076 新たな問題
「何通りも!? 例えば、どういう方法があるんだ?」
「教えない」
「ケチ! 一つくらい教えろよ!」
「自分で考えろ。何にしても、もう少し注意深くなることだな」
マイケルは話を切り上げ、「またな」と離れていく。
連れの女は俺を見てニヤリと笑うと、何も言わずマイケルに続いた。
「あれがマイケルさんですか。たしかに雰囲気が他の冒険者とは別格ですね」
「だろ! マイケルはすげー奴なんだ! きっとレベル99で装備はSランクだぜ!」
俺の声は聞こえているはずだが、マイケルは反応することなくギルドから出ていった。
そうこうしているうちに、俺のすぐ前の冒険者も手続きを終えた。
「次の方ー」
新たな受付嬢に呼ばれて、俺とスミレは窓口に向かった。
「ご用件をお伺いします」
受付嬢が事務的な口調で言う。
その姿を見ていると、俺のエリにゃんショックが再発した。
「依頼報酬。第4第5全8。魔石換金」
「吉岡さん、ロボットみたいな口調になっていますよ」
スミレが苦笑しながらカウンターの上に魔石を置いていく。
その間に、受付嬢は淡々と処理を進めた。
---------------------------
【依頼報酬ログ】
○第4階層
・[通常]麦穂マウス:260G
・[通常]風切りホーク:290G
・[通常]丘ゴブリン:320G
・[通常]跳ね角シープ:350G
・[通常]風草スライム:380G
・[危険]鎌羽グリフォン:430G
・[危険]暴風ワイバーン:580G
・[ボス]風車オーガ:1,010G
○第5階層
・[通常]赤砂スライム:290G
・[通常]砦ラット:330G
・[通常]錆剣ゴブリン:360G
・[通常]赤土ハウンド:390G
・[通常]石盾コボルト:420G
・[危険]破城ボア:490G
・[危険]赤砦ウォーロード:650G
・[ボス]赤砦サイクロプス:1,140G
総額:7,690G
所持金:10,142G → 17,832G
---------------------------
「次、魔石換金。よろしく。俺の心は死んだ。吉岡はもういない」
エリにゃんショックで拗ねる俺。
「かしこまりました」
受付嬢は全く動じず、淡々と謎のキーボードをカタカタ。
---------------------------
【魔石換金ログ】
○第4階層
・[通常]麦穂マウス:10G×6個=60G
・[通常]風切りホーク:10G×5個=50G
・[通常]丘ゴブリン:10G×4個=40G
・[通常]跳ね角シープ:30G×4個=120G
・[通常]風草スライム:30G×3個=90G
・[危険]鎌羽グリフォン:70G×1個=70G
・[危険]暴風ワイバーン:100G×1個=100G
・[ボス]風車オーガ:430G×1個=430G
○第5階層
・[通常]赤砂スライム:20G×6個=120G
・[通常]砦ラット:20G×5個=100G
・[通常]錆剣ゴブリン:20G×4個=80G
・[通常]赤土ハウンド:30G×4個=120G
・[通常]石盾コボルト:30G×3個=90G
・[危険]破城ボア:80G×1個=80G
・[危険]赤砦ウォーロード:110G×1個=110G
・[ボス]赤砦サイクロプス:490G×1個=490G
総額:2,150G
分配人数:2人
分配後:1,075G / 残余:0G
所持金:17,832G → 18,907G
---------------------------
「吉岡さん、拗ねても変わりませんよ。ほら、行きますよ」
スミレが俺の服を引っ張り、集合用スペースに連れて行こうとする。
「吉岡、スミレは無事だろうな?」
窓口から離れてすぐに声をかけられた。
きっと宮坂だろうなと思いながら顔を向けたところ、やはり宮坂だった。
霧島と梶原も一緒だ。
三人の顔は汗にまみれ、首筋にも汗が滝のように流れていた。
どうやら窓口で精算手続きをしているようだ。
「やあ、君たちか」
俺は心底どうでもよさそうな反応を返した。
本当にどうでもよかったので、時計も確認しておく。
16時過ぎだった。
「なに? 吉岡、どうしちゃったわけ?」
梶原が驚いた様子でスミレを見る。
「エリナさんの窓口に40分並んだのですが、私たちの番が来る前に担当が交代になりまして……ひどく気を落としていらっしゃるようです」
スミレが説明すると、霧島が「くだらねえ」と呟いた。
「さんざん色んな女に手を出しておいて、エリナと話せなかっただけでここまで壊れたの? 吉岡、謎すぎでしょ」
梶原が苦笑している。
「傷心ならスミレを解放しろ」
宮坂はスミレしか見ていない。
