第六章-5-『もうひとつのディラン伯爵家』
こっちのテオ兄様、次期当主様の提案で、僕たちは軽く変装する事になった。物語の魔法使いのように 変身魔法が使えたら凄いんだけど、現実にはそんな魔法が使えるのは『大魔法使い』と呼ばれ、どんな魔法も使える魔女たん、女神アレクシスくらい。まあ、変身魔法を祝福として授かってる人なら使えると思うけど、そもそも祝福は特別な魔法で、使い方によっては神にも悪にも成り得るから、秘匿するのが普通。どれくらいの人がその魔法を使えるか分からない。変身して悪い事しても 元の姿に戻ればバレないって事だもんね? それも透明化と同じくらい、怖いな〜。でも滅多に居ない透明化使いでも『対策』されてるみたいだから、変身魔法も何かしらの対策はされてるのかな〜。その辺は勉強不足で良く知らないんだよね…。
それで僕は銀髪を隠す為に ドール帽を被る事になったの…、そう、ダニエルくんちで被ってた あの赤ちゃんみたいなフワフワのフリルが着いた リボンを首の下で縛る、あの 赤ちゃん帽だよ…。それに合わせてか、下のお洋服もフリルが ふんだんにあしらわれた白いシャツと半ズボン。もう、どっから見ても「赤ちゃん」じゃん〜。それに比べて、テオ兄様とティム兄様は髪型を変えて、メガネをつけたりして 格好良いんだよ!高位貴族の息子って感じ、まあ 本当に伯爵家の息子な訳だから、さもありなんって感じだけど、凄く素敵なんだ〜。テオ兄様は濃い青を基調とした装いで、真っ白のシャツの上に羽織った 濃青のベストに金糸が織り込まれて上品だし、黒に近いスラックスにも細かい装飾がたくさんついてるし、オールバックにした青い髪色にメガネをして知的で素敵なんだよ〜!
ティム兄様は前髪を真ん中分けにして 可愛いおデコが見える髪型になったの。ティム兄様も青が基調のお洋服なんだけど、テオ兄様よりも ぐっと薄くて、水色に近いかな。だから華やかな雰囲気になってて、可愛らしさを全面に押し出した仕上がりになっております。これには、テオ兄様も次期当主もご満悦の表情を浮かべております!ちょっと恥ずかしそうな お顔してるティム兄様が、また素敵なんですよね〜!僕のお顔も ニッコリしてしまいます。
そして、ジェーちゃ!こっちの第二王子殿下は滅多に人前に出ないらしく、子供の頃の姿を知ってる人が少なくて、変装しなくても良さそうなんだけど、ジェーちゃの黒髪は特徴的だから、怪しまれる確率が高いんだよね。勿論、黒髪の人がいない訳じゃないけど、ここまで濡れたような漆黒の髪色は珍しいし、それにそれは魔力故だから、周りに魔力保持量が多いってバレるのも面倒だしね。だから、僕と同じように髪色を隠す事になったんだけど、赤ちゃん帽の僕と違って、フード付きのマントを被る事になったの。軽い素材で、貴族だけでなく商人達にも人気のあるマントらしい。細かい装飾が素敵な上に、髪色だけでなくお顔も隠れるから、後暗い事する人には持ってこいなのかもね。テオ兄様達が青を基調とした服装なので、ジェーちゃも兄弟という設定の為、同じような青色の服になったよ。テオ兄様よりもワイルドな雰囲気で、格好良い!ジェーちゃって、いつも王子然とした服装が多いけど、(本物の王子様だから当たり前だけど)こうやって貴族の、ゴテゴテしてない シュッとした服装も凄く似合うね!
