090 ミオの作戦
ウォーロードとサイクロプスは、どちらも俺たちを見たまま動かない。
ただし、ウォーロードはすでに杖をこちらに向けていた。
近づけば撃つ――明らかにそういう構えだ。
「……吉岡くん、どうする? 射程は向こうが上」
「まずは魔石を回収しがてら一服する!」
俺は次郎に命じて猛ダッシュで背負い袋の回収に向かわせた。
一方、三郎には魔石をこの場へ持ってくるように指示する。
「……まずは魔石なんだ」とミオが笑う。
「太郎がいないからな! それに、あいつらはどうせ動かん! 動いたら、それはそれで助かるんだけどな! 奴らの射程圏内だけまともな障害物がなくて、攻撃を凌げないから」
三郎が胸当てと服の間に魔石を詰め込んでいる。
背負い袋がないなりに頑張るものだと感心した。
「私は……」
ミオが何か言いかけて止まる。
「どうした?」
「……ううん、何でもない」
「いや、何でもあるだろう。この場面で雑談をするタイプじゃない。作戦を立案しようとしたんじゃないか?」
「……そう。でも、自信がない。下手をしたら、怪我だけじゃ済まないかもしれない。だから、いい」
ミオが「ごめん」と頭を下げる。
「いや、その『ごめん』は受け入れられない! 判断をするのは俺だ! ミオ、作戦があるなら言いなさい。採用するかどうかは別問題だ」
「……わかった。なら、言う」
ミオは真っ直ぐ敵を見た。
「吉岡くんは、私の【サイレンス・ドーム】をウォーロードに当てたい」
「そうだ」
「……だから、まずは吉岡くんの囮3体を使って敵の注意を逸らす」
俺は何も言わずにミオの話を聞く。
その間に、次郎と三郎の召喚が解除された。
次郎が持ってこようとしていた背負い袋は、20mほど手前に落ちている。
今は無視しよう。
「敵はもう、あの2体だけ。だから、次郎と三郎を、私の横につける理由がない」
「たしかに」
「3体を囮にしたら、ウォーロードをドーム内に入れられる。そこで火球が発射できないようなら、そのまま戦う」
「ドームを使っても火球を止められなかったら下がるわけか」
「……そう。一度、安全な場所まで下がる。撤退するかは、吉岡くんが決める」
「いい作戦じゃないか! それでいこう!」
俺は即断した。
「……いいの?」
「安全面に配慮されたいい作戦だ! カホでも承認するだろう!」
「……どうだろう。カホは、私より慎重」
「何にしても採用だ! ミオ、やるぞ!」
「わかった」
俺は〈デコイ〉を発動した。
「ミオ、俺たちは最短ルートで距離を詰める。囮は火球の射線がこっちに来ないよう走らせる。投石は魔法や俺の鎌で対処するが、砕いたあとも散弾になって飛んでくるから油断しないように」
ミオが静かに頷いたのを確認して、俺は太郎たちを動かした。
まとめて倒されないよう、幅広く展開させた状態で先行させる。
「「グォオオ!」」
ウォーロードとサイクロプスが、それぞれ動いた。
ウォーロードは三郎を狙って火球を生み出そうとしている。
サイクロプスも巨大な岩を持ち上げて投石の準備に入った。
「行くぞ!」
俺たちも走り出す。
空いているルートから一気に距離を詰める。
「グォオア!」
ウォーロードが火球を放ち、三郎が瞬殺される。
「次郎、GO!」
「…………」
次郎は何も言わず、ウォーロードに突っ込んでいく。
「グォオオオ!」
サイクロプスが太郎に向かって岩を投げる。
太郎は回避できず、真正面から直撃を受けて死亡した。
「よし! サイクロプスにも無駄撃ちさせたぞ! これは大きい!」
サイクロプスの投石は、ウォーロードの火球よりも攻撃間隔が長い。
そのため、一度の無駄撃ちが致命的だった。
「グオア!」
ウォーロードが次郎に火球を放ち、次郎も蒸発する。
囮がいなくなったことで、いよいよウォーロードの杖が俺たちに向く。
「……【サイレンス・ドーム】」
