第六章-4-『邂逅』
こんにちは!ディラン伯爵家の三男 ヘンリーです。
城下町の広場で情報収集した僕たちは、テオ兄様の提案で 拠点となる場所を確保しようと、ディラン伯爵家の別邸に来ています。狂乱の魔術師を探すにも すぐは見つからないだろうし、ご飯食べたり寝たりするには やっぱり拠点が必要だもんね。このお屋敷は昔からディラン伯爵家が所有してる屋敷らしいんだけど、場所が王都の外れだし、義父がたまに訪れるくらいしか使われてないんだって。それでも勿論、ここにも使用人の人たちが働いてるから、僕たちの正体がバレたらまずいわけ。
コッチの僕たちは今より七歳年上だから、テオ兄様はとっくに成人してる大人な訳だし…(十五歳で成人の儀をするから)僕らを見て本人だとは思わないだろうけど、少年姿の僕らを見たら 皆、おかしく思うよね。怪しまれちゃうと思うんだけど…ティム兄様も心配してたし。でもテオ兄様は「多分、大丈夫だ」って言って そのお屋敷に一行を連れて行った。貴族は家で馬車を所有してるから何処へ行くのにも あまり不便はないんだけど、今の僕らは平民と変わらない状態だから足を調達しなくちゃならない。馬やロバを借りるか、同じ方向へ行く人に頼んでホロ馬車に乗り合わせてもらうか、回遊してる乗り合い馬車に乗るかなんだけど…護衛さんが ひとっ走りしてくれてホロ馬車を借りて来てくれたんだ。それに帽子と布も買って来てくれて、念の為、頭から布をかぶって顔を隠すんだって。僕らディラン伯爵家の者はまだしも、ジェーちゃは『第二王子』だもんね、あまり顔を見られるわけにもいかないよね。
そうしてようやく、ディラン伯爵家別邸に辿り着いた。
テオ兄様はどうするんだろ…ってドキドキしてると、中から執事さんが現れて僕らを招き入れてくれた。
「ディラン伯爵家の遠戚の方々ですね、テオドール様が応接室でお待ちです。」
ニコリと微笑まれて応接室まで案内してくれてる。その対応に僕は、いや 僕らはびっくりした。前を歩くテオ兄様と並んでるジェーちゃがコッソリ話してる。
「…おいっ、テオドール…これはどう言う事だ…?」
「…先程、町で手紙を頼んだんですよ」
手紙? ティム兄様に抱っこされてる僕が首をひねるのと同じ仕草でジェーちゃも首を傾げてる。その疑問は直ぐに解決した。執事さんが応接室のドアを開けると、素晴らしく美しい大人の色気が漂うテオ兄様が、こう言ったから。
「ようこそ、アデルバードの英雄くん達」
なんと、テオ兄様はこっちのテオ兄様に手紙を出してたみたい。なるほど、これなら拠点の問題は解決するよね。でも、どんな内容を書いたのか分からないけど、こっちのテオ兄様はそんな手紙が届いたからって、それを信じたのかな?怪しいよね。こっちのテオ兄様は僕らにソファを勧め、メイドさんがお茶を運び終えると人払いをした。ドキドキしちゃう。まあ 僕は成り行きを見守るしか出来ないけどさ。ソファに座った僕らの後ろには、緊張した顔で護衛さん二人が立っている。
「…さて、手紙を受け取った時は面白半分だったが、こうしていざ相対すると笑い話では済まないな。詳しい話を聞かせて貰えるか?テオドール」
大人になったテオ兄様は義父に似てる、やっぱり親子だなぁって思ってると、足を組み替えた こっちのテオ兄様が瞳を細めてテオ兄様に視線を向けた。
「信じて頂けて光栄です、ディラン伯爵次期御当主」
ニッコリ笑ってテオ兄様がこっちのテオ兄様に言う。脳がバグりそうだ。
「そりゃ信じるさ。何しろ私しか知らない事ばかりが手紙には書かれていたんだからね。」
肩をくすめてこっちのテオ兄様が言う。そういう仕草が大人っぽい。
