↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/112

099 パリィ

 ギルドを出た俺とミオは、その足で教本店に向かった。

 以前〈スター・ストライク〉と〈デコイ〉を買った、老婆が営む店だ。


「おや? またあんたかい。しかもまた違う嬢ちゃんを連れている。色男だねぇ」


 店に入るなり老婆が言った。


「この店はいつもガラガラだな! 他の教本店には客がいるぞ!」


 俺が笑いながら返すと、老婆は「仕方ないわい」と笑った。


「ウチはDランクまでしか扱っとらんうえに、品揃えも少ない。立地以外にはいいところがないからのう」


「そんな寂しいこと言うなよ! お姉さん……いや、もう婆さんと呼ばせてもらおう! 婆さんがいるじゃないか!」


「さすが色男は口が上手いねぇ。で、今日は何の用だい?」


「この可愛い相方の教本を見に来たのさ!」


「そうかい。そりゃあ、邪魔したねぇ。何かあったら声をかけな」


「おうよ!」


 老婆とのやり取りを終えると、俺たちは教本を読み漁った。


「ミオはさ、どういう感じの戦闘がしたい? 俺みたいに派手に動き回る感じがいいのかな?」


 俺が尋ねると、ミオは隣で教本をパラパラ見ながら答える。


「……それは苦手かも。1体ずつ、確実に倒したい。今より強くなれたら嬉しい」


 この時点で、技能のタイプがだいぶ絞られる。

 今の戦闘を純粋に強化するようなものが望ましい。


 例えば、〈スター・ストライク〉のような新しい攻撃手段は微妙だ。

 どちらかといえば、〈バースト・ステップ〉のほうがウケがいいだろう。


 また、今回はミオが習得する、ということも意識したい。

 レジェンド級になって初めて真価を発揮するタイプはダメだ。

 例えば〈デコイ〉は、今回は向いていない。


「そうなると……これなんか良さそうじゃないか?」


 俺は〈パリィ〉と書かれた教本を手に取った。


---------------------------

【名 前】パリィ

【ランク】D

【種 類】戦技

【効 果】敵の攻撃を武器で弾いて無効化する。

【制 限】攻撃中には発動できない。

【習熟度】

 ・ビギナー :【クールタイム】3分

 ・ノーマル :【クールタイム】2分

 ・エリート :【クールタイム】1分

 ・マスター :【クールタイム】30秒

 ・レジェンド:【クールタイム】0秒【制限解除】攻撃中も発動可能になる

---------------------------


「……〈パリィ〉」


 ミオが呟く。


「ポイントは無効化だ。捌いて流すだけじゃなくて、弾いて打ち消す感じ。だから第5のウォーロードが飛ばす火球とかも処理できるよ。しかも、習熟度の差がほとんどない。マスター級になっても、一度の戦闘で2回くらいしか使えないだろう」


「……それ、いいかも」


 ミオが食いついた。


「問題はこの戦技がDランクってことだ」


「……Dランクだと、問題ある?」


「習得までに時間がかかる。冊子の情報によれば、約12時間だ。あくまでも目安だから、相性次第で大幅に短縮・延長されることになる。しかも、相性の良し悪しは蓋を開けてみるまでわからない。もし初めての技能で相性が悪かったら、ちょっとショックが大きいんじゃないか。俺なら気にしないけど、ミオは気にしそうなタイプだし」


