100 生殺し
色々と歩き回った結果、俺たちは小さな宿屋に行き着いた。
外見と内装はどちらも和のテイストに近い。
ベッドよりも布団、風呂よりも温泉が似合うタイプだ。
ミオが「ここがいい」と言ったことが決め手になった。
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【支払ログ】
宿泊:一般個室
支出:1,400G
所持金:12,087G → 10,687G
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支払いを済ませて、部屋に入る。
「部屋の中は普通だな……!」
それが俺の感想だった。
和のテイストが急激に薄れ、一般的な宿屋の個室だ。
狭めの部屋に大きなベッドがあり、浴室も特筆すべき点がない。
部屋の隅に〈洗濯クローゼット〉がある点も同じだった。
「……個室、初めて」
ミオの緊張が高まる。
「では、事前の取り決めを履行しよう! さあ、ミオ! ベッドにダイブするがいい!」
俺は繋いでいた手を離した。
「……ベッドにダイブ。したことない。本当にしてもいいの?」
「したことないのか!? なら、なおさらすべきだ! 楽しいぞ!」
「……わかった」
ミオは助走をつけ、小さな体でベッドに飛び込んだ。
「……もふもふ」
「楽しいだろ! 次は俺だ! でえええい!」
俺はミオの横にダイブする。
「……こういうのも、楽しい」
「いいことだ! さて、次は風呂だな! 一般個室宿だから、好きなだけ風呂に入れるぞ!」
「……でも、一回入れば十分」
「たしかに、今日はそうなりそうだ!」
ユズ、ナナ、スミレと泊まった時は、一日に何度も風呂を利用した。
風呂でイチャイチャするのも楽しみの一つだからだ。
しかし、今宵はそうならないだろう。
経験豊富な吉岡センサーが、「今は焦る時ではない」と告げていた。
「……じゃあ、お風呂に入る。覗くの、禁止だから」
「覗かないさ! のんびりしたまえ! ただし、脱いだ服や防具はクローゼットにまとめてぶち込んでおくこと! そうしないと綺麗にならないからな! 終わったら言ってくれ! 俺は壁を見ている!」
「……わかった」
俺はベッドに寝転んだまま、ミオに背を向ける。
背後から防具の留め具を外す音が聞こえる。
そのあと、するすると衣類を脱ぐ音が続いた。
「……終わった。全部、綺麗にした。10秒数えてからなら、振り向いていいよ」
「了解! いーち! にーい! さーん!」
俺は大声でカウントする。
そうしてカウントが終わって振り向くと、ミオの姿はなかった。
代わりに、浴室からシャワーの音が聞こえる。
(今日は大人しくすると決めていたが……これでは生殺しだな)
俺は心の中で苦笑した。
◇
その日、俺とミオとの間に肉体関係はなかった。
二人とも入浴を終えると、備え付けの室内着に着替えて話しただけだ。
同じベッド、互いの息が当たる距離……でも、何も起きなかった。
内容は主に転移前のことで、本に関する話題が多かった。
「どんな本を読むのか」「好きな作家はいるのか」など、普通の話だ。
会話中、俺の性欲はたぎっていた。
年頃の男なのだから、それは当然のことだ。
もっと押せば、ミオがその気になっていたかもしれない。
そういう気持ちもあった。
推測ではあるが、ミオのほうも期待していたように見えた。
しかし、俺はあえて押さなかった。
ハーレムランドを建国するには、相手に応じて速度を変えねばならない。
ユズは少し押せば、自分から求めてきた。
ナナ、スミレ、サキは、最初からその気だった。
だが、ミオの速度はもう少し遅い。
早すぎると、「今だけの関係」になってしまう。
俺のハーレムランド計画は、刹那的なものではない。
もっとサステナブルで、マグニフィセントで、エレガントなのだ。
――転移9日目。
朝、目を覚ますと、ミオが俺に抱きつくようにして眠っていた。
それだけを見ると、過去に一夜を共にした女子と同じだ。
しかし、明らかな違いが一つあった。
室内着を着ていることだ。
今までは、起きると決まって全裸だった。
そもそも、この世界で室内着を着た記憶がない。
ちなみに、全裸で寝るのは俺の基本方針だ。
これは肉体関係の有無にかかわらない。
一人の時も、季節を問わず全裸で寝ている。
ただ、今回は心を鬼にして我慢した。
それくらい、服を着たまま寝るのは異例のことだ。
「……ん。うぅん」
ミオが目を覚ます。
「おはよう、ミオ。よく眠れたかい?」
俺はミオの頭を撫で、それから頬も撫でた。
「……おはよう。いつの間にか、寝落ちしてた」
答えた後、ミオは自分が抱きついていることに気づいた。
一気に顔を赤らめ、「ごめん」と言って離れる。
「別に離れなくてもいいよ。気にしていないし、むしろ嬉しいぞ」
「……嬉しいの?」
「そりゃあ、そうだ! だから、ほら! 君が嫌でなければ抱きついてくれ!」
「……じゃあ、少しだけ」
ミオが再び抱きついてくる。
こちらから顔が見えないよう、俺の胸に額を当てて顔を隠している。
(まずい、ムラってきた……!)
