主って確か、ネフィアが会って欲しいって言っていた人だよね?」


 その瞬間、ネフィアはピクリと体を強張らせた。


「そ、そんなこと言ったでしょうか?」

「え? 言ってなかったっけ? 確か、私の親だって……」


「い、言ってません。……お嬢様の聞き間違えではないでしょうか?」


 そ、そう言えば、確かにネフィアは当主は私の親だとは明言していなかったかもしれない。私の早とちりだったようだ。


「でも、『当主様と会ってほしい』とは言っていたよね。」

 私の言葉に、ネフィアはさらに体を強張らせた。


「確かに言いましたけれど……もう大丈夫ですから。当主様と会う必要なんてありません。」


「本当に?」

「はい。私が言ったことは、忘れてください。」


 なんだか誤魔化されてしまった。

 まあ私も、自分を捨てたであろう親と会いたいかと言えば微妙だが……


「そんなことよりお嬢様、今は狩猟祭を楽しみませんか?」

 ネフィアは強引に話題を変える。


 少し気になったが……確かに、その通りだ。

 せっかくのお祭りだし、ちゃんと楽しむと決めたのだった。


「よし。じゃあネフィア、今度は洋服を買いに行こう!!」


 彼女が今来ているのは、ぼろぼろのワンピースだ。近いうちに新しいのを買ってあげようと思っていたので丁度いい。


「洋服ですか?」

「うん。その服だけじゃ洗濯のときに困るでしょ? ……じゃあ、あそこのお店に行こうか!!」


 たまたま近くに洋服を売っているお店があったので、そこに入ってみることにした。



 ◇◇◇


 

「いらっしゃいませ。」


 キャラメル色の髪を肩で短く切りそろえた店員さんが、店内に迎えてくれた。

 店内には、色とりどりの服が並んでいる。


 今日は狩猟祭だからか、セールをやっているそうだ。いつもより値段が安いらしい。


「う~ん。どの服が似合うかな?」

 リリサだったら良い組み合わせを選んでくれそうだが、私にはコーディネートの知識なんてないのだ。困っていたら、店員さんが声を掛けてくれた。


「試着してみますか?」

 店員さんは試着室を指差した。


「はい!こっちのネフィアにお願いします。」

 試しに選んでみたのは、普段使いもできそうな落ち着いたデザインのドレスだ。この空色は、絶対にネフィアに似合うと思う。


「ふ、ふわぁ。そ、そんな高そうな服、着られません……」


「遠慮しなくて大丈夫だよ!! お金ならたくさんあるからね!」


 そう、実はルースにお金をもらったのだ。理由は良く分からなかったが、なぜか顔を真っ青にして震えていた。なんだか恐喝している気分になったが、気にしないことにした。せっかくもらったお金だ、遠慮なく散財させてもらう。


「わ、分かりました。着替えてきます。」

 ネフィアは試着室に入っていった。



 数分後、試着室から彼女が出て来た。

 その可愛さに、目を丸くする。


「わぁ。すごい! ネフィア、すっごく似合ってるよ!!」

 やばい、語彙力がなくなってしまった。だが、ネフィアの可愛さを表現する方法なんてないだろう。私でなくてもこうなる。


「そう、でしょうか?」

「あったりまえだよ! ネフィアは、世界一可愛いからね!!」


「う、嬉しいです。」

 ネフィアは恥ずかしそうにもじもじと人差し指を合わせた。


「じゃあ、この服を買おう!」

「でも少し袖が隠れてしまっていますよ。サイズが大きいのではないでしょうか?」


 確かに、言われてみれば袖で手のひらが半分ほど隠れている。元の世界であれば萌え袖で可愛かっただろうが、こっちの世界で萌え袖をしている人は見たことがない。


 恐らく、そういった文化がないのだろう。


 すると、私たちを見ていた店員さんが提案をしてくれた。

「ご希望がありましたら、サイズを変えて作り直すこともできますが?」


 おお。そんなこともできるのか。


「はい。お願いします。」

「分かりました。では、サイズを測らせてもらいますね。」


 そう言って、店員さんはネフィアの足先から首元までの長さを測り始めた。この世界ではメジャーがないようで、代わりに長い定規を使っている。


 着丈を測った後、今度は肩幅を測り始めた。その時に彼女の肩に掛かった髪を邪魔に思ったのか、前に退ける。


 その一瞬、ネフィアの首筋――うなじの部分が見えた。

 魔法陣のようなものが目に留まる。


「奴隷紋……」

 店員さんが小さな声で呟いた。


「?」

 奴隷紋? なんだろうか?