「……それは、ある」


 ミオは少し不安そうな様子を見せた。

 しかし、彼女は「でも」と続けた。


「……試してみる。いきなりDランク。不安。値段も……今の私には高い。それでも、挑戦したい」


「なら、これにしよう! さあ、ミオ! あの婆さんに1万ゴールドを払って買っておいで!」


 俺は〈パリィ〉の教本をミオに渡し、頭を撫でた。


「……子供扱い」


 ミオが唇を尖らせて俺を見る。


「嫌だったかい?」


「……嫌じゃない。恥ずかしい」


 そう言いつつ、ミオは大事そうに教本を抱え、老婆のところへ向かう。


「……この本、買いたい」


「悪くない選択だ。長く使えるいい戦技だよ」


「……うん」


 購入を済ませたようで、ミオが戻ってくる。


「さっそく使用すればいい! そうすれば本が消えて、君は仮習得状態になる! あとは正式な習得に至るまで訓練あるのみだ!」


 ミオは頷き、教本を使用した。

 俺からすればただ本を開いただけだが、先ほどとは明らかに違う。

 教本が彼女の手元から消えた。


「……こういう感覚なんだ」


「不思議だよな。さっきまでわからなかったことが、感覚的にわかるようになる。しかも、それを上手く言語化できない」


「……本当に、そう」


「明日から、訓練頑張ろうな!」


「明日から?」


「俺に考えがある! 任せておけ!」


「……わかった」


「んじゃ、宿屋に行こうぜ! まずは一緒に泊まるところを探そう!」


 俺はミオに手を差し出す。


「……その手は?」


「誰がどう見ても手をつなごうって意味だ!」


「手をつなぐ……」


 ミオは呟き、頬を赤らめる。

 それから俺の手を取った。


 ミオの顔がますます赤くなった。


「恥ずかしいかい?」


「……誰がどう見ても、恥ずかしがってる」


「ははは! 言うじゃないか!」


 俺は笑いながら店の外に向かう。


「またな! 婆さん!」


「はいよ、色男」


 老婆の声を背中で受け止めながら、俺たちは店を出た。


 ◇


 俺たちは宿屋を探し、冒険者区画を歩き回った。


 すっかり夜だが、外を歩く冒険者は多い。

 一人で歩く女性冒険者もいて、治安のよさが窺えた。

 神罰の抑止力によるものだろう。


「そういえば、ミオって冒険者区画から出たことある?」


 統合都市メビウスは、始祖の塔を中心とした円形の巨大都市だ。

 都市は複数の区画で構成されており、ここ冒険者区画は都市の中央に位置している。

 言い換えるなら、ここは中央区画である。


「……ない。でも、興味はある」


「だよなー! 俺も出たことなくて、興味あるんだよね」


「……今から出るの?」


 ミオがこちらへ顔を向ける。

 その顔は不安そうだった。


「出ない出ない! 夜だし、安全かわからねーからな! 他の区画へ行くなら日中がいいな」


「……同感。吉岡くんは、他の区画の名前、覚えてる?」


「冒険者区画の次が商業区画ってことだけ覚えてるぞ!」


「他にもあるよ。内から順に、居住区画、生産・倉庫区画」


「すると、全部で4区画か。冒険者、商業、居住、生産・倉庫!」


「うん」


「世界は広いな! いつか全部の区画を回ろうぜ! メビウス人とももっと喋りたいしな!」


 俺たち【アンチテーゼ】は異世界人との交流が極端に少ない。

 外部の冒険者とまともに喋ったのは、俺の場合、マイケルだけだ。

 他のメンバーにしても、宿屋で同じ部屋になった相手くらいだろう。


 メビウス人にしても、一般市民との交流はゼロだ。

 ギルドの受付嬢や店員と話すだけである。


 転移8日目でこれは、どう考えても閉鎖的な集団だ。

 それだけ【アンチテーゼ】が安定している組織とも言える。

 ただ、もう少し社交的になってもいいと思った。


 そんなことを考えている時だ。


「……吉岡」


 背後から名前を呼ばれた。

 振り返ると、戸塚と佐伯が立っていた。

 戸塚隊の野郎二人である。


「おお、戸塚! 佐伯さんも!」


 佐伯は静かにペコリと頭を下げた。


「今から……宿屋に行くのか?」


 そう尋ねる戸塚の顔は引きつっていた。

 彼の視線は俺たちの顔ではなく、つないでいる手に向いている。


「……ユウゴ」


 ミオが気まずそうに名を呼ぶ。


「うむ! 今から宿屋に行くぞ! そっちもかな?」


「……ああ」


 戸塚は頷くと、視線をミオに向けた。


「……ミオ、無理してないか?」


「うん」


「そうか……」


 戸塚はそれ以上、何も言わなかった。

 なので――。


「では、俺たちはこれで失礼する! おやすみ、二人とも!」


 俺は笑顔で話を終了させた。

 再び歩き出す俺たちに、佐伯が「おやすみなさい」と言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ作品】
▲ 画像クリックで漫画サイトへ ▲
▼ 書籍化作品 ▼
【ノクターン】異世界ゆるっとサバイバル生活
~学校の皆と異世界の無人島に転移したけど俺だけ楽勝です~
▼ 代表作 ▼
『異世界ゆるっとサバイバル生活』
異世界ゆるっとサバイバル生活 第1巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第2巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第3巻
異世界ゆるっとサバイバル生活 第4巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第5巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第6巻
『成り上がり英雄の無人島奇譚』
成り上がり英雄の無人島奇譚 第1巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第2巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第3巻
成り上がり英雄の無人島奇譚 第4巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第5巻
▲ 各書影をクリックで各巻の公式ページへ ▲
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。