093 転移8日目の霧島隊
霧島隊、第4全8・第5攻略失敗――。
その戦果に対する反応は、大きく二つに分かれた。
納得と驚愕だ。
予想できていた者と、そうでない者。
いい感じに分かれていた。
もちろん、俺は予想できていた側だ。
霧島がミオの第5に食いついた時点でわかった。
もしも霧島隊が第5全8だったら、霧島はあんな風に反応しない。
「攻略に失敗したのに無傷なんだ? 成長したね、霧島」
サキが意外そうに言った。
軽い調子を装っているが、その眼差しは真剣だった。
真面目に高く評価していた。
「霧島さんは成長したって言えるのかなぁ。最後のほうは危険な策を試そうとしてたし」
梶原が頭の後ろで手を組み、背もたれに体重をかける。
霧島が舌打ちする一方、ミオは小さな声で呟いた。
「……でも、全員無傷で戻れた」
「早川の犠牲が役に立ったんだね」
「アヤ先輩、その通りっすけど、なんか俺が死んだ風な言い方になってません?」
早川が苦笑する。
「霧島、詳しい報告を頼めるか」
相良は誰よりも詳細を知りたがっていた。
こういうところがサークルの代表らしいと思う。
「詳しく報告するほどネタがあるわけじゃねえけど、話せる範囲で話す」
霧島は悔しそうに俺を一瞥した後、報告を始めた。
「まずは予定通りに第4を全8した。連携の確認も含めての攻略だったが、今回は楽勝だった」
「スミレ以外はレベル16・17で、装備も武器・防具ともEランクに更新済み……苦戦する要素がないわね」
リカが真剣な顔で呟く。
口ぶりから察するに、今日の彼女は第4全8の可能性が高い。
俺は相良隊の戦果もこっそり予想しながら、黙って耳を傾けた。
「スミレの防具だけFランクのままだが、まあ変わりはねえ。リカの言うとおり苦戦する要素がなかった。むしろ、思ったより連携できていた。宮坂は落ち着いていたし、スミレも予想以上に動けていた」
霧島が話す中、宮坂は何も言わずに腕を組んだままだ。
「攻略後、メシを食ってから第5に行った。詳しい時間は覚えていないが、たぶん12時半かもう少し後だ」
「吉岡くんの話だと、第5はかなり狭かったんじゃないか」と相良。
俺ではなく霧島が「そうだ」と頷いた。
「実際、かなり狭かった。吉岡隊が昨日報告した通りだった。空堀があって、その向こうにウォーロードとサイクロプスがうっすらと見えている。補足するなら、空が少し赤っぽかったとかその程度だ」
「空が赤っぽい? 妙にロマンチックだな……! 空なんか気にしていなかったぞ」と俺は笑う。
「……たしかに少し赤っぽかった」
ミオがそう言うので、どうやら第5の空は少し赤っぽいようだ。
「配置は今日の吉岡隊と似た感じだ。入口で一気に仕掛けられることはなくて、中に待ち構えていた。ただ、吉岡隊ほど待ち伏せが激しくなかった。通常種が2種ずつ続いて、そのあとボアと戦った感じだ。……たぶん、今日の吉岡隊に比べたらぬるい配置だったと思う」
霧島は苛立つ様子もなく、状況を思い出しながら話す。
曰く、最初はスライムとゴブリン、次にラットとハウンドを倒したとのこと。
そこからコボルトを処理して、突っ込んできたボアも難なく対処できたらしい。
「……ぶっちゃけ、ボアまで倒した時は楽勝だと思った。ミオの報告を聞いた後だと、配置運に恵まれただけに思えるが、その時は知らなかったからな」
霧島の言葉が重くなり始める。
「問題はウォーロードとサイクロプスか」
相良が短く言った。
「そうだ。俺たちは近づくことができなかった。事前の計画では、宮坂の壁で防いで距離を詰める予定だった。スミレの【聖花の結界】は、失敗時の保険に残しておいた」
「賢明な判断だ! 以前の霧島なら、どちらも攻撃に使っていただろう!」
「実際、今日も最後の方は攻撃に使いたがっていたけどな」
梶原が苦笑する。
「使ってれば勝てただろ」
霧島が報告を止めて反論する。
「距離を詰められたとは思うけど、勝てたかどうかはわからないって」と梶原。
「ランク差補正があるんだぞ。距離を詰めたらどうにでもなる。俺やお前のスキルだってあるんだぞ」
「霧島、その議論は後にしてくれ。まずは報告の続きを頼む」
相良が言うと、霧島は舌打ちした。