僕がキラキラした瞳でジェーちゃを見て、そんな感想をいだいていると、それに気付いジェーちゃが照れるでも無く「…フンッ」と決めポーズをしてドヤ顔した!僕は、ジェーちゃの こういう所が、凄い可愛いらしいなぁって思うんだ。でも、そう思ったのは僕だけじゃないらしく、テオ兄様も次期当主様も「フフ」って微笑んでる。でもそれにジェーちゃは気付かず、「ヘンリーおいで!」と両手を広げた。もし気付いてたら また口喧嘩が始まるところだよ。
「…本当に驚くな。あの第二王子殿下にも、このようになる可能性があったのだろうか…。」
僕を抱っこしてクルクル廻るジェーちゃは「ヘンリーは可愛いな!」とご機嫌だ。でも次期当主様は複雑そうな お顔をしてる。こっちの第二王子殿下はそんなにジェーちゃと違うのかな? でも僕が初めて会った時からジェーちゃってこんな感じだったし…、分かれたとは云え ”第二王子ジェームズ”って基本的には同じなんじゃ無いの?
「どうした、ヘンリー。腹が空いたのか?」
僕がジェーちゃについて考えていると、おとなしくなった僕が お腹を減らしてると勘違いして、ジェーちゃが そんな事を聞いてくる。
「貴方が調子に乗ってグルグル廻るから、目が回ってしまったんでしょう。ほら、ヘンリーおいで」
壁際で次期当主様と並んで立っていたテオ兄様が、サッと近付いて ジェーちゃの腕の中から僕を取り返しながら、ムッとしたお顔をしてジェーちゃに言う。
「何を言う!ヘンリーは喜んでいたじゃないか!」
「最初だけでしょう、しつこいんですよ、貴方は!」
パッと僕を抱いて 後ろを向きながら、文句を言って来たジェーちゃにお顔だけ向けてテオ兄様が睨む。「なんだとぅ!」「何をっ!」と言い合うポメラニアンケンカの後ろでは、次期当主様とティム兄様が クスクス笑い合っている。
「彼等は本当に仲がいいな、まるで兄弟のようだ」
「フフ、そうですね。でもジェームズ王子殿下とルーカス王子殿下も、とっても仲が良いですよ」
「何ッ…それは本当か?! ウィリアム。彼等 義兄弟は、本当に仲が良いのか? 真の意味で…?」
急に真面目なお顔になって、次期当主様がティム兄様の両肩を掴んで問いかける。キョトンとしたティム兄様は不思議そうに答えた。
「…真の意味…? よく分かりませんが、一緒に食事をしたり、作戦を練ったり、おふたりはとても信頼し合っていると思いますよ。私達がここへ来る時も…その時はまさかこの国に来る事になるとは思いませんでしたが、お見送りをして下さり、いつでも助けを呼べと仰って下さいました。ジェームズ王子殿下が歪みを切り裂いた時は、本当に心配されて……」
「…そちらの国は、とても良い国なんだな…」
ティム兄様の話を聴きながら、次期当主様は 何故だか 悲しそうな表情をした。
「――でも、最初から仲が良かった訳ではないようです。僕…あ、私は面識が無かったのですが、テオドール兄様はルーカス王子殿下と顔なじみでしたので、二人の王子殿下が疎遠だという事は仰ってました」
「…そうなのか? それなら、どうして…」
「――ヘンリーを、度々 見舞うジェームズ王子殿下に興味を持たれたようでした」
「…ヘンリー…」
考えながら話すティム兄様に、次期当主様が ポツリと僕の名前を口にする。
「ええ、そうです。ヘンリーが馬車事故に合い、その後も川の中へと落ちたりして、満足に動くことも出来なくなって…それで、従兄弟を心配するのは当然だと言い張ってジェームズ王子殿下が 我が家に頻繁に来るようになりまして――」
「…確かにヘンリーは馬車事故に合ったが、それで第二王子殿下がディラン伯爵家に来る事は無かったぞ」
「えっ…そう、なのですか?」
「ああ、だが、それから暫くして…成人の儀の後だったか、何かのパーティーで二人は知り合ったらしいが…」
そこで眉間に皺を寄せる次期当主様。
「そうなのですか…では、ジェームズ王子殿下はヘンリーに対してあんな風では無いのですか?」
チラリとこっちを見ながら言うティム兄様と目が合った。ニコ。目が合って微笑んだ僕に、ティム兄様もニコってしてくれる。
「――ある意味、同じかも知れんな。『執着』という定義でなら」
「『執着』?」
ふぅ、とため息をついて次期当主様がティム兄様の頭を撫でる。
「…ヘンリーの属性については知っているな?」
「ええ、強化魔法ですよね…?」
ゴクリと唾を飲み込んで ティム兄様が言う。きっと頭の中には大魔人との戦いが浮かんでるのかも。
「…第二王子殿下はソレを独占している。元々、魔力量が多い方だ。そんな人がヘンリーを抱え込めば、歯向かう者など居ないに等しい。…この度の『王太子宣言』も、ヘンリーが居てこそ、だろう…」
「ヘンリーは、ヘンリーはそれで良いと思って居るんですか?…僕のヘンリーだったら、メッって叱ると思うんですけど…」
下を向きながらティム兄様が言う。そうだね!暴君はダメだよね!
