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086 新しい検証

 俺が念じると、囮たちが動き出した。


「「「………………」」」


 口は備わっているが、話すことはできない。

 無言でキビキビと動いている。


「見ろ! ミオ! すごいぞ!」


「……大成功」


 3体の囮がしっかり作業を分担していた。

 2体が拾った魔石を投げ、残りの1体が口の開いた背負い袋でキャッチする。


 見事な連携により、あっという間に魔石の回収が済んだ。


「戻ってこい! 囮たち! ――いや、名前を付けよう! 1号、2号、3号だ!」


「……それ、名前じゃない」


 話している間に、3体が俺たちの前に戻ってきた。


「たしかに! 名前を付け直す! 太郎、次郎、三郎だ!」


「……一郎じゃなくて、太郎なんだ」


 ミオがかすかに笑う。

 ちなみに、背負い袋を担いでいるのが1号……ではなく太郎だ。


「よし、次の検証だ! 複雑な命令も可能なのか確かめよう! 太郎、お前は時間切れによって召喚が解除されそうになったら、消える前に背負い袋を地面に置け! それまでは待機だ!」


 太郎は頷き、その場で待機した。


「……このまま時間切れまで待つの?」とミオ。


「いや、違う! 他にもすることがある! 次郎、お前は全力で走ってみろ! 三郎はこの大鎌を振り回せ! 二人とも俺が『ストップ』と言うまで続けるように!」


 俺は三郎に大鎌を渡した。


「「…………」」


 もちろん、次郎と三郎は喋らない。


 しかし、次郎は忠実に命令を遂行した。

 無言のまま近くを走り始めたのだ。

 俺が念じたとおりに行ったり来たりを繰り返している。


 一方、三郎は命令に従えなかった。

 大鎌を受け取りはしたが、まともに振り回せない。

 俺がどれだけ完璧なフォームを念じても、改善しなかった。


「……筋力不足?」


「試してみよう! ミオの剣を貸してくれ! 俺の大鎌より遥かに軽い!」


「……わかった。大事に扱って」


「それを決めるのは三郎だ!」


 三郎は俺に大鎌を返すと、ミオから細剣を受け取った。

 だが、案の定、剣もまともに振れない。

 のろのろした垂直斬りくらいならできる。

 ただし、それでは戦力にならない。


「どうやら簡単な動作しかできないようだ」


 俺は念じ、三郎に剣を返却させた。


「……簡単な作業。魔石を拾う。投げる。背負い袋に入れる」


「そうそう! おそらく『投げる』のも至近距離で、しかもゆっくりだからできた。剛速球を投げさせるのは難しいと思う」


 念のため、その辺の石を拾って三郎に投げさせてみたが、結果は思ったとおりだった。

 石はへろへろと飛んだだけだった。


「戦闘員として使えないのは残念だが、囮や荷物持ちとしては優秀そうだな。次郎はまだ走り続けているぞ」


 俺は次郎を指した。

 俺の指示を守り、彼はひたすら走っている。


 しかもそれなりに速い。

 ざっくり50mを9秒前半くらいで走れそうな速度だ。

 時速換算すると19.5km/h前後になる。


 今のところスタミナ切れの様子は見られない。

 速度は安定しており、当然ながら表情もクールだ。


「太郎、お前も走ってみろ。次郎と競争だ。ただし、感覚が正しければあと1分程度で召喚が終わる。消える前に背負い袋を地面に置けよ!」


 言葉にしたことを念じつつ、太郎と次郎で競走させる。

 ついでに三郎も参加させた。


「……同じ」


「だな! 気持ち悪いくらいに揃ってる!」


 3体は完全に同じ速度で走っていた。

 足の動き、歩幅、手の振り方……全てが揃っている。


「走り方も念じてみるか」


 今は『競走しろ』としか命じていなかった。

 なので、三郎に追加で『四つん這いで走れ』と念じてみた。


「……三郎、イヌになった」とミオが笑う。


 三郎は指示を厳守して四つん這いで走っている。

 見た目は不気味なことこの上なく、速度も落ちた。


「もういいぞ、三郎。止まって立て」


 俺が命じると、三郎が静かに立ち上がる。

 一方、太郎は動きを止め、その場に背負い袋を置き始めた。

 背負い袋が地面に置かれた瞬間、3体の囮がスッと消えた。


「……太郎、命令覚えてた」


「そのようだ」


 この検証により、以下のことがわかった。


---------------------------

■囮の仕様

・時間差のある命令も実行可能

 →例:効果時間の終了直前に背負い袋を置く


■囮にできること

・走り続ける

・魔石を回収する

・背負い袋を背負う

・ゆっくり投げる


■囮にできないこと

・攻撃

・会話

---------------------------


 追加で検証するとしたら、刺突攻撃はどうかということだ。

 武器を振るえなくても、構えて走るだけならできるはず。

 ならば、槍を構えて突っ込むことで戦力になるかもしれない。


「追加の検証はあとでやろう!」


 ここに槍はないが、剣ならある。

 切っ先を敵に向けて突撃させることは可能だ。


「さあ、進もう! サクッとボスを倒して串焼きだ!」


「……串焼き、楽しみ」


 ミオが嬉しそうに笑った。


 ◇


 その後も、俺たちは何度か戦闘を挟んだ。

 戸塚隊ですら全8攻略する第1階層なので、危ない場面などない。

 ミオは戦闘のたびに【サイレンス・ドーム】を試し、俺は囮の検証を進めた。


---------------------------

【戦闘結果ログ】

