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091 ミオの新しい顔

 第5階層からギルドに戻ってきたのは、15時30分頃だった。

 だが、窓口で精算を始める頃には15時45分になっていた。


「先日はせっかく並んでいただいていたのに、申し訳ございませんでした」


「ううん! いいんだよ、エリにゃん! 全然平気!」


 エリナがいたのだ。


「……全然平気?」


 ミオが首をかしげる。

 口元がかすかに笑っていた。


「吉岡さんが全然平気ではなかったと、他の職員から伺っています」


 エリナが口に手を当てて苦笑する。


「そうなんだよ、エリにゃん! 実は平気じゃなかった! エリにゃんショックで胸が張り裂けそうだったよ」


「本当にごめんなさい。できれば吉岡さんをはじめ、並んでくださっている方全員に対応してから上がりたいのですが、なかなか列が途切れず……。時間いっぱいまで残業をさせていただいているのですが、それでも捌ききれず……。もっと精進しないといけませんね」


 エリナはペコリと頭を下げた後、怒濤の速度で精算処理を済ませた。

 明らかに他の受付嬢よりも速い。


---------------------------

【依頼報酬ログ】

・[通常]赤砂スライム:290G

・[通常]砦ラット:330G

・[通常]錆剣ゴブリン:360G

・[通常]赤土ハウンド:390G

・[通常]石盾コボルト:420G

・[危険]破城ボア:490G

・[危険]赤砦ウォーロード:650G

・[ボス]赤砦サイクロプス:1,140G


総額:4,070G

所持金:8,122G → 12,192G

---------------------------


 依頼報酬ログが出たかと思えば――。


---------------------------

【魔石換金ログ】

・[通常]赤砂スライム:20G×6個=120G

・[通常]砦ラット:20G×5個=100G

・[通常]錆剣ゴブリン:20G×4個=80G

・[通常]赤土ハウンド:30G×4個=120G

・[通常]石盾コボルト:30G×3個=90G

・[危険]破城ボア:80G×1個=80G

・[危険]赤砦ウォーロード:110G×1個=110G

・[ボス]赤砦サイクロプス:490G×1個=490G


総額:1,190G

分配人数:2人

分配後:595G / 残余:0G

所持金:12,192G → 12,787G

---------------------------


 魔石の換金ログも出る。

 他の受付嬢なら、二つのログの間に、もう少し喋る余裕があるものだ。


「エリにゃんは頑張ってるよ! それに俺も頑張ってる! 昨日に引き続き今日も第5を全8攻略したし、それになんと言ってもレベル18だよ! レベル18! 転移8日目でレベル18!」


「かなりのハイペースですね。吉岡さんの所属するクラン……いえ、クランではありませんでしたね。同時転移された【アンチテーゼ】の方々は、全員が安定しており、組織力の高さが窺えます」


「そういえば、クランとかあったね! エリにゃん、クランってどういうものなの? サークルとクランを混同するくらいだから、サークルみたいなものかな?」


「吉岡さんの仰っているサークルがどういうものか存じ上げないため、サークルみたいなものかどうかは判断できません。その上でお答えしますと、クランとはまさしく【アンチテーゼ】のような集団になります」


「そうなんだ! クランに入ると何か特典とかあるの?」


「ございます。特典という意味では、クランハウスを借りる権利が得られます。他にも、クランの貢献度に応じて、ギルドから特別報酬が支給される場合もあります。また、こちらは特典と言っていいかわかりませんが、クランメンバーがダンジョンから戻っているかどうかの照合が可能になります」


 最後の説明を受けて、ピンッと来た。


「そういえば、転移初日に霧島がウルフにボコられた時、相良か佐伯さんがそんなこと言ってた気がする!」


「……たしかに言ってた」とミオが頷く。


「相良や佐伯さんは、きっとクランについて調べているはずだ。なんで黙っているんだろ?」


「……たぶん、お金の関係だと思う」


「お金?」


「……冊子に書いてた。クランの設立、加入にお金がかかる」


 エリナが「仰るとおりです」と頷いた。


「それなら相良が黙ってるのも頷けるなー! 例えば相良や佐伯さん、カホあたりはクランメンバーの照合をガンガンしたがるだろうから、一刻も早くクランを設立したいと思うはずだ。でも、霧島とか宮坂は少しでも金があれば装備に投資したいと考えている。霧島なんか絶対に『照合しても意味がねえだろ。インスタンスダンジョンなんだから助けに行けねえんだぞ。クランハウス? 知るか、そんなもん。宿屋で十分だ』とか言うぜ」