「さて、では私達がこの国へ来た目的を説明します。ご協力頂けるのならば、そちらにとっても損にはなりません。まあ、まずは自己紹介から始めましょうか、コチラに居るのはご存知の通り、私の可愛い弟達 ウィリアムとヘンリー」
テオ兄様がそう言うとこっちのテオ兄様は優しい瞳になった。そして小さな声で「…ヘンリー…」と呟いた。
「そしてその隣に居るのは…私達の世界の第二王子ジェームズ殿下です」
テオ兄様に紹介されて、ジェーちゃが緊張した顔で縦に軽く頭を振る。こっちのテオ兄様はそれを見て目を見開いた。
「なっ……、ジェームズ王子殿下…だと…?」
えっ そんな驚く? こっちのジェーちゃは十七歳だから…テオ兄様と同じで見た目は違うだろうけど、でも こんな風に面影はあると思うんだけど…。
「テオドール…君達の世界では、親交があるのか?彼は本当に第二王子殿下なのか?」
「む!何だ貴様、この俺が偽物だと言うつもりか?」
こっちのテオ兄様がテオ兄様に問いかけると、ジェーちゃが荒ぶった。
「まあまあ、落ち着いて下さい。こっちの貴方がどんな人間か、さっきの掲示板で解るでしょう。次期当主が疑うのは仕方ないでしょう」
「はあ?どういう意味だ!テオドール?!」
「分かりませんか?王太子に名乗りを上げてたのを見たでしょう、こっちの貴方は『手に負えないきかん坊』って事ですよ!」
いつものようにポメラニアンケンカが始まるのかと思って、僕とティム兄様がヤレヤレ顔になったけど、なんとジェーちゃは「うぐぐ…ッ」と言って黙った。それにビックリしたのはテオ兄様じゃ無くて、こっちの…ええっと紛らわしいな…、こっちのテオ兄様、次期当主、だった。
「…テオドール…、一緒に居る時点で まさかと思ったが…君達には本当に親交があるんだな…」
唖然とした顔で次期当主が言う。それを受けてテオ兄様は「ほう…」と言った。
「…あの掲示板や、事前情報で解っているつもりでしたが、コチラの第二王子殿下は随分、気難しい方のようですね」
「気難しい、なんてもんじゃ無いさ。魔力が多いのも考えものだ、あの方は未だに魔力暴走を起こし、近付くものも少ないと云うのに、旗印となる事を選んだ」
はぁ、とため息をついて そう言う次期当主。
「…何という 馬鹿げた事を…!義兄上と並び立つなど…ッ 」
顔を歪ませてそう言うジェーちゃにテオ兄様が言う。
「仮に王太子になれたとして…魔力暴走する人間に国を治められるとは思えませんね。傀儡になるのが関の山でしょう」
「テオドール!貴様、本当の事だからって言って良いって事にはならないんだぞ!」
本当の事って…ジェーちゃってば…。二人が口喧嘩するのはいつもの事だから、僕らは生暖かい目で見てたけど、次期当主は本当にビックリした顔してる。
「…凄いな、テオドール…。こっちの第二王子殿下にそんな口を聞いたら消し炭になるぞ…」
「ふむ、やっぱり こういう感じでは無いんですね。ところでコチラのウィリアムとヘンリーは元気に暮らしているのですか?」
その問に次期当主は複雑な顔をした。
「…ウィリアムは身体が弱く、今は床に伏せっている。…ヘンリーは…あまり自分の部屋から出てこないな…」
えっ、こっちのティム兄様 具合悪いのっ?! 心配!
「そうですか…そう言えば国王陛下も、具合がすぐれないとか…」
テオ兄様の言葉に次期当主は首をすくめる。
「情報が早いな、手紙によれば 君達はまだこっちに来たばかりなんだろう?」
「情報は武器になりますから」
そう言ったテオ兄様と次期当主が目線で頷き合う。
「よし、では詳しい話を聞かせて貰うか」
パン、と両手をうち鳴らし、足を組み替えた次期当主が場を仕切り直したので、僕らを見回したテオ兄様が代表して話し出した。




