第六章-6-『ウィリアム兄様』
こんにちわ、ディラン伯爵家三男のヘンリーです。ディラン伯爵家の別邸で次期当主様の提案通り、軽く変装をした僕たち『魔女たん救出部隊』は、美味しいご飯を頂いてます。
次期当主様が「事の次第をルーカスと共有したい」と言って連絡を取ってくれたんだけど、ルーカス王子殿下は、今 すごーく忙しいみたいなんだよね。国王陛下が病で伏せってるってのはトップシークレットらしいんだけど、民衆の前に姿を現せなくなって、結局、みんな薄々勘づいてるみたい。広場のオジサンもそう言ってたしね。それで、かなり前からルーカス王子殿下は国王陛下の政務も代わりにやってるらしいんだけど、王宮内は派閥があったりして上手く機能出来てないのが実情らしい…。ルーカス王子殿下は立派な王子様だと思うんだけど、ほら、隣国サイラス王国の王女との間に生まれた子だから、血統を重んじる うるさい貴族もたくさん居るんだろうね。それに、こっちのジェームズ王子殿下は歴史書で読んだジェームズ王子殿下そのものみたいで、二人の仲が悪い上に 頻繁に魔力暴走した義弟の後始末もルーカス王子殿下はしてるみたい…。次期当主様も、もちろん色々 手伝ってるんだろうけど、こっちのティム兄様はベッドの住人だって言うし、ヘンリーは引きこもりだって言うし、手が回らなくて全力では手伝えて無いんだろうな…。
それでも、報告を受けたルーカス王子殿下は「重要」と判断してくれたみたいで、夜中にこっそりこの別邸にやって来てくれる事になったの。何だか申し訳ないけど…。
なので、ルーカス王子殿下が到着するまでご飯を頂いて待ってる訳です。ちなみに僕は、眠くなったら寝ちゃって良いって言われてるんだけど、まあ 話し合いに参加する訳じゃないから寝てても ぜーんぜん問題ないんだけど、やっぱり ちゃんと起きてたいよね!
「はい、ヘンリー」
そんな事を考えてたら、ティム兄様がデザートの苺を「あーん」してくれる。もちろん、素直に口をあける僕。その様子を目を見張って観てる次期当主様。あれ?どうしたのかな?
「…君たちは…、本当に仲が良いんだな…」
ボソリと呟くようにそういう次期当主様の顔は、なんだか遠いところを見てるみたい。
「…ヘンリーももう四つになってだいぶ経ちますから、そろそろ食事のマナーを教えたいんですがね…」
チラリと僕たちを見て、そう言うテオ兄様。聞こえてるのにそれを無視するティム兄様。「ほら、ヘンリー、あーん♡」
「どうにもウチの次男は末っ子が可愛くて仕方ないようでね、長男の威厳なんて その辺の石より軽いんです。」困ったものだ、と紅茶を啜るテオ兄様に「ブハッ」と吹き出す次期当主様。
「あ…、すまない。ふふ…いや、あんまりにもウチと違うものでね。そうか…そういう世界もあるんだな…」
深く息を吐いて、そう言う。それを聞いてティム兄様が声をかける。
「あの…テオドール兄様…」それを聞いてテオ兄様と次期当主様がパッとティム兄様に目を向ける。「あ、すいません、えーと、…次期当主様…?」
「なんだい?」
優しい笑顔はテオ兄様と同じだ。
「…僕、薬湯の研究をしていまして…、改良した物を幾つか持っているんです。こっちの、ウィリアム…が完治するかは分からないんですけど、少しはお役にたてると思うので、お見舞いさせて頂けないでしょうか」
「ウィリアム、ソレは大事なものなんじゃないのか?」
眉間に皺を寄せてジェーちゃが聞く。ここで数を減らしてしまっていいのか、と言う事だと思う。
「材料があればこちらでも生成可能ですし…、何より沢山持ってきましたから、数は足りると思います」
ニコッと笑うティム兄様可愛い!ジェーちゃはそれを受けてチラリとテオ兄様に目を向ける。
「…こっちのウィリアムの状態がどれ程なのかは診てみないと分からないと思うが、ウチのウィリアムの薬は凄いぞ!切り傷擦り傷が、たちまち塞がるんだ」
ドヤァッとテオ兄様が言うのに、次期当主様は「ウィリアムにそんな特技が…」と目を見張っている。凄くなんかないですよ!とティム兄様は慌ててるけど、ティム兄様が凄いのは僕も知ってるもんね!ふふん。
◇◇◇◇◇
ウィリアム兄様の部屋は本邸にあるので、この別邸から移動しなければならない。ルーカス王子殿下もすぐにはこちらに来れそうにないので、伝令を頼んで待ち合わせを本邸に変えて貰い、馬車に乗り込んだ僕らは一路、夕闇が降り始めた街を ティム兄様の元へと急いだ。
一刻ほどで本邸に着き、向こうと見た目の変わらない我が家へと足を踏み入れた。次期当主様が使用人さんたちに「縁戚の子らだ」と紹介して貰い、二階の日当たりの良い部屋で休んでいるティム兄様の部屋まで案内してもらった。ティム兄様は、こっちの自分と相対するわけで、何とも緊張したお顔をしてる。もう一人の自分だなんて、そりゃ緊張するよね。
