073 キルゾーン
ギルドに戻ったのは13時過ぎのことだった。
想定より遅くなったが、それは鎌ブーメランの検証をしていたからだ。
「さて、まずは腹ごしらえだ! こりゃあ、第5階層を攻略して戻った頃には16時を回ってるぞ!」
「それでも第5階層に行くんですね」
「おうよ! ようやく肩慣らしが終わったところだぞ! まだまだこれからさ!」
俺たちはギルドに併設されている食堂で昼ご飯を食べた。
食費をケチらない男として、遠慮なくノーマルセットを注文する。
吉岡隊に所属している以上、スミレもノーマルセットだ。
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【支払ログ】
食事:ノーマルセット
支出:700G
所持金:8,655G → 7,955G
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俺はメインの一品に刺身盛りを選んだ。
さすがに焼き肉ばかりでは飽きてきたし、何より異世界の刺身を食べてみたかった。
スミレのメインは焼き魚だ。
たしか、以前もメインに焼き魚を選んでいた。
「スミレは焼き魚が好きなのか?」
俺たちは隅のカウンター席に並んで座って食事を進める。
「好きです。あと、ベジタリアンというほどではないのですが、あまりお肉は食べません」
「そうだったのか。でも、肉が嫌いってわけではないよな?」
「はい。嫌いではありません。どちらかと言えば、お肉よりお魚のほうが好きというだけです」
「魚は美味いもんなー。日本の魚がもうちょい安かったら、俺ももっと食ってたんだけどなー」
俺は喋りながら、適当な刺身を一つ食べてみた。
「うめぇ」
反射的にそう呟くほどには美味かった。
マグロの赤身に似た見た目の刺身は、しっかりマグロの赤身の味がする。
次に、サーモンに似た見た目の刺身を食べてみた。
すると、しっかりサーモンの味がする。
他の刺身も、見た目からイメージするとおりの味だった。
そのうえ、日本で食っても満足できる美味さだ。
「量も多いし、日本なら安くても1500円はするぜ。いや、東京なら2000円以上だな」
「そんなに美味しいのですか?」
スミレが興味深そうに舟盛りを眺めている。
「一つ食べてみる?」
「よろしいのですか?」
「キスしてくれたらね」
俺はニヤニヤしながらスミレの袖を二回引いた。
「強引ですね……」
スミレは頬を赤らめ、周囲を確認する。
他にも冒険者がたくさんいるが、俺たちを見ている者はいない。
誰もが自分たちの料理や会話に夢中だ。
「動かないでくださいね」
そう言って、スミレは俺のほうに体を傾けた。
頬に軽く唇を当てる。
「……キス、しました。お刺身、いただきますね」
スミレは恥ずかしそうにマグロの赤身を取った。
本当にマグロかは不明だが、少なくとも俺はマグロと命名した。
「本当に美味しいです。私の焼き魚も美味しいのですが、刺身盛りのほうがお得感がありますね」
「だろー! この世界の感覚は不明だが、日本の物価感覚を持っている俺たちからすると、この刺身盛りはコスパが半端ないよな!」
スミレも「はい」と大きく頷いた。
◇
楽しい昼食が終わると、俺たちは新たなダンジョンに転移した。
――第5階層〈赤土の砦跡〉。
「これは砦跡っていうより、大地震で倒壊した昔の城って感じだな」
「遠距離攻撃が通りにくそうな場所ですね」
目の前には、赤土の空堀が円を描くように広がっていた。
城壁の半分近くが崩れているが、この空堀が深くて通れない。
したがって、侵入口は開きっぱなしの城門ただ一つ。
門を抜けた先には、倒壊した建物がいくつか見える。
瓦礫や赤土の山が点在していて、かなり入り組んでいた。
そして、そのさらに奥――。
かなり遠いところに、うっすらと二体の巨人が見える。
ひときわ大きい一つ目の魔物がボスの赤砦サイクロプスだろう。
その隣にいる人型が赤砦ウォーロードと思われる。
「転移地点からボスが見えるのは初めてだな。真っ直ぐ進めばボスまでショートカットできるが……」
「左右の建物や瓦礫の山に、他の魔物が潜んでいると思います」
「だろうな。つまり、ここではボスやお供の巨人に見られながら戦うことになる。悪くねぇな!」
「悪くないんですか?」
「そらな! 変化はいいことだ! リスクはあるが、楽しみもある!」
「ふふっ、吉岡さんはポジティブですね」
「おうよ! 新たな死神殺法を繰り出すぜ! 行くぞ、スミレ!」
俺は悠然と歩きながら門に向かっていく。
「そうだ! スミレ、せっかくだから瓦礫の山とかにスタストを連発しまくってやれば、隠れている敵をあぶり出せるんじゃ――」
