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083 デコイ

 俺の問いに対し、老婆は少し考えてから答えた。


「使えないっていうのは、使用不可って意味じゃないぞ。ランク差補正が発生する。武器や防具と同じじゃよ」


「要するに効き目が弱まる感じだな!」


「そういうこった。無論、戦技も同じじゃ。攻撃系や防御系の戦技なら、ランク差補正の対象になる。ただ、敵との攻防に直接は影響しないもの……それこそあんたの〈バースト・ステップ〉みたいなものなら、ランク差補正は関係ない。だから、〈バースト・ステップ〉は長く使える戦技じゃ」


「なるほど。お姉さんの『使える』って言い方がまぎらわしくて焦ったぜ! 最強のスタストが全く通じなくなるかと思ったじゃないか!」


「ふぉっふぉっふぉ。それは悪かったのう。じゃが、低ランクの攻撃魔法はランクが上がれば効きにくくなる。魔法攻撃を主体に戦うつもりなら、ランクには気をつけることだな」


「その観点で考えると、私の〈ホーリーシールド〉は微妙だったかもしれませんね」


 スミレが残念そうに呟いた。


「定番の防御系戦技じゃな。その観点ならたしかに微妙じゃ。それでも無駄ではない。〈ホーリーシールド〉と似た効果を持つ……言うなれば上位互換となる戦技が存在している。そういう似た効果の戦技を習得する際は、仮習得から習得に至るまでが早くなりがちじゃ」


「そうなんですか」


「それに、じゃ。重ねがけして補強する……という使い方もあるぞ」


「重ねがけとは、どういうことでしょうか?」


「〈ホーリーシールド〉の上位互換のような戦技を、仮に〈ホーリーシールド2〉と呼ぶとする。ランクはEとしようかの。お嬢ちゃんがそいつを習得した場合、〈ホーリーシールド〉と〈ホーリーシールド2〉を同時に発動できるわけじゃ」


「同時に……。光の盾が二枚重なるわけですね」


「そうじゃ。Fランクの〈ホーリーシールド〉だけなら、第6階層以降は心許(こころもと)ない。じゃが、Eランクの〈ホーリーシールド2〉をメインの盾として使い、そいつが破られた時の保険として〈ホーリーシールド〉も張っておけば、安全性はぐっと高まる。だから、完全な無駄ではない」


「重ねがけという考えはありませんでした。参考になります」


「お姉さん賢いな!」


「伊達に長生きしとらんよ」


「でも、重ねがけにはクールタイムの問題があるよなぁ。あえて発動タイミングを分散させることで、常に光の盾を使える……という方法だってあるんじゃないか?」


「お? よく気づいたな! そうじゃ、そういう使い方もある。重ねがけは言わばボス用の戦術。普段はあんたの言ったように分散運用がいいじゃろう」


「そういう考え方もあるのですね。てっきり似た効果の戦技は望ましくないかと思っていました。でも、店主さんと吉岡さんのお話を聞いて、考えが変わりました」


 老婆が「参考になったのならよかったわい」と満足げに頷いた。


「さて、そろそろ教本選びの時間だ!」


 話が落ち着いたところで、俺たちは手分けして教本を見ていった。


「吉岡さんが求めている技能は、どういうものですか?」


「ぶっちゃけ何も考えてない!」


 俺たちの会話を聞いて、老婆が「ふぉっふぉっふぉ」と笑った。


「あんた、現状の戦闘で不自由しておらんのに技能を追加するのか。ずいぶんと効率の悪いことをするのう。技能ってのは普通、現状の不満を改善するために習得するもんじゃぞ」