「…ウィリアム、入るよ」
広い清潔な部屋は 大きなベッドを中央に据え、そこでフカフカの毛布に埋まるようにして休んでいるのがティム兄様らしい。僕を抱っこするティム兄様の喉が ゴクリと鳴った。ソッとそばまで皆で寄ると、横たわったティムは その白い顔にある、綺麗なまつ毛を揺らして僕らを見た。
「…おや、テオドール兄様 今日は賑やかなんですね。」
微笑もうとする頬は、ぎこちない。それでも、紛れもなくティム兄様だった。
「ウィリアム、この子たちは遠い親戚でね…。今日はお前に薬を持って来てくれたんだよ」
馬車の中で、テオ兄様がこれまでの事を次期当主様に話して聞かせていた。そのせいか、次期当主様はティム兄様の薬が、こっちのティム兄様の容態を良くするに違いないと思ってるみたいだ。信じてくれて嬉しい。
「薬?」
「そうだ…、ほら」
次期当主様に目配せされ、ティム兄様がおずおずとカバンの中から、改良された薬丸を取り出す。ナイトテーブルにあった水差しからコップにそそいで、水を用意するテオ兄様。
「…これまでは外傷にしか速効性が無かったのですが、今、病に効く方法を幾つか試しておりまして…」
そう言って薬丸を手渡すと、こっちのティム兄様はそれを受け取り、ジッと見つめた後、「では、頂きますね」と言ってテオ兄様からコップを受け取り、その薬丸を飲み込んだ。皆が「…ッ」と息を詰める。そんなみんなの目が気恥しいのか、ティム兄様のお顔は真っ白から ほんのり赤みがさした。数分もたたないうちに、「あれ…」と零すティム兄様。それを受けて「どうした、ウィリアム? どこか痛むのか?」と慌てる次期当主様。
「…いえ、…凄いッ ずっとダルく腹痛が酷かったのですが…それが和らいで…いえ、痛みが止まりました……」
唖然としながら そう言うティム兄様に、テオ兄様が小さくガッツポーズするのが見えてしまった。だよね、自慢の弟だもんね。僕らのティム兄様は凄いんだから!
ガバッと、唖然としてるティム兄様を抱き締めて次期当主様が鼻をすする。ティム兄様はなかり前から具合が悪かったみたいで、次期当主様は それはそれは心配してたんだ。良かったね、これできっと元気になるよ!
「…ごめんなさい、テオドール兄様。また、生き残ってしまいました…」
大柄なテオ兄様に抱きしめられた奥から、か細い声がそう言う。
「…なに?」
その声を聞き咎めて、次期当主様の声が尖る。
「…僕は…僕は、生きているべきでは無いのに…」
「!!!」
急にどうしたんだろう?こっちのティム兄様は泣きながらそう言ってる。僕らは皆 ビックリして声も出ない。ティム兄様だけが ハッ としたお顔になった。次期当主様が何も言えないでいるのに、テオ兄様が声を張った。
「ウィリアム、それは違う!母様が亡くなったのはお前のせいでは無いし、お前が謝る必要なんてないんだ!」
ビックリして皆がテオ兄様に目を向ける。
「母様は元から体が丈夫な方では無かった。俺の時にも体調を崩したんだ、それでもお前を宿した時にはとても喜んでいた。お前と逢えるのを楽しみにしていたんだ!だから、お前は母様の分まで幸せにならなくちゃいけないんだ!」
「…!」
こっちのティム兄様の体がグッと強張る。
「俺はお前を愛している、勿論、父上もだ。誰に気兼ねする必要も無い。お前は堂々と生きてて良いんだ、お前は、母様からのプレゼントなんだから。」
ワッとこっちのティム兄様が泣き出した。それを次期当主様がギュッと抱きしめる。
「…そうだよ、ウィリアム。もっと早くにそう言ってやれたら良かったな…。ごめんな、不甲斐ない兄で…お前は俺たちの大事な家族なんだ…」
次期当主様の声も鼻声だ。「いいえ…いいえ…」と被りを振ってこっちのティム兄様が、次期当主様にすがりつく。そっか…、そう言えば、ティム兄様が生まれた時、ティム兄様たちのお母さんは亡くなっちゃったんだったよね。その後、ヘンリーのお母さんが嫁いで来たんだ。僕が事故の後、二人にあった時、ティム兄様はそんな素振りをみせなかったけど、本当はずっと自分が生まれた事でお母さんを失ったことを、ずっと責めていたのかな…。そう思って、ティム兄様を見上げると、ティム兄様は ソッとテオ兄様の手に触れて、「…ずっと昔…何度も僕にそう言ってくれましたね…」って、微笑んでた。
そっかぁ、あっちの世界は僕が来た事で変化したと思ってたけど、その前から違う道を歩み始めてたのかも知れないね。これから、こっちのテオ兄様とティム兄様も、良い方に向かうといいな。
ディラン伯爵家は三人兄弟。なら、次はヘンリーの番かな?