話している最中だった。
「キィー!」
なんと両サイドの空堀から敵が奇襲してきたのだ。
赤土色のダンジョンと似た色合いのネズミ――砦ラットだ。
数は5体で、右から3体、左から2体。
完全に意表を突かれた。
「吉岡さん、敵です!」
「スミレ、〈ホーリーシールド〉を発動して戦え。左は任せるぞ」
「はい! お任せください!」
俺は飛びかかってくるラットの群れに対し、「ふん!」と鎌を振った。
重くて大きな鎌だが、【オール・レジェンド】のおかげで片手でも軽々と扱える。
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討伐:砦ラット×3
PT:2人 人数補正:90%
獲得:135G / 81EXP
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ものの数秒で片付いた。
当然ながら、スミレはまだ戦っている。
ラットの攻撃を盾で捌きつつ、カウンターの刺突を放っていた。
だが、思うようには捉えられない。
素早い敵の動きに翻弄されている。
場所も悪い。
踏み込みすぎると空堀に転落する恐れがあった。
多少なら踏み込めるが、その拍子に足下の土が崩れる恐れもある。
堀の縁ぎりぎりまで攻め込むのは避けたいところだ。
「ワォオオオオオオオオン!」
「ゴブーッ!!」
「キキッキィ!」
「ぴゅーい!」
「モォオオオオオオオオオオ!!!!!!」
スミレの戦いを見ていると、敵の増援が現れた。
残る通常種と危険個体の破城ボアが丸ごとセットで突っ込んでくる。
ぞろぞろと雁首を揃えて門から出てきた。
「吉岡さん、すごい数の敵が!」
「俺に任せておけ。入り組んだ地形で奇襲していればいいものを――」
俺は〈スター・ストライク〉をぶち込んだあと、大鎌を横回転させるように投げた。
吉岡死神殺法その1・鎌ブーメランだ。
「――馬鹿な奴らだぜ!」
〈スター・ストライク〉でボアの突進が止まる。
そこへ高速回転する大鎌が突っ込み、敵を切り裂いていく。
今回は、鎌を地面すれすれの低さから投げた。
野球のアンダースローに近い。
これによって鎌ブーメランの高度が緩やかに上がっていく。
そして最大飛距離に達した地点では、かなり高い位置になっていた。
そこから新たな軌道を辿り、崩れた城壁を越えて俺の手に戻る。
「吉岡さん、倒しました! 私も参戦します!」
「その必要はない。スタストと鎌ブーメランで片付けてやったぜ!」
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【戦闘結果ログ】
討伐:赤砂スライム×6 / 砦ラット×5 /
錆剣ゴブリン×4 / 赤土ハウンド×4 /
石盾コボルト×3 / 破城ボア×1
PT:2人 人数補正:90%
獲得:1,125G / 972EXP
所持金:7,955G → 9,080G
レベル:Lv.15 → Lv.16
経験値:649 → 411/1,290EXP
依頼進捗:赤砂スライム討伐 6/6・達成
依頼進捗:砦ラット討伐 5/5・達成
依頼進捗:錆剣ゴブリン討伐 4/4・達成
依頼進捗:赤土ハウンド討伐 4/4・達成
依頼進捗:石盾コボルト討伐 3/3・達成
依頼進捗:破城ボア討伐 1/1・達成
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俺の言葉を裏付けるように、戦闘結果ログが表示された。
「私が戦っている間に、あれだけの数を……?」
「敵が馬鹿だから助かったぜ。いや、違うな。俺にとって相性がよかった。リカと第2階層のボスみたいなものだな!」
今回戦ったのは門外だ。
正確には門につながる一本道。
当然、左右には深い空堀がある。
そこで戦う場合、敵は門から出る必要があった。
門を出た時点で、敵は密集する。
「つまり、吉岡さんの大鎌でまとめて倒すのに絶好の場所だったわけですね」
「言うなればキルゾーンだ! 令和の死神、吉岡見参!」
敵が毎回こういう攻め方をするのかは不明だ。
しかし、本来であれば、今回の配置は多くの冒険者にとって苦しい。
まとまって突っ込んでくるので、小分けにして戦えないからだ。
そのうえ、ラットの奇襲もあった。
奇襲に始まり、手こずっていると他の敵が一斉に攻めてくる――。
門内で戦うのだろうな、と思わせてから攻めてくるのもいやらしい。
このダンジョンで思いつく限り、最善に近い短期決戦型の初見殺しだ。
ただし、相手が悪かった。
「これで残すはボスとお供のウォーロードだけだ! さっさと倒しちまおうぜ! スミレ、魔石を拾え! 行くぞ!」
俺は再び悠然と歩き始めた。