「とにかく、当初の計画は上手くいかなかった。宮坂の【ブロッキング・ウォール】は最大で4枚立てられるが、発動した瞬間に壁が完成するわけじゃない。地面から生えるタイプだ。設置完了まで約1秒と短いが、それでもラグはある。そこが想定以上に重かった」
「なるほど! 前に佐伯さんが吹っ飛ばされたのは、そういうことだったのか! 足下からニョキニョキって壁が生えて、びよーんって飛ばされたわけだ!」
宮坂のスキルを見たことがない俺は、ようやく彼のスキルをはっきりイメージできた。
「昔のことを蒸し返すんじゃねえよ」
宮坂が俺を睨むが、俺は「おー、こわ」と笑って流した。
「それでも壁は4枚だ。吉岡隊は3体の囮とミオの【サイレンス・ドーム】で突破している。ウォーロードだけ先に倒して、クールタイムが明けるまで後退し、また攻めるという戦い方はできなかったのか?」
相良が尋ねた。
その口調は責めるというより、確認するようなものだった。
「もちろん、それも考えた。だが、俺たちは接近すらできなかった。吉岡隊との違いは、宮坂の設置した壁を盾にした作戦じゃ走れないってことだ」
その言葉で、相良がハッとした。
「射程か」
「宮坂くんの【ブロッキング・ウォール】は、自身を中心とする半径5mが設置可能範囲です」
佐伯が補足した。
「それだときついなー! 壁の設置完了までに約1秒、射程が5mなら、走って距離を詰めるのは不可能だ!」
俺は宮坂のスキルを想像しながら話す。
霧島の言うとおり、彼らの作戦では走れない。
「そこからは突撃と後退の繰り返しだ。二方向から攻めようとしたり、敵を釣り出そうとしたり、色々と試した。だが、どれも上手くいかなかった。あいつらはその場から動かないし、どうやっても近づけなかった」
「それで霧島はスミレのスキルも攻撃に回したがったわけかあ」
俺が笑いながら言うと、霧島は怒ることなく「そうだ」と言って腕を組んだ。
「結果的に、今日は一度もスミレのスキルを使っていない。だから試すべきだと思ったし、試せば成功する自信があった。さっき相良さんが言ったように、まずウォーロードだけ倒す。それから下がって、クールタイムが明けたらボスと戦う。吉岡、ミオ、お前たちならわかるだろ。あそこで厄介なのはボスよりもウォーロードの火球だ」
最後の方になると、霧島は苛立ちを露わにしていた。
俺に対してではなく、自分の作戦を試せなかったことに対する苛立ちだ。
「たしかにウォーロードの火球が一番厄介だ。射程が長く、攻撃間隔もサイクロプスの投石より短い。あと、霧島の案ならウォーロードは倒せると思う」
俺の言葉に、霧島が「だろ!」と身を乗り出す。
しかし、俺が「でも」と続けたところで、霧島の表情が険しくなった。
「問題はその後じゃないか? ウォーロードを倒せる距離にいるってことは、サイクロプスの攻撃圏内だぞ。岩は投げられるし、下手すれば殴りかかってくるぞ」
「そこだよ、そこ。吉岡、俺もそこを指摘したんだ。スミレも同じ理由で反対した」
梶原がすかさず言い、スミレが頷いた。
「俺も反対したぞ」と宮坂が梶原を見る。
「宮坂の反対理由は『スミレが反対しているから』だったろ。スミレが反対を明言する前は賛成していたじゃん。賛成みたいなもんだろ」
「それでも最後は反対しただろ!」
宮坂はテーブルを叩いた。
しかし、誰が聞いても梶原が正しい。
本人も自覚があるようで、「ふん」と不機嫌そうに顔を背けた。
「霧島、今回はみんなの反対を聞いて止まれたんだ?」
サキが霧島を見つめる。
「……早川の件で懲りてる。同じミスはしねえ」
「成長したじゃん」
サキに認められて、霧島は少しだけ照れた。
だが、その後に再び苛立ちの声を上げた。
「最終的にスキルの発動権はスミレにある。だからスミレが反対するなら無理にとは言わねえ。でも、成功していたはずだ。スミレのスキルがあれば、攻めに使う宮坂の壁は3枚で済む。ウォーロードとの距離を詰めたあと、ボスとの間に最後の壁を生やせばいい。一気にウォーロードだけ倒して下がれた。もちろん怪我のリスクはゼロじゃねえ。でも、試す価値はある。多少の怪我なら治療所で治せる。ヒットアンドアウェイなら大怪我のリスクは低い。現場でもそう話した」
「ダンジョンでそこまで詳しく立案できていたのなら、試す価値はあったと思う。俺がその場にいたら、霧島の案に賛成していた」
驚いたことに、黒瀬は霧島に賛成票を投じた。