討伐:若葉ウルフ×4 / 土くれゴブリン×3 /

   大牙ボア×1 / 牙群れアルファウルフ×1 /

   草冠トロル×1

PT:2人 人数補正:90%

獲得:972G / 702EXP

所持金:2,108G → 3,080G

レベル:Lv.17

経験値:129 → 831/1,370EXP

依頼進捗:若葉ウルフ討伐 4/4・達成

依頼進捗:土くれゴブリン討伐 3/3・達成

依頼進捗:大牙ボア討伐 1/1・達成

依頼進捗:牙群れアルファウルフ討伐 1/1・達成

依頼進捗:草冠トロル討伐 1/1・達成

---------------------------


「よし、終了っと! 太郎、魔石を回収しとけよー」


 丘の上に佇むトロルを倒し、この第1階層に棲息する敵を全滅させた。


「……ゆっくり進んだはずなのに、昨日より早い」


「進むのはゆっくりでも、行動自体は積極的だからな! 戦闘になれば俺が魔法と鎌で一気に倒すし、そういうところで差ができているのだろう!」


 川に向かって歩きながら話す。


「……【サイレンス・ドーム】で敵を驚かせる案、すごくいい感じ。ありがとう、吉岡くん」


「おうよ! じゃあ、今度は役割分担を決めて串焼きの準備だ!」


 川に到着した。


「……私は剣で枝を切る。それでいい?」


「おう! 大正解だ! 我が下僕たちは枝を切れないからな!」


 道中の検証でわかったことだ。

 囮たちは、攻撃にはまるで使えなかった。


 気になっていた『剣の切っ先を敵に向けて突っ込む』というのもそうだ。

 試したところ、敵にぶつかった瞬間、敵ではなく囮がやられた。

 切っ先は敵に刺さらず、囮は消え、剣がその場に落ちたのだ。


 また、大鎌や剣で枝を切ることもできなかった。

 威力が弱すぎて枝に弾かれてしまうのだ。


 だからといって、串焼きの準備に使えないかといえばそうでもない。

 そこは適材適所だ。


「ということで、三郎、お前はミオに同行し、彼女が切り落とした枝を回収してこい! 太郎と次郎は川に入り、俺が失神させたアユの回収だ!」


 ちょうど時間になったので、太郎が背負い袋を足下に置いて消えた。

 再召喚し、さっそく命令を遂行させる。


「ミオ、そっちは頼むぞ! 三郎は作業中に何度か消えるだろうけど、気にせず続けてくれ!」


「……わかった」


 俺たちは手分けして作業を開始した。


「おりゃあ! せいやっ!」


 俺は大鎌を地面に置き、石を拾って投げまくった。

 それらは漏れなくアユに命中し、失神させる。


 プカプカ浮かんで流れるアユを、太郎と次郎が回収する。

 囮なので濡れても問題なかった。


 ◇


 串焼きの準備は、思ったよりも早く整った。

 囮を含めれば5人体制なので、さすがに作業効率がいい。


 とりわけ大きかったのは、囮が器用だったことだ。

 串打ちは攻撃ではない扱いのようで、キビキビこなしてくれた。

 ミオも参加して5人で串打ちを楽しんだ。


「さあ、十分に焼けた! 食べるぞ!」


 いつもどおり約50分かけてじっくり焼いて完成だ。

 今日は塩も振っているため、これまで以上に期待できる。


「……いただきます」


「いただきまーす!」


 俺とミオはそれぞれ串焼きを食べた。

 囮たちは召喚が解除され、俺とミオの二人っきりだ。


「んふぅ! やっぱり塩があるとレベルが違いますなぁ! レベチだ、レベチ!」


「……美味しい」


 ミオの頬が緩む。


「昨日、ギルドの食堂で食べた焼き魚とどっちが美味しい?」


「……覚えてたんだ」


 ミオが驚き、嬉しそうにする。


「そりゃあ、そうだ! 吉岡くんはイイ女を観察する能力が高いからね!」


「……自分で言うんだ」


 ミオが笑う。


「で、どうよ!? 串焼きの勝利か?」


「……うん。串焼きの勝利。すごく美味しい」


 ミオはお世辞ではなく、本心から言っていた。

 いつになく笑い、パクパクと串焼きを食べている。

 それから、目の前のたき火を見たまま話し始めた。


「……最初は、『今日、大丈夫かな』って不安だった」

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【ノクターン】異世界ゆるっとサバイバル生活
~学校の皆と異世界の無人島に転移したけど俺だけ楽勝です~
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『異世界ゆるっとサバイバル生活』
異世界ゆるっとサバイバル生活 第1巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第2巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第3巻
異世界ゆるっとサバイバル生活 第4巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第5巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第6巻
『成り上がり英雄の無人島奇譚』
成り上がり英雄の無人島奇譚 第1巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第2巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第3巻
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