「行こう、スミレ。彼らと話しても得られるものがない。俺の心は荒んでいる」
スミレは何も言わなかったが、俺が歩き出すとついてきた。
「待てよ、吉岡」
呼び止めてきたのは霧島だ。
精算手続きが終わったらしく、早足で近づいてきた。
「どうかしたのか? 霧島」
「一つ確認だ。お前、今のレベルはいくつだ?」
意外な質問だった。
「レベルか……」
俺はステータスを確認した。
---------------------------
【名前】吉岡
【レベル】16 EXP:1,113/1,290
【所持金】18,907ゴールド
【ユニークスキル】オール・レジェンド(P)
【技能①】[F]スター・ストライク(レジェンド)
【技能②】[E]バースト・ステップ(レジェンド)
【技能③】未登録
【武器】[E]吉岡デスサイズ(レジェンド)
【防具】[F]ブルファムレザーの軽装備
---------------------------
「どうやら俺のレベルは16みたいだ。もうすぐ17になる」
俺が言うと、梶原が「え?」と驚いた。
「そうか。レベル16か。なら、俺と同じだな。追いついたぜ」
霧島が勝ち誇るように笑っている。
「俺も16だ――並んだな、吉岡」
宮坂もニヤリと笑っている。
「宮坂くんまでレベル16なんですか?」
スミレが驚いた様子で聞き返した。
「そうだ。今日は吉岡と同じだが、これから差をつけていく。スミレ、もうすぐ守ってやれるからな」
「守ってほしいと頼んだ覚えはありません。ですが、レベル16はすごいと思います」
宮坂は誇らしげに頷いた。
「じゃあな、吉岡。先に行ってるぜ」
霧島は俺の肩をポンポンと叩いて歩き出す。
宮坂も同じように「お前の時代は終わりだ」と俺の肩を叩いて去って行く。
「吉岡、俺はレベル17になった。お前を抜いたぞ」
梶原は勝ち誇る様子もなく、ただそれだけ言って二人の後を追った。
「別に競争していたわけじゃないのに、霧島と宮坂は何と戦っているんだ?」
エリにゃんショックの影響もあり、俺は事情が飲み込めていなかった。
レベルで追いつかれ、明日には抜き去られるだろうことはわかっている。
だからといって、それの何が問題なのかが理解できない。
「吉岡さん、これは大問題ですよ」
しかし、スミレの反応は違っていた。
「大問題? どうしてだ? 競争はもう終わったはずだが?」
「はい。たしかに吉岡隊と霧島隊の競争は終わっています。なので、表向きは問題がないように見えます」
「表向きは?」
「思い出してください。吉岡さんは自覚されているとおり、常日頃から派手な振る舞いをされていますよね。ハーレムランド計画や、霧島さんや宮坂くんをはじめとした多くの男子に対する挑発的言動のことです」
俺は「おう」と即座に頷いた。
「それがどう関係するんだ?」
「吉岡さんは、転移前からそう振る舞っていました。しかし、それが事実上、黙認されていたのは、吉岡さんが圧倒的な実力者だったことが大きいです。一例を挙げると、前回のサークル旅行がそうです。サークルで企画したイベントが大失敗に終わり、危うく旅行ができなくなるところでした」
「旅費が足りない問題だな! 俺が緊急特別イベントを開いて乗り切ったやつだ!」
「そのとおりです。久しぶりに顔を出した吉岡さんが、事情を聞くなり新たなイベントを企画し、それによって無事にサークル旅行を行うことができました。そうした活躍は転移後も続いています」
「言いたいことがわかってきた気がするぞ……!」
「格好いい言い方をすれば、今まで吉岡さんは、圧倒的な実力で周囲を黙らせていたわけです。もちろん、吉岡さんは自分から『俺は実力者だから配慮しろ』とは言っていませんし、求めたこともありません。しかし、吉岡さんがみんなのためを思って行動し、大きな貢献をされたことで、周囲が勝手に遠慮していた部分は間違いなくあります」
スミレは言葉を選ぶように、丁寧に説明を続ける。
「これは吉岡さんが悪いのではありません。むしろ、貢献度に対して、吉岡さんは謙虚なほうだと思います。それでも、自然現象としてそうなってしまうものです。勘違いしないでほしいのですが、責めているわけではありません」
「わかってるさ。要するに、俺の特権的地位が脅かされそうになっているわけだな!?」
「そのとおりです。レベルだけが全てではありませんが、それでも大きな要素ではあります。そのレベルにおいて、吉岡さんは、霧島さんと宮坂くんに並ばれ、梶原くんに抜かされました。このまま追い抜かれ、差を広げられていった場合――」
スミレは真っ直ぐ俺を見て言った。
「――吉岡さんのハーレムランド計画に重大な支障をきたしかねませんよ」




