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悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


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第六章-3-『もうひとつのアデルバード王国』


 こんにちわ、ディラン伯爵家三男のヘンリーです。

歪みに入って『もう一つのアデルバード王国』らしい所に出て、ジェーちゃの話を皆で聞いてたの。ジェーちゃはファーニーさんから聞いたらしいんだけど、こっちの『もう一つのアデルバード王国』は いずれ大爆発して国が滅んでしまうらしい…!大事件なわけですよ…!ほら、僕がノアだった時に見つけた、あの 昔の王妃様の血文字!昔の王妃様は行き場の無くなった魔女たんの魔力が、あの空間に収まりきらなくて破裂するのを感じて助けを求めてた。でも、僕が召喚?されたのは昔の王妃様の図書室じゃなくて、こっちのアデルバード王国だった…。なんでなのかは分からないけど、僕はヘンリーの中に入っちゃって、以来ヘンリーとして頑張って来た(これでも)。でも、僕がいなくなったアデルバード王国は、魔女たんの魔力を抑えきれなくなって、とうとう爆発してしまったらしい…!魔肝(まかん)から作られる魔力は使えば勿論 減るけど、使わなくても自然に減って行く。魔術塔の先生達は、体の疲労回復とか軽度の傷を治すために無意識に魔肝から作られる魔力を使っているんじゃないかと言ってる。だから、普通は『魔力を貯める』なんて事は出来ないんだけど、ジェーちゃのお母さん、即妃プルクラ様は使わなかった魔力を貯めておく事が出来る、きっとそういう祝福(ギフト)なんだろうね。もし、ジェーちゃにもこの祝福があれば、多すぎる魔力を制御出来ずに魔力暴走させちゃう なんて事もなかったのかもね…。

 昔の王妃様が閉じ込められていた図書館が どういった構造になってるのか分からないけど、魔女たんから吸い上げられた魔力はあの図書館に集められ、アデルバードの子供達に与えられていた。昔の王妃様が魔女たんを閉じ込めたのは、まあ、解る気もするけど、それで自分まで閉じ込められちゃうとは思いもしなかっただろうね。それどころか、『魔法使いの国アデルバード王国』から、国際結婚によって 魔肝を持つ子供が生まれなくなるなんて…受け取り手の無くなった魔力はあの図書館に溜まり続ける。水風船に 許容量以上の水を入れたら爆発するのと同じ。僕は闇魔法使いだから、そこが魔法で作られたものなら無効化出来る。現に魔女たんを解放する事も、昔の王妃様を連れ出す事も出来た。だから、()()アデルバード王国に閉じ込められている二人を、また連れ出せば、とりあえず大爆発は防げる筈…!なんだけど…、ファーニーさんがいうような、二つのアデルバード王国をひとつにするっていうのは、どうすればいいのかわかんない…。そんなの、考えた事もないし…。て、言うか、このアデルバード王国にも偉い人とか、それこそ王様だっているのに大爆発を止められなかったんだね…、僕なんて闇魔法が使える公爵家の三男なだけなのにさ。ちょっと責任が重大じゃない?勿論 頑張るけどさ、もっとこの国のみんなに知らせて、みんなで頑張った方が良くない??

 


「とりあえず、ここが大教会内なのは間違いないですし…、ここから確認して行きましょう」

 テオ兄様の言葉にみんながコクリと頷く。さっきも話合ってたけど、この女神像があるって事は「アデルバード王国」に違いない。他の国は女神信仰じゃないし、創世神アレクシスの女神像はちょっと独特なんだよね。いかにも女神様〜って感じじゃなくて…ちょっと男らしいというか、攻撃態勢っぽい姿なんだ。だから間違いなくここはアデルバード王国の、王都にある大教会だと断言出来る!だけど…「今」が何年なのかが分からない。もしずーっと昔なら(昔の王妃様が生まれる前とか)あの狂乱の魔術師が居ない可能性がある。これだと困る。次はずーっと先、未来の場合。大爆発に間に合えば良いけど、もし大爆発後だったら、これも困る。でも『時戻り』が禁術であるように、時間を越えるのはすごく難しい、だから今がどの時代だとしても そこから時を遡る事も、進ませる事も出来ないって訳…。