「ハハハッ…『めっ』か。…ヘンリーがそう言うところなんて、想像もつかないな…。情けない事に、私達は信頼どころか、キチンと話し合った事さえ無いんだよ…」
「えっ……それは、どういう…」
まさかの発言に目を丸くするティム兄様。でも僕は解るよ。そうだよね、正史ではヘンリーは産まれた時からお母様と別邸で過ごしてて、同じ敷地内とは云え 本邸で暮らすディラン伯爵家とは距離を置いていたし、馬車事故の後は 唯一味方であるお母様を喪って、ひとり 別邸で引きこもりになったからディラン伯爵家のみんなとは、ちゃんと話をする機会が あんまり無かったんだ。それにディラン伯爵が母親を暗殺したって嘘を吹き込まれて、復讐を誓っちゃってたしね。うーん、あの歴史書で書かれてた事が、この国では現在進行形で進んでるって事か…。
「…恥を忍んで言うが…、ヘンリーはディラン家の血を引いて居ない。父は不義の子を宿したエイダン婦人の夫となるようオーブリー公爵から頼まれて婚姻関係となったが、エイダン婦人…義母上はその事を酷く申し訳なく思って居て、別邸へ籠ると私達との交流を最小限にした。勿論、ヘンリーが産まれたあとも交流は無かった。下手にこちらから近付いて、義母上を傷つけてしまうのも良くないと、距離をあぐねていた私達が悪かったんだ。その内、あの馬車事故が起こり――そこで、私達は初めてヘンリーと相対した。だが、ヘンリーにとって私達は家族では無く、知らない人達でしか無い 。もっと親身になるべきだったのに、ヘンリーをどう扱って良いのか解らず――結局、私達の溝は埋まる事が無かった」
「…そんな…確かに、僕達も昔はそうでしたが…でもヘンリーは、あんなに、可愛いのに――…」
青い顔をしてそう言うティム兄様に、次期当主様が優しく微笑む。
「そうだな。…知らなかったよ。ヘンリーが笑うところなんて、見た事が無かったから…。彼はいつも、感情の無い瞳で私達を見ていた、でも本当は、あんな風だったんだろうな…」
次期当主様がそう言って僕達の方を見る。いやあのね…実は僕は『ヘンリー』じゃ無いからね。歴史書を読んでたからニコニコキャンペーンを頑張って、今でこそディラン伯爵家は仲良し家族だけど、そもそも、僕 ヘンリーじゃ無くてノアだったし。だから、次期当主様のせいではないって言うか…でもヘンリーが僕じゃ無かったとしても、心を通わせようとニコニコキャンペーンを双方でしてたら、もっと『仲良し家族』にはなれてたかも知れないよね。つまり〜えーと…相手と話すって大事だなって思うですよ。因みに、テオ兄様とジェーちゃの口喧嘩はまだまだ終わってないよ。ふう。
お着替えが済んで、作戦会議をする事になりました。
僕達はディラン伯爵家の縁戚、四兄弟。王都見物に来たと言う設定で、使用人さんとか周りの貴族達に説明するそうです。それぞれの個室を用意するって次期当主様は言ってくれたんだけど、ジェーちゃが僕と同じ部屋が良いって言い出して またテオ兄様とポメラニアンケンカが始まり、結局、僕ら四人でひと部屋使う事になりました。ひと部屋と言っても、寝室に急遽もうひとつベッドを増やしても 全然狭くないくらい広いのよ。だからなんの不自由もありません。