だが、ミオのほうが早かった。
ウォーロードの左側にドームが設置される。
「良い位置だ」
ミオのドームの設置場所は完璧だった。
サイクロプスはウォーロードの右側にいる。
そのため、ドームの範囲には含まれていなかった。
これは俺に対する配慮だ。
サイクロプスが岩を投げた際に、俺が魔法で迎撃できるようにするためである。
もしもミオが2体とも入る位置にドームを置いていたら、俺の魔法まで封じられてしまう。
咄嗟の判断でそれを避けたのは、彼女のファインプレーだった。
「…………」
ウォーロードは杖を向けたまま固まっている。
それから困惑したように杖を確認し始めた。
「火球が出せないんだ!」
「……好機」
「だな! サイクロプスから倒すぞ!」
俺は〈スター・ストライク〉を発射した。
放たれた星は、サイクロプスが持ち上げようとしていた岩を粉砕する。
これによって敵の投石攻撃を阻止した。
「投げる前に砕かれたらどうにもなんねーだろ!」
こうなればこっちのターンだ。
俺は〈スター・ストライク〉を連射しながら距離を縮めていく。
新たな狙いはサイクロプスの目だ。
「グォ、グォォ……」
目に2発くらったところで、サイクロプスが片膝をつく。
「その高さなら届くぜ! キエエエエエエエエエエエエエエイ!!!!!!!」
俺はサイクロプスの目を鎌で切り裂いた。
---------------------------
討伐:赤砦サイクロプス×1
PT:2人 人数補正:90%
獲得:882G / 531EXP
---------------------------
これで残るは、ドーム内で「どうしたんだ、俺の杖!?」とでも言いたげに戸惑っている間抜けだけだ。
「お前だけなら怖くねえぜ! そらよ!」
鎌ブーメランでサクッと仕留める。
---------------------------
討伐:赤砦ウォーロード×1
PT:2人 人数補正:90%
獲得:180G / 171EXP
---------------------------
しっかり討伐ログが出たあと――。
---------------------------
【戦闘結果ログ】
討伐:赤砦ウォーロード×1 / 赤砦サイクロプス×1
PT:2人 人数補正:90%
獲得:1,062G / 702EXP
所持金:7,060G → 8,122G
レベル:Lv.18
経験値:433 → 1,135/1,460EXP
依頼進捗:赤砦ウォーロード討伐 1/1・達成
依頼進捗:赤砦サイクロプス討伐 1/1・達成
---------------------------
戦闘結果ログも表示された。
戻ってきた鎌をしっかりキャッチすると、頭上に掲げた。
「勝ったぞ! ミオ! 俺たちの勝利だ!」
「……勝てた」
ミオが信じられないと言いたげな顔で呟く。
それから小さな声で「やった」とも呟いた。
「そうだ! ミオ、攻略証明は取得できたか? ボスとの戦闘は実質的に俺のソロに近い形だったから、有効参加条件を満たしていないかもしれないが……どうかな?」
「大丈夫、取得できた」
ミオは嬉しそうに言った。
「本当か!」
「うん。ウォーロードに対するドームが貢献として認められたのかも」
「そうだろう! ウォーロード自体はボスじゃないが、ボスとセットでのバトルだったからな!」
俺はサイクロプスの魔石を拾うと、ミオに渡した。
「君のおかげで倒せたんだ。記念として、この魔石は換金するまで持っていてもらおう!」
「……わかった。持つ」
ミオは剣を鞘に戻すと、大事そうに両手で魔石を持った。
「さあ、凱旋だ! クールタイムが終わったら〈デコイ〉を再発動し、太郎たちをこき使うぞ!」
「……いっぱい死んで、こき使われて、可哀想」
そう言いつつ、ミオの口元は笑っていた。




