074 赤砦の戦い
第5階層を攻略するにあたって、俺の課題は一つだけだった。
どうやってスミレを守るのか。
しかし、その問題は早くも解決しようとしていた。
残っている敵は二体で、しかも見えている。
周囲の入り組んだ場所からの奇襲は起こりえない。
そして、俺の武器はEランク。
敵はFランクなので、ランク差補正が発生している。
圧倒的に有利だ。
――そう、思っていた。
「グォオオ!」
門内に侵入し、堂々と近づく俺たちに対し、敵が動き出した。
ウォーロードが大きな杖を掲げたのだ。
杖の先端が輝き始める。
「あの野郎、何かするつもりだぞ! スミレ、ユニークスキルの発動準備をしておけ!」
「わかりました」
俺たちと敵との距離は、まだ数十メートルある。
鎌ブーメランはおろか〈スター・ストライク〉すら間合いに入っていない。
この距離で仕掛けられたら、反撃する手段がなかった。
「グォオア!」
ウォーロードが杖をこちらに向ける。
すると、杖の先端から火球が放たれた。
直径2メートル程度の大きな一発だ。
「吉岡さん! 敵の攻撃が来ます!」
「スミレ、瓦礫の山に隠れろ!」
俺は〈スター・ストライク〉で応戦してみた。
直径2m級の火球vs直径約45cmの星。
その勝敗は――。
「お! いけるじゃねぇか!」
驚いたことに引き分けだった。
放たれた星が敵の火球にぶつかり、ともに消滅したのだ。
派手に散っていった。
「「グォ!?」」
今の結果にウォーロードとサイクロプスが揃って驚いている。
「相手にとっても予想外だったようだな。引き分けってことは、あの火球の威力は中だ。一気に距離を詰めよう」
「はい!」
俺たちは駆け出した。
とにかく射程圏まで詰めなければ話が始まらない。
相手に遠距離攻撃があるとわかった以上、悠長に歩くことはできなかった。
「フンゴォオオオオオオ!」
次に動いたのはボスのサイクロプスだ。
背後にあった巨大な岩を両手で抱えて投げてきた。
「今度は岩かよ!」
「グォオア!」
さらにウォーロードが火球を放つ。
「揃いも揃って遠距離攻撃か! スミレ、【聖花の結界】だ! 仕留めにいくぞ! 援護しろ!」
俺は火球に向かって〈スター・ストライク〉を放ちつつ言った。
「わかりました! ――【聖花の結界】!」
俺とスミレを白い花の結界が守る。
ドンッ!
まずは先ほどと同じように、火球と星が互いに打ち消し合う。
だが、まだ大岩が残っている。
「鎌ブーメランでは不確実性が残る! ならば――吉岡死神殺法その2! 滅多斬り!」
俺は駆け出し、岩に向かって飛び込んだ。
そのまま大鎌を軽やかに振り回し、岩を粉々に切り裂く。
砕けた岩は石の散弾と化したが、それらは結界が防いでくれた。
「吉岡さん! 結界はまだ残っています! 消えていません! まだ防げます!」
「おうよ! 一気に決めるぜ! ――戦技、発動!」
俺は敵へ駆け寄り、〈バースト・ステップ〉で残る距離を一気に詰めた。
一瞬で相手の懐に潜り込むと――。
「我こそは令和の死神! 吉岡なり! キエエエエエエエエエエエエエイ!!!!!!!」
大鎌の一閃でウォーロードの体を真っ二つにする。
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討伐:赤砦ウォーロード×1
PT:2人 人数補正:90%
獲得:180G / 171EXP
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「フンゴオオオオオオオオ!」
サイクロプスが殴ろうとしてくる。
「遅い遅い遅い!」
戦技に頼らず自らのステップで回避。
さらに至近距離から鎌ブーメランを放つ。
グサッ!
