094 賛成と反対
「私も同感ね。今回の霧島はランク差補正まで考えているし、無鉄砲じゃないわ。たしかにリスクはあるけど、試す価値はあったんじゃないかしら?」
黒瀬だけでなく、リカも霧島の案を評価する。
四年生の二人が賛成に回ったことで、霧島の表情が変わった。
露骨なまでに嬉しそうな顔をしている。
本人は気づいていないだろうけれど、口元の緩みがすごい。
「その状況、私だったら霧島の案を試したかったなー。ていうか、吉岡くんの〈デコイ〉ってさ、レジェンド級になったら私の【ミラージュ・ドレス】より便利っぽいじゃん。ずるくない?」
サキが笑いながら俺を見る。
「レジェンド級になったら……って条件が付くだけまだいいじゃん。私なんて、教本店で高ランクの魔法を見てたら、普通に『これ私のユニークスキルの上位互換じゃん』って魔法があったよ。しかもノーマル級かエリート級でそんな感じだった」
アヤが話に加わる。
「戦技や魔法の種類は非常に多く、中にはユニークスキルに似た効果のものも存在しています。また、ユニークスキルはその冒険者固有の技能というだけで、教本店に売られている汎用的な技能に比べて、必ずしも秀でているわけではありません」
佐伯が補足した。
「話を戻すけど、私は梶原くんたちと同じで反対かな。霧島くんの案は面白いけど、リスクが未知数でしょ? 距離を詰めたらウォーロードを瞬殺できる前提で話しているけど、もしかしたら接近戦のほうが得意かもしれない。瞬殺できなかった場合のことまで考えると、かなりハイリスクだと思う」
カホが反対票を投じると、梶原が「そうでしょ!」と声を弾ませた。
「意見が割れているな。よし、全員の意見を聞いてみよう。佐伯、記録を頼めるか」
相良が言うと、佐伯はすかさず紙とペンを取り出した。
「かしこまりました。皆さんの意見をまとめます」
「頼む。発言の影響力を考えて、俺、佐伯、吉岡くんは後回しにしよう。発言は学年の低い順に行うこととする。一人ずつ霧島の作戦案について賛成か反対を言い、可能なら一言理由も添えてくれ。まずはナナ……いや、三船から頼む」
相良は一年の三船をトップバッターに指名した。
ナナを先にすると、彼女の意見に引っ張られると思ったのだろう。
「僕は…………」
三船は考え込み、チラチラと隣に座っているナナの顔を見る。
それから、意を決したように言った。
「……賛成です。リスクについてはカホ先輩の言うとおりだと思うのですが、それでも試す価値があるように思いました」
相良が頷き、次にナナを指名する。
「私は反対です」
ナナは即答だった。
三船は「僕、選択を間違えた」と言いたげに両手で顔を押さえた。
「理由は、サイクロプスの攻撃を壁で防げるかわからないからです。壁の設置が間に合わない、壁を迂回されるなど、色々な理由で防げない可能性があります」
いい意見だ。
何人かが唸っていた。
「俺は賛成です! 今日の霧島先輩なら賭けてみたいっす!」と早川。
「私は反対ー! ウォーロードを倒したあと、霧島が欲を掻いて下がらずに突っ込みそうだから」
アヤが言うと、霧島は「おい」と睨んだ。
「じゃあ、次は私ね! 私は賛成! 霧島先輩、調子良さそうだったもん! だから、ご褒美!」
ユズがにぃと笑う。
霧島は「意味わかんねえ」と呆れた。
「吉岡くんは飛ばすし、サキはすでに発言済みだ。次は三年だな」
相良が言うと、戸塚が即座に口を開いた。
「俺は反対だ。理由はカホと同じ。ナナの理由を聞いて、ますます反対だと思った」
「ふん、お前は俺の意見には何でも反対したいだけだろ」
霧島が突っかかると、戸塚は「それもある」と否定しなかった。
