077 負け犬の報告会
俺の壮大なハーレム計画に支障をきたしかねない。
その言葉を聞いた瞬間――。
「あっかーん!!!! あかん、あかん! あかんで、それ! あかん!」
――思わずエセ関西弁を出してしまった。
「念のために言っておきますが、私は、吉岡さんが強いから一緒にいるわけではありません。例えば宮坂くんのレベルが99だったとしても、今の関係が変わることはありません。ユズさんやナナちゃんなど、他の子たちも同じはずです」
「で、でも、ハーレムランド計画に支障をきたしかねないんだよな!?」
「はい。ただし、どういう風に支障をきたすかはわかりません。それでも、今のまま差が広がれば、少なからずサークル内のパワーバランスは変わります。そうなれば、今までと同じようには過ごせないのではないか……と私は思います。そういった意味で、『大問題』と言いました」
「あかん! そんなもん認められない! いけません!」
「ですから、そうならないように頑張りましょう。まずは報告会に参加しないといけません」
「そうだな! 彼奴らがどうやって俺のレベルに並んだのかも知っておく必要がある! 第1全8マラソンをしていたようだが、4周程度では俺に届かない! きっと何かあるはずだ!」
エリにゃんショックで嘆いている場合ではない。
俺はこの時、初めて本気になった。
「行くぞ、スミレ!」
大股で集合用スペースに向かっていく。
そんな俺の後を、スミレは「はい」と言ってついてきた。
「追い詰められる吉岡さんを見たのは、今日が初めてです」
「では、よく拝んでいろ! この顔が見られるのは今日で最後だ!」
そう言ってブースを抜けると、アンチテーゼの札がかかっているスペースに入った。
「待たせたな! 野郎ども! イイ女たち!」
「負け犬のくせに威勢だけは立派だな」
霧島が口元を歪め、さっそく煽ってきた。
宮坂も嬉しそうな顔で腕を組んでいる。
「聞いたわよ、吉岡くん。霧島と宮坂にレベルで並ばれたんだって?」
リカが面白そうに俺を見る。
相良隊になったことで、席も相良の隣に戻っていた。
「おいおい、俺が戻る前に話したのかよ! 皆の驚く顔が見られなかったじゃねぇか!」
俺は笑いながらいつもの席に座る。
向かいに座っているのも、いつも通り霧島隊だ。
サキ隊は俺の近く、戸塚隊は以前のリカ隊がいた席に集まっていた。
「お前だって俺たちが戻る前に報告会始めてるだろうがよ。うだうだ言ってんじゃねえ」
霧島がいつになく強気だ。
本当に嬉しいようで、昨日以上に笑っている。
「やれやれ、レベルが並んだだけで俺を負け犬扱いとは、ずいぶんとそっちに有利なルールだ! だが、いいだろう! 始めようぜ!」
「俺は並んだだけじゃなくて抜いたけどな」と梶原が訂正する。
相良は俺を一瞥した後、少し間を置いてから頷いた。
「では、報告会を始めよう。吉岡くん、レベルの件は霧島から聞いているが、各隊の活動内容はまだ話していない。報告会は今から開始だから安心してくれ」
相良が妙な気遣いを見せる。
それを見た俺は、スミレにこそっと耳打ちした。
「俺、そんなに悲壮感が漂っているのか? 相良が心配そうにしているぞ」
「いえ、むしろ鬼気迫る怖い顔になっています。だから心配になっているのだと思います」
「なるほど」
俺は納得し、相良の進行を待つ。
「では、俺の隊から反時計回りに報告していこう。つまり、相良隊、吉岡隊、サキ隊、戸塚隊、霧島隊の順だ」
特に異論は出ず、相良が報告を開始した。
「俺の隊は第1、第2、第3の三つを全8だ」
これには場がどよめいた。
俺を含め、誰もが驚いている。
「マジかよ! 相良、めちゃくちゃ頑張ってるじゃん! そういうキャラだったか!?」
「結果的にそうなっただけで、別に急いだわけではない。当初は第3階層の攻略だけで終わる予定だった。だが、リカの【紅蓮の審判】と黒瀬の【シャドウ・チェイン】のコンボがボス戦で上手く嵌まって、第3階層のボス・雫石ゴーレムをあっさり倒せた。余力が十分だったので第2も攻略し、それでも中途半端に時間が余っていたから第1まで攻略しておいた」
「ボス戦は俺、リカ、相良の三人がメインだったが、道中では三船とナナの活躍も大きかった」
黒瀬が腕を組んだまま補足する。
それに対し、相良が「そうだな」と認めた。
「三船の【アラーム・ベル】はリアルタイムで敵の大まかな位置を知らせられる。そこにナナの【スター・レーダー】が加わることで、道中での戦闘を安全かつ効率的にこなせた」
相良の言葉に、三船は誇らしげな表情を浮かべた。
ナナも恥ずかしそうに俺を見て、頭をペコリと下げる。
「次は吉岡隊の報告を頼む」
「はいよ! 俺たちは……いや、スミレ、君に報告してもらおう! 今日は成功している! 俺がドヤることではない!」
「わかりました。では、私が報告させていただきます」
「ふん、ずいぶんとしょぼい成功だな」
宮坂が鼻で笑いながら俺を見る。
「宮坂くん、私はまだ内容を話していません」
「スミレ、俺はただ吉岡に……」
「たしかに宮坂くんは、吉岡さんと同じレベルになりました。しかし、吉岡隊の戦果を聞きもしないで『しょぼい』と決めつけるのは間違っています」