抱きつかれるのは嬉しいが、性欲のことを忘れていた。
俺は何食わぬ顔のまま、天井を眺めて言う。
「悪くないものだろう? 抱きつくのは!」
「……うん。こうしていると、落ち着く」
「だよな! では、服を着替え、朝食を済ませたらギルドに行こう!」
「……もう少しだけ、こうしていたい」
嬉しい発言だが、性欲的には厳しい発言でもある。
しかし、俺は必死に我慢した。
「お、おう! では、もう少しだけな! 堪能しろ、俺の体を!」
「……その言い方は、変。でも、堪能する」
もう少しと言いつつ、ミオは20分くらい俺に抱きついていた。
俺は耐えた。
◇
宿屋を出ると、近くの店で朝食を済ませた。
朝なのでシンプルセットだ。
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【支払ログ】
食事:シンプルセット
支出:350G
所持金:10,687G → 10,337G
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「悪くないな! この店!」
「……うん。美味しい」
今日の朝食はフレンチトーストだ。
見た目も味も、地球のフレンチトーストと大差ない。
申し訳程度に、アスパラのベーコン巻きもあった。
飲み物は選択式で、俺とミオはどちらもミルクを選んだ。
「さあ、食ったらギルドで手続きして狩りに行くぞー!」
俺は上機嫌でフレンチトーストを頬張る。
「……狩り? 今日は、訓練するんじゃないの?」
ミオが手を止め、俺を見る。
「いい質問だ! 今日は両方を実行する!」
「両方を?」
「ダンジョンに飛ぶだろ? 俺は敵を皆殺しにする! 君はその場で訓練を続ける。その結果、君には経験値とゴールドが入り、さらに訓練もできるってわけだ!」
「……可能なの?」
「仕様上は可能だ! 離れていても討伐報酬が入ることは、転移初日に確かめている! 同じPTにいた梶原が休憩している間、離れた場所で俺が危険個体を倒したんだけど、梶原にも経験値とゴールドが入っていた! ただし、攻略証明だけは違うぞ! 離れた場所で訓練しているだけじゃ、攻略証明の有効参加条件は満たせない!」
「……そうなんだ。でも、吉岡くんのメリットがない」
「メリットなんかいらないよ。だって俺たちは二人で吉岡隊なんだぜ? 隊員の成長を支えるのも、隊長の務めだ! むしろ、恩を感じてもらえたら、それがメリットと言えるだろう! 恩着せがましい男、それが俺だからな!」
「……ありがとう。じゃあ、甘えさせて」
「おうよ! 今回は先に言えてよかった!」
「今回はって?」
「何日か前に、スミレが〈ホーリーシールド〉の訓練で一時的に抜けた日があっただろ? あのときも、本当は今日の案を提案したかったんだ。でも、スミレが先に『明日は一人で過ごしたい』って切り出したから、言うタイミングを逃しちゃってさ」
「……あった。たしかに」
ミオが思い出したように呟く。
「今の【アンチテーゼ】って、装備の更新が先行しちゃって教本に手を出す人が少ないじゃん? でも、通常攻撃とユニークスキルだけで今後も大丈夫とは思えないんだよね。だから、他の人もガンガン技能を習得するべきだと思ってるんだ」
「……今日、うまくいったら、他の人も参考にできるってこと?」
「そうそう! 技能の習得と稼ぎを両立する……そういうのが一般的になれば、俺たちはもっと強くなれると思う!」
「……吉岡くんの、そういうところ、いいと思う」
ミオが呟いた。
「どういうところ?」
「……みんなのこと、考えるところ」
「普段、好き放題にやってるからね! たまには還元しないと!」
「……いつも還元してる。いつも好き放題にやってるけど。それが、吉岡くん」
「困った奴だな! 吉岡くんって奴は! がっはっは!」
俺が豪快に笑うと、ミオも釣られて笑った。
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祝! 第100話!
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ここまで後書きに何も書かず黙々と更新していましたが、今日はちょっぴり書いちゃいます!
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