「そりゃあ、そのほうが効率はいいだろうよ! でも、俺は普通じゃないのさ! 俺はお祭り男の吉岡だぜ! 人生は楽しんでなんぼだ!」


「景気がいいのう。ま、せいぜい金の無駄遣いにならんようにの」


 俺は「わかってらぁ」と笑いながら教本を見ていく。

 しばらくして、面白い技能を見つけた。


---------------------------

【名 前】デコイ

【ランク】E

【種 類】魔法

【効 果】人型の囮を召喚・設置し、魔物に冒険者と誤認させる。

【制 限】クールタイム:10分/持続時間:3分/動かない。

【習熟度】

 ・ビギナー :【クールタイム】10分【持続時間】3分【射程】5m 【最大召喚数】1体

 ・ノーマル :【クールタイム】7分 【持続時間】4分【射程】5m 【最大召喚数】1体

 ・エリート :【クールタイム】5分 【持続時間】4分【射程】5m 【最大召喚数】2体

 ・マスター :【クールタイム】5分 【持続時間】5分【射程】10m【最大召喚数】2体

 ・レジェンド:【クールタイム】5分 【持続時間】5分【射程】10m【最大召喚数】3体【制限解除】動かせる

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 1ページ目のスペック表を見れば、おおよそ理解できる。

 名前や効果のとおり、人間を模した囮を設置して敵の注意を引く魔法だ。


 それ以降のページもパラパラと見てみる。

 やはり、基本的には俺の認識で正しいようだ。


 スペック表には記載されていないが、耐久度は最低だ。

 敵の攻撃を一発でも受ければ、その個体の召喚は即座に解除される。

 要するに『囮にはなるが、盾にはならない』ということだ。


 それはいい。

 だが、他にもわからない部分があった。

 老婆の店主に確認してみよう。


「お姉さん、この魔法に興味があるんだけど、質問してもいいかい?」


「ほう? 〈デコイ〉か。お前さん、面白いところに目を付けたのう。で、なんじゃ?」


「クールタイムってどこを起点にカウントされるんだ? 発動した瞬間なのか、それとも召喚解除後か?」


 俺が話していると、スミレが静かに近づいてきた。

 何も言わず、俺の隣で話を聞いている。


「そりゃあ、発動した瞬間じゃ。この魔法に限らず、あらゆる魔法のクールタイムは、発動した瞬間からカウントする。一方、戦技は効果終了時点からカウントされる。なんだ、そんなことも知らなかったのか」


 老婆の口調から察するに、どうやらこの世界では常識らしい。


「スミレ、知ってた?」


「はい」


 俺は「マジか」と驚いた。

 おそらく〈始祖の塔〉で配られた冊子に載っているのだろう。


「じゃあさ、お姉さん、この魔法のレジェンド級の欄にある『動かせる』の詳細はわかる? 例えば発動前に動作を念じてから召喚する必要があるのか、それとも発動後に念じても大丈夫なのかとか、そういうの」


「やれやれ、レジェンド級のことなんて聞いてどうすんだい」


 老婆は呆れたように言いつつ、俺の質問に答えた。


「確かめたわけではないが、まず間違いなく両方じゃ。だから、発動前に動作を念じる必要はない。発動後に『進め』や『下がれ』、もしくは『走れ』などを念じれば、その通りに動く。無論、発動前にあらかじめ念じていれば、発動した瞬間に動くじゃろう」


「なるほど! よし、これを買おう!」


 知りたいことは知れたので、俺は〈デコイ〉を購入した。


---------------------------

【支払ログ】

教本:[E]デコイ

支出:5,000G

所持金:18,107G → 13,107G

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 もちろん、その場で教本を使用した。

 ステータスも確認しておこう。


---------------------------

【名前】吉岡

【レベル】16 EXP:1,113/1,290

【所持金】13,107ゴールド

【ユニークスキル】オール・レジェンド(P)

【技能①】[F]スター・ストライク(レジェンド)

【技能②】[E]バースト・ステップ(レジェンド)

【技能③】[E]デコイ(レジェンド)

【武器】[E]吉岡デスサイズ(レジェンド)

【防具】[F]ブルファムレザーの軽装備

---------------------------


「ついに全ての技能枠が埋まったぞ!」


「おめでとうございます、吉岡さん」


 枠が埋まっていると見栄えがいい。


「喜ぶのはいいが、補助魔導具の購入を忘れるでないぞ。見たところあんたは補助魔導具を着けていない。それでは習得までに時間がかかるし、習得後もスペックどおりの効果にならないぞ」


「おうよ! これから補助魔導具を購入する! スミレ、魔導具を見に行こう! そのあと、君の武器を更新するぞ!」


「わかりました」


「またな! お姉さん!」


「ふぉっふぉっふぉ」


 俺とスミレは教本店を後にした。


 ◇


 補助魔導具屋にやってきた。


「実は俺、補助魔導具がどんなものか知らなかったんだけど、見た目はアクセサリーなんだな」


「そのようですね」


 補助魔導具には様々な形状が存在している。

 リング、ブレスレット、ネックレス、イヤリングなど。


 ただし、形による性能・価格の差は皆無だ。

 ランクを合わせたら、あとは見た目で決めるものらしい。

 冊子こと『メビウス大百科』にもそう書いてあった。


 店の内装も、まるでジュエリーショップのようだ。


「そんなわけでスミレ、俺に似合う補助魔導具を選んでくれ! Eランクな!」


「私が選んでもよろしいのですか?」


「おう! 君の首筋にあるキスマークと同じだ! 触れるたびに君のことを思い出せる」


「吉岡さん……」


 スミレは頬を赤く染め、首のキスマークに触れた。


「もっとも、キスマークは明日の昼には消えているだろう! 補助魔導具もいずれ買い換える! そこは留意が必要だ!」


「そのときは、また首に吉岡さんの印を付けていただきます」


「嬉しいことを言うじゃないか! では、よろしく頼んだ!」


 俺は選定作業をスミレに任せると、店員に近づいた。

 若い女性の店員で、店の内装に相応しい上品な制服を着ている。

 首元にはスカーフを結び、両手には宝石を扱うための白手袋をはめていた。


「お姉さん、よろしいかい?」


 俺が尋ねると、店員は「はい。何かお探しでしょうか?」と笑みを向ける。


「質問なんだけど、補助魔導具って複数装備したらどうなるのかな? 形による差がないことは把握しているよ。ただ、複数装備については冊子に書いてないから気になったんだ」

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『成り上がり英雄の無人島奇譚』
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