そして、本格的に今まで起こった事、魔女たんの事や 閉じ込められていた昔の王妃様とか、女神の使者Kの話をしてたんだけど、途中途中で 次期当主様が質問を挟みながら進むから、話終わる頃には真夜中になってしまった。勿論、僕は途中から夢の中へと行ってしまって、記憶が無いんだけど、朝起きた時に、テオ兄様が教えてくれたの。
それで狂乱の魔術師を探すのには、王宮から探すのが良いんじゃないかって話が纏まったらしい。こっちの国でもテオ兄様とルーカス王子殿下は仲良しだから、まずはルーカス王子殿下にこの話を聞かせたいんだって。それで、ええと、ルーカス王子殿下は鑑定の祝福を持ってるから、ルーカス王子殿下なら狂乱の魔術師を見付けられるんじゃないかって次期当主様が言ってたみたい。確かに!片っ端から鑑定していけば、見付けられるかも知れないよね!でもテオ兄様はその案に、あまり乗り気じゃないみたい。
ルーカス王子殿下の鑑定で、どこまで解るか分からないけど、不特定多数を視るのは大変だし、ルーカス王子殿下の魔力量は人より多いけど、たくさんの人を視たら魔力だって いっぱい使うだろうし、何より国王陛下が病で伏せっていて、その分の仕事もしなくちゃいけないみたいで、すごーく忙しいらしい!何より、祝福を使う時に詠唱するから、相手に警戒されちゃうんだって。確かに、僕は無詠唱で祝福を使えるけど、普通は詠唱が必要だもんね。
「こっちのルーカスは無詠唱で祝福が使えないとはな…『違い』はかなりあるみたいだな」
ベッドに座り 腕を組んで考え込むテオ兄様の隣で、体を起こしたジェーちゃが目を擦りながら質問する。
「…なんだ、テオドール。その言い方では義兄上は無詠唱で祝福が使えるみたいでは無いか…」
「使えますよ、知らないんですか?」
え!使えるの?! ビックリした僕とジェーちゃが目をまん丸くする。
「いちいち詠唱してたら、近付いて来る奴が 怪しい奴かどうか判断出来ないじゃ無いですか」
当然、と云うようにテオ兄様が言う。確かに…、せっかく貰った祝福を最大限に活用するには無詠唱が一番かも。油断させておいて どんな奴か調べられたらチートじゃん!
「だ!だが…ッ 無詠唱で魔力を引き出せば、かなり身体に負担がかかるだろう!それに魔法の成功率も下がると…!」
あわあわしながらジェーちゃが言い募る。そうだよね、普通はそう家庭教師から習うよね。実際、無詠唱だと魔法が使えない人も多いって聞くし。
「そりゃ、一度二度ならそうかも知れませんが、ルーカス王子殿下は幼い頃から鍛錬をしていましたからね。…だからこそ、コチラのルーカス王子殿下が使えないのが、少し気にかかりますね」
そうなんだぁ、ルーカス王子殿下は ちっちゃい頃から頑張り屋だったんだねぇ。それにルーカス王子殿下は第一王子だし、『王子殿下』って云うのは大変な重荷なのかも。
とりあえず、まだ毛布にくるまって むにゃむにゃしてるティム兄様を起こして朝食へと向かいます。
「ウィリアム、ほら 起きなさい!」
「…お、おきてましゅ、…おきてましゅったらぁ…」