 女神像がある大広間には誰も居なくて、上の方にある窓からサンサンと光が差し込んで居る。青空も見えるし、まだお昼くらいの時間なのかな?ティム兄様に抱っこされながらそんな事を考える。護衛の二人はソッと大扉に近寄って中の様子を探っているみたい。テオ兄様もジェーちゃも、辺りをキョロキョロと見回してる。すると、安全だと判断されたのか、護衛さん達が僕らを手招きしてる。その時、カーンカーンと大教会の屋根に設置されている鐘が鳴り出した。大魔人戦で僕らの大教会の鐘は粉々になっちゃったから、何だか懐かしい。この鐘は朝六時とお昼の十二時、夕方の六時、夜中の十二時に鳴るようになってて 皆、この鐘を聞いて動いてるんだ。今 鳴ったと言うことは…

「どうやら今は昼のようだな…。なら皆、食堂に集まって居るだろう。ここから出るのに丁度良いな」

 ジェーちゃの発言に皆が頷く。僕らはソッと大教会から外へ出た。誰とも会う事もなく青空の下に出ると、何故か ホッとした。

「さて…では、城下町へおりてみましょう。欲しい情報が得られるはずです」

 今度はテオ兄様の言葉に、また皆が頷く。もしもの事態に備えて変装した方が良いかもなんだけど、生憎、そういったものは持ってない。まさかこんな事になるなんて思わなかったもんね。ドキドキしながら乗り合いの馬車が止まる所まで行って、無事に城下町まで辿り着いた。貴族は専用の馬車を持ってるけど、市民はこうやって日に何本もある乗り合いの馬車で大教会までお祈りや、怪我を治して貰いにくるんだよ。この回遊している城下町と大教会を繋ぐ乗り合いの馬車は無料で、国の福祉の一環なんだよね。ユラユラ揺れる乗り合い馬車を適当な所で降りると、テオ兄様は掲示板の所へ歩いて行った。噴水のある大きな広場には国から連絡や、募集の紙が貼られている。他にも沢山掲示板はあって、市民達の情報交流の場になってる。辺りには店も多いし活気に溢れている。護衛さん達が市民に目を光らせてる間に、テオ兄様とジェーちゃは掲示されている紙を全て読んでるみたい。


「魔歴九九六年――…と言うことは…私達の国が魔歴九八九年なので、”七年先に出た” ということになりますね。思ったより離れて居なくて良かった…」

 テオ兄様が掲示板の日付けを確認しながら言うのに、ジェーちゃが唸る。

「…おい、これはどういう事だ?『ジェームズ王子殿下が王太子を表明』だと?」

 言われて皆がその掲示を見る。そこには確かに、ジェーちゃが王太子に名乗りを上げたと書かれている。王子達はとうとう決裂し、王座を争う構えだと…!ひぇ〜ッ、そっか、こっちのジェーちゃは僕が歴史で知ってるジェーちゃなんだ…!と、言う事は…!この後、テオ兄様達を葬ってルーカス王子殿下を暗殺するんだ…!ええっと確か、ジェームズ王子殿下が十九歳の時に王座につくんだったよね?それでその四年後に魔獣暴走(スタンピード)が起こって国が大変な事になるんだ。それを何とかジェームズ王子殿下、もうその時はジェームズ陛下か、が命を賭して制圧に成功する――けれども、壊滅的な被害に王の不在で国は長い間、不遇の時代をおくる事になる。この時に沢山の魔法使いも亡くなって、サイラス王国から援助として人が流れ込んで来たから、両国の親交は深まって、それは良いんだけど、国際結婚が進む事によって魔肝(まかん)を持つ子供が生まれにくくなっていった…それが一大事だと認識されるには長い時間がかかって、ノアが生まれた頃には魔法使いなんてほとんど居なかった…。

 つまり……まずはこっちのジェームズ王子殿下を止めなくちゃって事だね!!!だって、皆で力を合わせれば大魔人だって倒せたんだから!魔獣暴走(スタンピード)だって皆がいればなんとかなるはずだよ!


