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悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


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第六章-2-『混乱』


 星が煌めき 夜も更けたアデルバード王国の王子宮殿で、第二王子であるジェームズの側近ファーニーは、夜服に身を包み、後は寝るだけとなったジェームズと向かい合っていた。

「つまり、どういう事なんだ?」

 寝室にあるソファに胡座をかいて腕組みをしたジェームズの問いかけに、ファーニーはひとつ頷いてまた説明を始めた。

 湯浴みが済んだ後、メイドが淹れてくれた紅茶を飲んでいたジェームズは、ファーニーが二冊の本を携えてやって来たのを快く迎え入れた。ファーニーはジェームズの側近なので ジェームズの自室の隣の部屋を与えられていたが、夕食を摂った後は 呼ばなければやって来る事は無い。そのファーニーが尋ねて来たので珍しく思い、部屋に入れたのだが、珍しく思ったのは携えている二冊の本もだ。その本は、元王妃サングリアが居た空間にあった物で、このアデルバード王国の歴史が端的に書かれている。ヘンリーが持ち帰った後、陛下や魔術塔の人間が確認したあとそれはファーニーへと渡った。魔術塔の人間は言うまでもなく魔法の研究を使命として生きているようなオタク気質の人間が多いので、一も二もなく本の研究を行った。しかし持ち帰った二冊の本は 至って普通の本で、彼等の興味は急速に冷めた。それで手を上げたファーニーへと渡ったのだが、そもそもファーニーには魔肝(まかん)が無い為、魔法が使えない。その為、魔力以外の視点で本を探る事にした。


「ええ、ですから。この本が二冊ある、と言う事が『問題』だと思われます。本来であれば無数の選択肢を経て形成されるべき『歴史』はひとつ、一冊、であるべきなんです。サングリア元王妃殿下の言にも、ページが光った後 白紙に戻りまた文字が書かれたが、その内容は以前と違うものだと仰っておりました。歴史が改ざんされる時は、きっとその様に白紙となって書き換えられるんだと思います。しかし、何らかの要因によって本が二冊に分かれてしまった。つまり、『今のアデルバード王国』以外にも、進行中のもうひとつの『アデルバード王国』があると思われます。」

 同じ説明を、さっきよりも言葉を砕いて説明したが、それでもジェームズには理解し難いようで、眉間に皺を寄せている。チラリとその顔を見て、ファーニーはまた説明を続ける。

「つまり、似たような『国』があり、そちらの『国』へ創世神アレクシス様は行ってしまわれたのでは無いでしょうか」

「…なるほど。だから、ヘンリーが祝福(ギフト)言語通信を使っても返答が無いと、そう言う訳だな?違う『国』に居るのだから……」

 たどたどしくジェームズが答えると、ファーニーは顔を綻ばせた。

「ええ、ええ!流石、ジェームズ様ですッ」

「…だが、そうなると……どうなる?」

「そうですね、以前 創世神アレクシス様が閉じ込められていたと云うお話を聞いたところによると、『出て』しまった異空間には二度、入れないようですね。もしかしたら、明日 歪みに入ったとしても、サングリア元王妃殿下が閉じ込められていた場所には戻れないかも知れません。そうした場合…もしかしたら、もうひとつの『アデルバード王国』へ行ってしまうかも知れませんね……。まあ、他の異空間に着く可能性も有りますが。全て私の予想ですが、本の分だけ国の歴史…『国』が有ると思われます。詳しく読んだ所によると、片方の本には今現在の事までしか書かれて居ませんが、もう片方の本には随分先の話まで書かれて居ます。大爆発によってアデルバード王国が滅ぶ所まで」

 そこまで話すと、ファーニーはコホンと咳払いをした。ジェームズは理解しようと食い入るようにファーニーの話に耳を傾けている。


「このままでは、片方のアデルバード王国は滅亡してしまいます。しかし――この本を元のひとつに、『戻す』事が出来れば…『未来』は変わるかも、知れません…。勿論、今現在の事しか書かれていない本の行く末も、滅亡に繋がって居るかも知れませんが、違う可能性の方が高いと思います。何しろ、まだ白紙なのですから――、ですから、二つの本をひとつに出来れば、より良い『未来』に辿り着けるかも知れないんですよ」

