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078 残る3隊の報告

「私、サキ、アヤ、早川の四人からなるユズ隊の戦果は――」


「おーい、サキ隊だよー。ユズ隊員、さっそく間違ってるぞー」


 サキが笑いながら指摘し、ユズが「おっとっと」と手で口を押さえる。

 それから「改めまして!」と胸を張った。


「今日のサキ隊は、第1全8を3回と、第3全8を1回です!」


「おー! めっちゃ回ってるじゃん! さすがは効率重視のサキ!」


 俺が声を上げると、サキは「まぁね」と恥ずかしそうに笑った。


「本当は昨日の霧島隊みたいにずっと第1を周回しようと思ったの! 私たち、結構頑張ってたんだよ!」


 ユズが俺を見ながら声を弾ませる。


「だろうなー! ちなみに、走っていたんだよな?」


「うん! 最初のほうは走った! 最後のほうは早歩き!」


「だったら、ユズっぱいがたくさん揺れたんじゃないか? サキっぱいとアヤっぱいも揺れていたはずだ! 早川、お前だけそれを拝めたのか! ずるいだろ、それは! ていうか、なんで俺より先にハーレムを満喫しているんだ! お前、退院初日だからって調子に乗っていないか!?」


 俺が早川を睨むと、早川は「違いますって!」と慌てて否定した。


「走りました! たしかに走りました! でも、先輩がたの胸は見ていません! 俺も走るのに必死でしたから! 本当ですよ、吉岡先輩! 信じてください! 俺、別にハーレムは求めていません!」


「本当か? 実はイイ女に囲まれて嬉しいと思っているんじゃないか?」


 俺が目を細めると、早川は「うっ」と言葉に詰まった。


「嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいです……」


「よろしい! では次の質問だ! ユズっぱいが揺れているのを本当は見ただろ! サキっぱいとアヤっぱいも対象だ! 正直に言ってみ? 見たよな?」


「少しだけ見てしまいました……」


「「おい!」」


 俺と梶原が同時に反応した。


「違うんですって! いや、違わないんですけど……でも、違うんです! 信じてください!」


 早川が滅茶苦茶な弁明に終始する。


「ふーん。イイ女に囲まれて喜んでいたんだ? 早川って吉岡くんのハーレム志向まで真似したかったんだ?」


「そ、そうじゃないですって! アヤ先輩!」


 早川が必死すぎて、場が笑いに包まれる。


「で、ユズ、質問なんだけど、最初はずっと第1を周回しようと思ってたんだよな? なら、どうして第3に行ったんだ?」


 俺が尋ねると、ユズは待ってましたとばかりに答えた。


「飽きたから!」


「飽きただと?」と霧島が眉をひそめる。


「だって本当のことだもん! みんなで三周目を終えた時に、『もう第1の周回は飽きたよねー』って話したの! それで、第3を攻略することにした!」


「ふん、ぬりぃ判断しやがんな」


 霧島が面白くなさそうに呟いた。


「でも、サキは隊員の意見を無視しなかったもん。霧島先輩とは違うもんねー!」


「俺だって無視はしてねぇよ。軽視しただけだ。反省はしてる」


 霧島は舌打ちすると、それ以上は何も言わなかった。


「攻略したのが第1と第3だし、特にドラマチックな場面とかもなかったから、詳細は省略でもいいかな?」


 サキが相良に尋ねる。

 相良は少し考えてから答えた。


「ユズに任せる」


「私? じゃあ、省略で! 話したい部分は話したし、吉岡くんの驚く顔も見られたから十分!」


「わかった。では、次、戸塚隊の報告を頼む」


 皆の注目が戸塚に向く。

 戸塚隊は安全志向だが、帰還時間はそれなりに遅かった。

 だから俺も、どういう戦果を持ち帰ったのか気になっていた。


「……俺たちは第1を全8攻略したあと、第2と第3の通常種5種の依頼のみこなした」


 俺は「なるほど」と呟いた。

 相良やリカも納得の表情を浮かべている。


「第2と第3の危険個体は捨てたのかよ。怖じ気づいて逃げたのか?」


 当然ながら霧島は噛みついた。


「捨てた。逃げたと捉えるかは自由だ。ただ、最初から戦う気はなかった」


「ふん、弱腰だな。面白くねえ」


「それで結構だ。俺たちには俺たちの進め方がある。今日の結果に、俺たちは満足している」


「ミオと同じPTだからって呑気なものだな」


「……霧島、私は関係ない」


 ミオが霧島を睨む。

 しかし、霧島は止まらなかった。


「いや、関係ある。もしお前が俺の隊や吉岡隊にいたら、戸塚は今と違う行動をしている。もっと焦ってるし、呑気ではいられないはずだ。余裕ぶってないで必死にレベルを上げているに違いねえ」