「だが、霧島じゃなくても反対していた。俺にはリスクが高すぎる」
「お前はもっとリスクを取れよ」
霧島が煽るように言うと――。
「わかってる」
――戸塚が意外な返事をした。
「……何が『わかってる』だ。調子が狂うだろ」
霧島は舌打ちして黙った。
「……私も反対」
ミオが呟く。
「なんでだよ。お前の作戦だって、俺の作戦と同じようなもんだろ」
「……うん。それは否定しない。でも、私はカホやユウゴと同じ理由で反対」
「なら、お前の作戦を他人がしたら、お前は反対していたのか?」
霧島がミオを睨む。
「……たぶん、反対する」
「意味わかんねえ。滅茶苦茶だろ」
霧島はぼやく一方、戸塚は複雑な表情でミオを見つめていた。
「……霧島の気持ちはわかる。だから、私は今日、作戦を考えた。でも、普段の私は、もっと慎重。だから、反対」
霧島は『気持ちはわかる』が嬉しかったようで、「なら、いい」と腕を組んだ。
「ミオ……」
戸塚だけは、複雑な表情をしたままだ。
「残るは相良さん、私、吉岡くんですね」と佐伯が言う。
「では、佐伯から頼む」
佐伯は頷くと、迷わずに言った。
「私は反対です。ナナさんの発言を聞くまでは迷っていました。今日の現場に居合わせたのなら、間違いなく反対していました。しかし、吉岡隊の報告を聞いた上で考えると、カホさんの言っていた『接近戦のリスクが未知数』という点を考慮しても、試す価値があったと思いました。霧島隊には梶原くんの【ウィンド・ダガー】があります。例えばですが、6本のうち2本をサイクロプスの牽制に回すなど、もう少し詰めてからなら試してもいいように感じました。ただ、宮坂くんの壁をサイクロプスが迂回するかもしれないという意見を聞いて、反対の気持ちが強まりました」
佐伯が丁寧に、そして長々と説明した。
「私の意見で……!」
ナナが嬉しそうに目を輝かせる。
「すごいです、白瀬さん!」
三船も嬉しそうだ。
「俺は賛成だ。カホやナナのいうリスクはある。だが、俺なら試してみたいと思った。単純に好奇心がリスクに勝っていた」
相良は短く言った。
「最後は吉岡くん!」
ユズが声を弾ませると、全員の視線が俺に集まる。
「結論を出す前に、宮坂のスキルについて一つ確認させてくれ。君のスキルは地面からしか壁を生やせないの?」
「……は?」
宮坂が首をかしげる。
リカが「また何か閃いたって顔ね」と笑う。
「例えば、その辺の壁とか天井から生やす形で設置できねぇのかってこと。設置したら3mの壁が約1秒でニョキニョキって生えるってことしか俺は知らないんだ。もう少し詳しく教えてほしい」
「それがどう関係あんだよ。まあいい。設置できるのは地面だけじゃない。天井でもその辺の壁でも、どこからでも生やせる。ただし、生物は無理だ。だから、人間の背中に壁を生やすとか、足の裏に壁を生やして『吉岡式壁キック』なんてのは無理だぞ」
「なんだよ、そのだっせぇネーミングセンス! そんな名前つけねーだろ、普通!」
俺が腹を抱えて笑うと、宮坂が「うるせえ」と吠えた。
「お前に合わせてやったんだよ! いつもそんな感じの技名つけてるだろ!」
「やれやれ、他責思考の激しい男だ! しかし、よくわかった! なら最後に確認だ! 自分で設置した壁から、追加の壁を生やすことはできるのか?」
「できる」
「なら決まりだ! 霧島の作戦には反対! 理由は、俺だったらもっといい作戦にする!」
今度は霧島が「は?」と俺を睨んだ。
「俺のよりいい作戦ってなんだよ」
「俺も詳しく聞きたい」
相良が興味深そうに俺を見る。
「演説タイムだな! よろしい! では説明しよう!」
俺は立ち上がり、右の人差し指を立てて作戦の説明を始めた。