 やや興奮気味に話すファーニーに、何となく理解したジェームズが また問いかける。

「…ふぅむ、ひとつに戻す、か…。それを、お前は出来るのか?」

「――難しいと思われます。なにしろ魔術塔の面々が放り出した事ですからね。そもそも私には魔肝が無いので、魔法も使えませんし……」

 声のトーンが下がり、下を向くファーニーにジェームズが言う。

「何を言う、魔法使いが誰も考えつかないような作戦を計画出来るお前に、魔肝の有る無しなど、関係有るか?」

「…ジェームズ様…ッ!」

 パァァ!と顔を光らせ、ファーニーが涙目になっている。


 


 ◇◇◇◇◇

「…それで?ファーニーさんは何と言っていたんですか?」

 隅々まで清掃の行き届いた女神像の安置された大広間で、輪になりジェームズの話を聞いていた ”救出メンバー” のひとりであるテオドールが声を上げた。

「…それは…何だったか…」

 腕を組んで考え込むジェームズに皆が肩透かしを食らう。

「ジェームズ王子殿下!…その先が一番大事でしょう?! ファーニーさんは魔肝が無いにも拘わらず貴方の側近になるくらい、皆が認める天才ですし、現に 我らはこうして『もうひとつのアデルバード王国』らしい所へ来てしまったんですよ?!」

 声を荒らげるテオドールに、ジェームズが嫌な顔をしながら反論する。

「…お、俺には少し難しい話だったんだ…!眠かったし…!あ、そうだ!思い出したぞ…ッ」


 ファーニーの話はこうだった。

二つの本の来歴は同じ、登場人物も同じ、違うのはここ最近で起こった様々な事件だ。何より、片方の本では『女神の使者』が召喚されて居らず、結果、女神の使者が騒動を起こす事は無かった。()()()は間違いなく『女神の使者』だろう。そもそも『女神の使者』を召喚するに至ったのは、元王妃サングリアが歴史が巻き戻るのを目の当たりにしたせいだ。それを起こしたのは禁術であり成功率の格段に低い『時戻り』を、二度に渡って成功させた ”狂乱の魔術師” 以外に居ない。その為、国王陛下は元王妃サングリアの話を元に、国中を対象とした”狂乱の魔術師” の捜索を始めたばかりだ。

 そして当然、もう片方のアデルバード王国にも ”狂乱の魔術師” は居る事になる。いくらどうにかしようと奮闘しようとも、”狂乱の魔術師” によってまた『時戻り』をされては、全ての努力は文字通り、白紙に戻されてしまう。

「だからまず、『狂乱の魔術師』を見つけ出し、拘束する必要がある、と言っていた!」


 フンッと誇らしげに言うジェームズに、皆は胡乱げな眼差しを向ける。

「そうは言いますが…申し訳ないですが王子殿下様、()()女神の使者ですら、『狂乱の魔術師』を見つけ出す事が出来なかった、んですよね…?」

 それなのに我らに見つけ出す事が出来ると言うのか…と、護衛の人間が疑問をあげた。それを受けて、ジェームズはテオドールに顔を向ける。目を閉じて、少しの間考えていたテオドールは、やがて パチリとその美しい瞳を煌めかせた。

「…つまり、見た事の無い魔力が格段に多い人間が怪しい、という事になりますね。時戻りには莫大な魔力が必要ですし、顔見知りの中には居ないと…断言は出来ませんが…」

「魔力量ですか…、それを はた目から判断するのは難しいですね。神官達なら分かるかも知れませんが…」

 もうひとりの護衛が口を出す。

「とにかく、本当にここが、もうひとつのアデルバード王国なのかを まず確認するのが先ですね」

「テオドール兄様…もし、本当にここが『もうひとつのアデルバード王国』だとしたら…どうなります?」

 テオドールの言葉に、ウィリアムが不安そうに腕を引く。

「もしここが――本当に『もうひとつのアデルバード王国』なら――、()()が居る事になる、だろうな」

 テオドールの言葉に、輪になっていたメンバーは息を飲む。考えてみれば当然だ、同じ歴史を紡いでいるのなら、そっくり同じ人間が生活している事になる。


「だが、それは、ここがどの時代なのかによる。勿論、凄く昔の可能性もあるし、遠い未来、正に大爆発間際の未来の可能性もある――」

 未来の大爆発の話が出てから不安な顔をしていたヘンリーは、それでもずっと大人しく話を聞いていたが、テオドールのその言葉を聞いて 胸が激しく騒ぎ出すのを感じた。


 

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