鎌は敵を貫通できず、頑強な皮膚に突き刺さった。
イメージと違う結果になったが、効果は抜群だ。
「グァアアアア……!」
サイクロプスが悲鳴を上げている。
「胴体は思った以上に硬い! ならば目だ!」
もがき苦しむ敵の巨大な目に、俺は〈スター・ストライク〉を撃ち込んだ。
「グアッ……」
今度は決定打になった。
どうやら目が弱点だったようだ。
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討伐:赤砦サイクロプス×1
PT:2人 人数補正:90%
獲得:882G / 531EXP
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討伐ログが出て、サイクロプスが膝から崩れる。
敵が倒れきったところで、戦闘結果ログも表示された。
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【戦闘結果ログ】
討伐:赤砦ウォーロード×1 / 赤砦サイクロプス×1
PT:2人 人数補正:90%
獲得:1,062G / 702EXP
所持金:9,080G → 10,142G
レベル:Lv.16
経験値:411 → 1,113/1,290EXP
依頼進捗:赤砦ウォーロード討伐 1/1・達成
依頼進捗:赤砦サイクロプス討伐 1/1・達成
攻略証明:第5階層・取得
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「よーし! 思った以上の強さだったが、ばっちりきっちり圧勝・楽勝・大勝利!」
「すごい戦いぶりでした。私の結界もお役に立てたようで、攻略証明を取得できました」
スミレが安堵したように微笑む。
「スミレの安全を意識しつつ、任せるところは任せ、目標も達成した! 最高の結果だ! さあ、凱旋だ!」
「これは皆さんに自慢できそうですね」
「そうだな!」
俺たちはウキウキで帰路についた。
◇
第5階層での滞在時間は、想定より遥かに短かった。
転移地点からボスが見えるほど狭く、攻略のネックである移動に時間を取られずに済んだ。
そのため、ギルドに戻ったのは15時過ぎだった。
16時以降になるだろう、という予測より1時間以上も早い。
「いた! エリにゃんだ! スミレ、ここに並ぶぞ!」
俺は迷うことなくエリナの窓口に並ぶ。
ただし、今回はこれまでで一番の混み具合だ。
他の窓口にも、それなりに冒険者が並んでいる。
しかし、エリナの列だけは段違いに長かった。
「この行列ですと、きっと私たちの番が来るまでに1時間以上かかりますよ」
「関係ねぇ! エリにゃんと話すんだ!」
「わかりました。ですが、魔石は吉岡さんが持ってください」
スミレが背負い袋を俺に渡す。
「いいだろう! それにしても君は、日に日に遠慮がなくなっていくな!」
「吉岡さんには、そのほうが喜んでいただけるかと思いまして」
スミレが「嫌でしたか?」と俺を見る。
その口元には笑みが浮かんでいた。
「嫌じゃないさ! だが、忘れないでくれ! 主導権は俺が握っている! ハーレムキングは俺! 君はイイ女の一人!」
「すごく最低な発言ですよ、それ」とスミレが笑う。
「欲望に忠実な正直者と言ってもらいたいものだ!」
こうして話している間にも、時計の針が一定のリズムで進んでいく。
「あ! 吉岡くんだ!」
そう言って現れたのはユズだ。
他にサキ、アヤ、早川とサキ隊が揃っている。
時計の針は15時30分を指していた。
「おや? これはユズ太郎くんじゃないか!」
「ユズ太郎じゃなくてユズ隊員だよ! サキ隊のエース! ユズ隊員!」
ユズが「ふっふーん!」と胸を張る。
その間に、早川は俺に一礼して、空いている列に向かう。
アヤも軽く挨拶を済ませると早川に続いた。
「その誇らしげな顔から察するに、どうやら大活躍だったようだな!」
「当然でしょ? だって私、エースだもん!」
「エースは自称だけど、たしかにユズは頑張ってたね」とサキが笑う。
「でしょでしょ! サキ、もっと言って!」
「詳しいことは報告会のお楽しみにしなよ。お喋りしている間に、早川の選んだ窓口は空きそうだよ」
「あ! 本当だ! じゃーね、吉岡くん! それから……スミレ、負けないからね!」
「はい、私も負けません」
スミレが笑顔で返すと、ユズは「またねー!」と早川たちのところへ向かう。
サキは「じゃ、私も」と離れかけたが、そこで「あ、そうそう」と立ち止まった。
それから、真顔で俺に言った。
「吉岡くん、隊長って思ったより難しいね」