 首を傾げていると、店員さんは数秒停止した後、首を横に振った。


「……いえ、なんでもありません。採寸は終わりましたから、さっきの服を渡していただけますか? 縫い直しますので。」


「はい。よろしくお願いします。」


「数分もしたら縫い終わりますから。少し待っていてくださいね。」

 彼女はそう言って、店の奥へと向かって行った。



 ◇◇◇



 服が縫い終わるのが待っている間、私たちは店の端にある椅子に並んで店員さんを待つことにした。


「ネフィア、服ができたら次はどこへ……って、寝ちゃってたか。」

 朝早くに起こしてしまったせいで眠いのだろう。申し訳ないことをしてしまった。


 私の椅子にもたれ掛かっている彼女の髪を手で梳く。青みを帯びた黒い髪は、きちんと手入れをすれば綺麗に輝くだろうに、長いこと放置されたのか傷んでしまっている。


 絡まっていた髪を解いていると、ネフィアがゆっくりと瞼を開いた。

 どうやら起こしてしまったようだ。


「あ、ごめんね。起こしちゃって。」

「いえ。大丈夫です。」


 他にやることもないので、ネフィアの髪を撫で続ける。


「ネフィアの髪って、綺麗だね。」

「……この髪が、ですか?」

「うん。夜の星空みたいな色ですっごい綺麗だよ。」


「……お嬢様は、優しいですね。」


 う~ん。そんなこともないと思うのだが。私はむしろ、優しい人間ではないだろう。自分で言うのもなんだが、敵だと認識した相手には容赦がない。むしろ、優しさと無縁の場所にいる存在だろう。

 一応、ちゃんと自覚している。


(まぁ、ネフィアに対しては優しいから、あながち間違えではないのか。)


 そんなことを考えていると、ネフィアがぎゅっと私の服の袖を掴んだ。


「お嬢様……」

「ん? どうしたの?」


 彼女は一瞬、躊躇ったように言葉を飲み込んだ。だが、やがて覚悟を決めたように口を開いた。


「お嬢様は、自分の親に会いたいと思いますか?」


 突然の質問に、返答に詰まる。


「う~ん。分からない。私は生まれてすぐに捨てられたからね。だから、親にも会ったことがないし……正直な所、よく分からないかな。」


「……分からない?」


「うん。私は何となくで生きているから、自分の考えていることなんてよく分からないよ。……でも、もしかしたらちょっぴりだけ興味があるのかも? 記憶がないから、逆に知りたいのかな?」


 そう、私は前世の記憶が欠けている。


 過去の出来事なんかは覚えているのだが、人の顔や思い出なんかはぼんやりとしている。だから正直、『家族』というものがピンとこないのだ。


 それがどういうものなのかも知ってみたいし、本当は『家族』と会ってみたいのかもしれない。


 そう言うと、ネフィアは複雑そうに視線を下に向けた。


「じゃあ、お嬢様は知らないのですか?」

「? 何を?」


「当主様が、どうしてお嬢様のことを――」


 その瞬間、ネフィアの言葉が途切れた。

 彼女の視線が、窓の外へと向かう。


 一瞬、人影が見えた。


(あれ? ネフィアの知り合い?)


 そう思って彼女を見ると、目を見開いたまま固まっていた。その手は小刻みに揺れている。何かに怯えているようだ。


 明らかに、様子がおかしい。


「どうしたの、ネフィア?」


 声を掛けると、彼女はびくりと体を震わせた。


「いえ、なんでもありません。あの、少し外に行ってきてもいいですか?」

「外? どこに行くの?」


「ええっと……大事な用事がありまして」


「用事? 大丈夫だけど……」

 いったいどうしたのだろうか。この様子からすれば、急ぎの用なのだろうが。


 ネフィアは店から出ると、人ごみの中へと走って行ってしまった。

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