「……そんなことない」


 ミオは否定するが、戸塚は目を伏せるだけで何も言わなかった。

 どうやら霧島の主張は、戸塚には効いたようだ。


「どうだっていいだろ。スミレに関係のないことで話を長引かせるな」


 宮坂が強引に話を打ち切った。

 普段は空気を読まないスミレ狂だが、今回はその性格が役に立った。


「戸塚隊に対する質問がないようなら、霧島隊の報告にしよう」


 相良がすかさず便乗して話を進める。

 誰も質問をしなかったため、霧島が待ってましたとばかりに話し始めた。


「俺たちはサキ隊みたいに途中で『飽きた』なんて言わねえ。きっちり第1を周回した。第1全8、7周だ」


「7周!?」


 さすがに目玉が飛び出るかと思った。


「3周でも地獄みたいなきつさだったのに、7周もしたの!?」


「霧島先輩と宮坂はともかく、梶原まで頭がおかしくなった!?」


 サキとユズが反応する。


「いやー、俺も7周はきつかったよ。でも、努力が報われる感じ? みたいなのがあってさ」


 梶原が軽い調子で笑いつつ、後頭部をぽりぽりと掻いた。


「武器をEランクに更新したし、レベル差補正まで乗っかった。ボスですら瞬殺。ただ走っていただけだ」


 などと言いつつ、霧島は実に誇らしげだった。


「それでも7周はきついだろ。時間配分はどうなってるんだ?」


 尋ねたのは黒瀬だ。


「出発は9時だ。そこから1周約45分。途中、スタミナの回復がてらメシ休憩を1時間入れた。魔石は3周ごとに換金している。1周ごとじゃ効率が落ちるし、かといって持ちすぎたら重くて足が鈍る。だから3周だ」


「その計算ですと、たしかに7周できますね」


 佐伯は脳内で計算していたらしく、すかさず言った。


「時間的に問題なくても、普通は途中でやめるだろー! ゲームのレベル上げじゃねぇんだぞ! やべーな、君たち!」


 俺は思わず笑ってしまった。


「笑っていられるのも今のうちだ。明日には抜き去ってやるよ」


「宮坂に言われてしまったが、そういうことだ。吉岡、お前の時代はもう終わりなんだよ」


 宮坂と霧島が勝ち誇るように、そして見下すように俺を見る。


「たしかにレベルは並んだ。だが、全体への貢献度では吉岡が突出している。今日も第5の情報を持ち帰った。まだ勝利を宣言する段階ではない」


 黒瀬が腕を組んだまま言う。

 それに対して、相良と佐伯が頷いた。

 場全体が同意する流れになり、霧島が舌打ちする。


「たしかに第5の情報は大きい。だが、それも今だけだ。金はある。メシを食ったら防具をEランクに更新する。それで明日は第5を攻略する。すぐに貢献度とやらでも俺たちが一番になってやるよ」


「一番になってから勝利宣言をしろと俺は言っている」


 黒瀬が反論すると、霧島は再び舌打ちした。


「何なんだよ! 黒瀬、お前だって吉岡のことは気にくわねーだろ! それなのに、なんで吉岡を擁護するようなケチをつけてくんだよ! スミレを守れるのがお前じゃなくて俺になりそうだから嫉妬してんのか?」


 宮坂が苛立ち気味にテーブルを叩いた。


「俺は事実を指摘しているだけだ。吉岡を擁護しているわけじゃない。吉岡のことは、どちらかといえば嫌いだ」


「あのー、黒瀬のおじき……俺、ここにいるんだけど?」


 俺が口を挟むと、黒瀬は「おじきではない」と不快そうに言った。


「ふん。そうやってスミレの前で『中立のカッコイイ俺』を演じていろよ。数字は嘘をつかねえ。俺は吉岡と同じレベルになった。霧島もそうだ。梶原なんか吉岡を抜いた。それが結果だ。偉そうにピーチク吠えたいなら結果を出せよ」


 宮坂が言い返す。


(俺を煽りたかったんじゃないのか……。最初の頃は負け犬とか言ってたのに、霧島も宮坂も俺のことそっちのけだ。これじゃあ、俺がモブになっちまう)


 俺はなんとか目立つ方法を考えた。

 そんな時だ。


 チョン、チョン。


 テーブルの下で、袖を二回引かれた。

 スミレのアクセルサインだ。


 しかし、顔を向けると、彼女は静かに宮坂と黒瀬のやり取りを眺めていた。

 俺のほうを一切見ずに、再びサインを送ってくる。


「この空気で秘密の合図を出す肝っ玉には恐れ入るよ。本当に悪い子だ」


 俺はスミレにだけ聞こえる声で言うと、彼女の肩を抱き寄せた。

 この時点で、宮坂が吠えるのをやめてこちらを睨む。


「今のは一回目ですよね。私は二回、合図を出しました」


 スミレが小さな声で言った。

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