「こっちの貴方は随分、積極的なんですね」

 ジロリとテオ兄様に睨まれて、ジェーちゃが慌てる。

「俺じゃない!俺は義兄(あに)上の邪魔をする気なんて これっぽっちも無いぞ!『王子の仕事』も全て逃げてるしな!!」

「それはそれで、どうかと思いますけど…」

 必死で弁解するジェーちゃに、テオ兄様が呆れる。

「こちらの王子殿下達は仲が宜しくないのでしょうか…」

 心配げにティム兄様が掲示板を見ながら言う。そうだよね、あんな仲良しな二人を間近で観てたら、そういう感想になるよね。

「…王太子に名乗りを、と言うことはそういう事なんだろう」

「……」

 テオ兄様の言葉にジェーちゃは何も言わない。凄く顔色が悪いから心配になる。

「陛下はどう思ってらっしゃるんでしょうね…」

 護衛さんが腕組みをしながら独り言のように言う。

「確か…私達の陛下もどちらを『王太子』にすると言う事は明言なされておりませんでしたね。”名乗り” と言うことは、こちらの陛下も明言はされておられないのでしょうか…」

 もうひとりの護衛さんも言葉を返す。

「そうなんでしょうね…もし、王太子が決まって居ればこういう事にはならないでしょう」

 後を引き取るようにテオ兄様が言う。


「そりゃあ、陛下様はお身体が宜しくないからなぁ。早い内に王太子殿下を決められて置けば争う事も無かっただろうに…」

 いつの間にか側に商人らしき年老いた男が立っていた。

「陛下のお身体が…宜しくないのか?」

 驚いてテオ兄様がその男性に声を掛ける。

「あぁ、年々、状態が悪くなる一方だそうだ。…ところでアンタら、面白いな。”賢者殿” の子供の頃に似ている、もうすぐ祭りがあるから それの余興か?ハハ…」

「”賢者殿” だと…?」

 ジェーちゃが問いかけると、その男はにこやかに話だした。

「ああ、俺は王都で店を構えて長いからな。賢者殿…テオドール様が子供の頃に、何度か足を運んでもらった事があるのよ。あの方は昔っから聡明でなぁ、今はディラン伯爵となるか、王宮で宰相になるかで賭けをしてんのよ。俺は宰相になるに違いねぇと思ってるけどな!」

「テオドールが宰相だと…?!」

 楽しそうに話す男性にジェーちゃが食ってかかる。

「だが…第二王子殿下がもしも王様になっちまったら、この国はどうなっちまうのかなぁ〜。気に入らねぇの奴はすぐさま首が飛ぶってのは、どうやら噂だけじゃねぇそうだ。おっかねぇ おっかねぇ……」

 肩を落としてそう言うと、男性は店の中から呼ぶ声に応えながら戻って行った。


「…こっちのジェームズ王子殿下は、大人気のようですねぇ」

 チラリとテオ兄様がジェーちゃを見て言う。でもジェーちゃは、ふんっ と息を吐くと

「俺を”あんな奴”と一緒にするなッ 言っておくが、今じゃ俺はお前と肩を並べる『英雄』なんだからなッ!」

 と吠えた。僕は、てっきり、テオ兄様の言葉でジェーちゃが落ち込んじゃうかと思ってたから安心した。落ち込むどころが、なんかやる気満々みたい。


 なんでだろ?

 


 

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