相手がスミレだけに、宮坂は反論しなかった。
「……すまん」
宮坂が素直に引き下がり、スミレが報告を始めた。
「吉岡隊は第4と第5を全8攻略しました」
「全然しょぼくないじゃん」とサキが笑う。
相良は「昨日、吉岡くんが言っていたとおりの内容だな」と呟いた。
「まずは第4から攻略しました。理由は主に、吉岡さんの新しい武器の使用感を確認することと、私の戦技〈ホーリーシールド〉を実戦投入することの二点です。その際、流れで吉岡さんが【オール・レジェンド】の検証を行うことになり、想定よりも攻略に時間を要しました」
「検証ですか」
すかさず反応したのは佐伯だ。
メガネをくいっと上げ、テーブルに身を乗り出した。
「あっ……いえ、何でもありません」
スミレが慌てて隠そうとするが、もう遅い。
「検証の話について、詳しくお話しいただいてもよろしいでしょうか?」
佐伯がスミレを追撃する。
スミレは即答せず、判断を仰ぐように俺を見た。
佐伯にバレると面倒だから黙っておく――という取り決めを思い出したのだろう。
「スミレ、かまわん! 後ろめたいことではない! 話していいぞ!」
「わかりました」
スミレは小さく頷くと、佐伯を見た。
「吉岡さんは大鎌をブーメランとして扱う攻撃〈吉岡死神殺法その1・鎌ブーメラン〉を編み出しました」
この時点で、サキとユズが「ブッ」と吹き出した。
他の女性陣や早川も笑っている。
「この鎌ブーメランですが、吉岡さんのイメージとは飛距離や軌道が異なる問題が起きていました」
「確認ですが、吉岡くんの【オール・レジェンド】の効果は、あらゆる武器と技能の習熟度がレジェンド級になることによって、思い描いた動きを再現できる……そういう認識で合っていますか?」
俺は「さっそく始まったな」と心の中で苦笑しつつ、「そうだよ!」と答えた。
「わかりました。それで、いつ、どこで、どういった検証方法で調べたのですか?」
佐伯の鋭い眼光がスミレを貫く。
「検証を行ったのは、第4階層の麦畑です。通常種を倒し終え、危険個体2種とボスが残っている段階で行いました」
「普通、倒し終わってからやるだろ」と梶原が苦笑した。
「検証方法は、吉岡さんに説明していただきます。私は敵を警戒していたため、検証を全て見ていたわけではありませんので。吉岡さん、よろしくお願いします」
「仕方ねぇなぁ! 引き継ごう!」
そう言うと、俺は佐伯に検証内容と俺たちの導き出した結論を伝えた。
「必要最低限のことだけ確かめた形ですね。吉岡くんらしい判断だと思います。ですが、もう少し詳しく調べてみてもいいとは思いませんか? 例えば――」
「思いません! 結構! 大丈夫です!」
俺は迷うことなく強い口調で断った。
「そうですか。わかりました」
佐伯が露骨に悲しそうな顔をする。
しかし、承諾すると数日は確実に潰されてしまう。
ハーレムランド計画に支障をきたしかねない今、それは避ける必要があった。
「その後、第4階層の攻略が終わり、昼食後、第5階層へ行きました」
再びスミレが報告を担う。
「初めての階層だ。どういう場所だったか、敵の配置はどうだったかなど、可能な限り詳しく教えてもらえるか」
今度は相良が食いついた。
ナナもワクワクした様子でスミレを見ている。
「第5階層は――」
スミレは時間をかけて詳しく話した。
「なるほど。その配置だったら、現状では吉岡くんがいないと厳しいかもな……」
スミレの報告を聞き終えると、相良は真剣な表情で呟いた。
顎に手を当て、深く考え込んでいる。
「私の【紅蓮の審判】がもう少し範囲の広いスキルだったら、私も門前の通路でキルゾーンを作れそうだけど……さすがに半径1メートルの円環じゃ厳しいわね」
リカも真面目に考えていた。
「俺たちならラットの奇襲を受けた時点で撤退していたな」
戸塚の言葉に、カホが「だね」と同意する。
それから、彼女は「でも」と続けた。
「私たちなら、ラットの奇襲は防げていたと思う。進む前に空堀に敵がいないか確認するから。あ、別に吉岡くんの判断を悪く言っているわけじゃないからね」
「それは結果論だろ。結果論なら何とでも言える。空堀を確認できていたとは言い切れねえよ。撤退できていたかも不明だ」
珍しいことに、霧島が俺を擁護した。
「いや、そこは批判してくれていいぞ! フィールドの構造を見て敵が門内限定だと思い込んだのは明確なミスだからな!」
「門前の戦闘もきついが、ウォーロードとボスに見られている中で戦うのもきついな。前者は配置次第に思えるが、後者はどんな配置でも避けられそうにない。攻略するなら、強力な遠距離攻撃を凌ぐ方法を考える必要があるな」
相良が言うと、宮坂が余裕ありげに笑った。
「霧島隊は俺がいるから問題ないけどな」
宮坂のスキルは壁を召喚するもの。
それで敵の攻撃を防ぎつつ距離を詰める考えなのだろう。
悪くない。
「吉岡隊の報告は以上だ! スミレ、ありがとな!」
スミレが「いえ」と微笑む。
「じゃあ、次は私の隊の報告だよね?」
サキが手を挙げ、相良が頷く。
「じゃあ、私も優秀な隊員に報告してもらおっと! エースのユズ隊員、報告よろしく!」
「任せて! ユズ隊員、報告します!」
ユズは嬉しそうに立ち上がった。