 俺はニヤニヤしながら霧島の口調を真似る。


「……似すぎ」とミオが笑った。


「それじゃあ、俺たちは失礼するよ! エリにゃん、貴重な情報をありがとう! 本当はもっと話したいんだけど、後ろの列がすごいことになってたから去るね!」


 俺はちらりと後ろを見てから言った。

 エリナの列だけギルド内に収まりきらず、外にまで続いていた。


「お気遣いありがとうございます。明日も無事でいてくださいね、吉岡さん。エリにゃんポイント、今日も加点ですから」


 エリナが微笑みながら軽く手を振る。


「うん! 明日も頑張る! またね! エリにゃん!」


 俺はエリナに投げキスを連発しながら、ミオと窓口を後にした。

 そのまま奥の集合用スペースへ移動し、アンチテーゼの区画へ向かう。


 掛け時計の時刻は16時10分。

 やや遅いが、問題になるレベルではない。


「待たせたな! 野郎ども! イイ女たち! 報告会の時間だ!」


 俺はいつもの挨拶とともに、区画内に入った。


「ミオ、大丈夫か?」


 真っ先に飛んできたのは戸塚の声だ。

 心配そうにミオを見ている。


「……大丈夫。怪我はしていない。今日は、いつもより頑張った」


 ミオは誇らしげな顔で言った。


「そうか」


 戸塚は目を伏せた。


「思ったより遅かったな、吉岡くん。窓口にエリナさんがいたのか?」


 相良が尋ねる。


「相良、そこは普通、『何か問題でもあったのか?』だろ!」


「……すまん。言い直そう」


「言い直さなくていい。合ってる」


 ミオが遮った。

 相良は「そうか」と苦笑した。


「吉岡くん、お疲れ様! 今日もユズ隊員はエースだったよ! レベルも16になった!」


 ユズがドヤ顔で俺を見る。


「おー、さすがはユズ隊員だ! 君は本当に優秀だな!」


 俺は自分の席に向かう途中で、ユズの頭を「よく頑張った」と撫でた。

 それだけで、ユズは嬉しそうに「えへへ」と笑う。


「さて、相良隊ヨシ! 戸塚隊ヨシ! サキ隊ヨシ! ……だが、奴らがいねぇな!」


 俺は定位置に座った。

 ミオは俺の隣に座り、「……霧島隊」と呟く。

 そう、向かいの席が空いていたのだ。


「実は俺たちも心配していたんだ。スミレがいるから問題ないとは思うが……」


 相良が腕を組んだ。


「どちらかというと、霧島隊より吉岡隊の心配をしていたけどね」


 カホが言った。


「俺たちの心配? この最強レジェンドと可愛いミオミオのコンビだぞ! 心配ご無用だろう!」


「……ミオミオなんて、初めて呼ばれた」


 ミオが笑う。

 その様子を戸塚は驚いた顔で見るが、何も言わなかった。


「吉岡くんの相方がミオだから心配していたの。今日は朝10時集合で、第1で串焼きを食べるって言ってたでしょ? ゆっくり進んで、串焼きも食べるとなったら、他の階層に行くのは厳しいと思ったの」


「私は、『吉岡くんなら一つの階層では満足しないから、きっと第2階層にも行っている』と言ったわよ。当たりだったでしょ?」


 リカが体を俺に向け、見せつけるように脚を組み直す。

 さらに髪を掻き上げ、胸の下で腕を組む。

 完璧なまでのフェロモンばら撒きコンボだ。


「むほほほ! 素晴らしい! でも、ハズレ!」


「ハズレなんだ?」


「第3だよね!? ミオのユニークスキルが生きるもん! 吉岡くんなら第3に行ったはず!」


 ユズが嬉しそうに手を挙げる。


「わ、私も、吉岡先輩なら第1のあとに第3を選ぶって言いました」


 ナナが負けじと言った。


「俺の輝く一等星ちゃん、久しぶりに自己主張してきたな! 最近すっかり大人しくなったから心配していたんだぞ!」


 俺がニヤニヤしながら言うと、ナナは顔を真っ赤にした。


「い、一等星ちゃんは、大人しくしたくてそうしていたわけではありません……。ただ、スミレ先輩とユズ先輩が強くて入る余地がなかっただけです……!」


 三船が「白瀬さん……」と複雑な顔をする。


「……ナナ、私ならスミレと違って弱い? 隙がありそう?」


 ミオが尋ねた。

 意外な質問に、ナナが「えっ」と固まる。

 他のメンバーも驚いていた。


「いや、その、ミオ先輩が弱いだなんて思っていません……。ただ、スミレ先輩とユズ先輩が……」


「……冗談」


「えっ」


「……困らせたくて、言ってみた」


 ナナは「ふわぁ」と声にならないような声を漏らし、きょとんとする。


「珍しいわね、ミオが冗談を言うなんて」とリカが笑う。


「……たまには、悪くない」


 ミオは愉快げに笑った。

 それを見て、リカは驚きつつも「いいじゃない」と笑顔で返した。


「あんな風に笑うのか」


 戸塚はそう小さく呟き、俯いてしまった。


「ちなみに言うと、第2も第3もハズレだぞ! 第1の後、たしかにダンジョンには行った! もちろん第1を周回……なんてことはしていない! そして、新たなダンジョンは第2でも第3でもない!」


「第4に行ったのか」


 黒瀬が腕を組む。

 その言葉を聞いて、戸塚が顔を上げた。


「焦らすのはもういいだろう! ミオ、みんなに正解を教えてやれ!」


 俺がそう言うと、ミオは頷いてから言った。


「……正解は第5階層」


 場がどよめく。


「どういうことだ、吉岡」


 珍しい……いや、初めて、戸塚が俺を睨んだ。

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【ノクターン】異世界ゆるっとサバイバル生活
~学校の皆と異世界の無人島に転移したけど俺だけ楽勝です~
▼ 代表作 ▼
『異世界ゆるっとサバイバル生活』
異世界ゆるっとサバイバル生活 第1巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第2巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第3巻
異世界ゆるっとサバイバル生活 第4巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第5巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第6巻
『成り上がり英雄の無人島奇譚』
成り上がり英雄の無人島奇譚 第1巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第2巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第3巻
成り上がり英雄の無人島奇譚 第4巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第5巻
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