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072 検証

「検証するのはかまいませんが、敵はどうするのですか?」


「もちろん近づいてきたら戦う! スミレ、君は警戒を頼む! 仮に俺の手元に武器がない状態でも、スタストで迎撃できる!」


「わかりました。ボスまで倒さずに検証を始めるところが吉岡さんらしいですね」


「むしろ、可能な限り速やかに曖昧な仕様を明確にして賢いと評価してほしいものだ!」


 そう言うと、俺は検証を開始した。

 検証方法は簡単だ。


「まずは2メートル! いっけぇ! 俺の鎌ブーメラン!」


 そう、ただひたすら鎌ブーメランを繰り返すことだ。

 2メートルほど飛んで戻ってくるように念じた。

 しかし――。


「うおい! めっちゃくちゃ飛んでるじゃねぇか!」


 またしても約10mも飛んでしまった。

 軌道もイメージとは少し違う。


「なら、今度は水平線の向こうまで! いっけぇ!」


「水平線の向こうというセリフは、海に向かって言うものでは……?」


「君は佐伯さんじゃないだろ! そういう指摘は不要だ!」


 スミレが笑う中、俺は尋常ならざる飛距離を念じながら大鎌を投げた。

 ついでに軌道も俺たちの周りを大きく一周するようにイメージする。

 しかし――。


「またしてもこの距離だ!」


 今度の鎌ブーメランも約10m飛んで戻ってきた。

 軌道も先ほどと全く同じである。


「どうやら鎌ブーメランは飛距離と軌道が固定化されているようですね」


「そのようだ。なら、今度はもっと大胆にいこう!」


 俺は再び鎌ブーメランをイメージする。

 飛距離と軌道は、固定化されたものと同じにしておく。


 しかし、投げ方を大きく変えた。

 新たな投げ方は、大根斬りのように振り下ろすイメージだ。


 つまり、そのまま投げれば鎌は縦に回転する。

 さながら車輪のように!

 ブーメランのような軌道を描く余地はない。


 しかも、イメージしている軌道は横回転だ。

 イメージ上では、最初に縦回転で真っ直ぐ飛んだあと、途中から横回転に切り替わる。

 鎌が自然に傾き、縦から横になるわけだ。

 そう、これは物理法則を完全に無視した、現実には起こりえない動きである。


「これならどうだ!」


 俺は新たな投げ方で鎌ブーメランを繰り出した。

 その結果――。


 ドガッ!


 大鎌は俺の手を離れた瞬間、目の前の地面にグサリと突き刺さった。


「飛ばなかったですね……」


「しかし、ようやくわかってきたぞ。鎌ブーメランの仕様が!」


「本当ですか」


「あとは一つだけだ」


 俺は鎌を片手で振り回すようにイメージした。

 すると体が動き、大鎌なのに片手ですいすいと動かせた。


「なるほど。そこは筋肉量より俺の意思が優先されるわけか」


 スミレは俺の独り言に首をかしげつつ、敵の警戒を続ける。


「そういうことなら、おそらくこれも同じ軌道になるだろう!」


 俺は片手投げによる鎌ブーメランを試すことにした。

 テニスのフォアハンドのような動作で投げる。

 飛距離や軌道はデタラメなものをイメージした。

 しかし――。


「やっぱり!」


 鎌は両手で投げたときと同じく、約10mで戻ってきた。

 軌道もそのときと同じだ。


「ついに究明できましたか」


「ほぼほぼ完璧だ! 少なくとも安心して実戦投入できるレベルにはなった!」


「では、結論を教えてください。警戒していて、全てを見ていたわけではありませんので」


 スミレが警戒しつつ言う。

 俺は「いいだろう!」と大きく頷いた。


「これは俺の仮説だが、俺の【オール・レジェンド】は物理法則を無視できないようだ。ただし、物理法則が許す範囲で、最大限にイメージを再現しようとする。簡潔に言えばそういうことだ!」


「鎌ブーメランがイメージと違う動きをしたのは、物理法則上の都合……ということでしょうか」


「そうだ。ここで面白いのが、筋肉量や反射神経といった俺の身体能力は無視されることだ」


「だから片手で大鎌を振り回せたり、軽々と大太刀を振れたりしたわけですか」


「そのとおり!」


「では、吉岡さんが念じれば30mくらいの垂直跳びも可能ということですか?」


 スミレに言われてハッとした。


「それは考えていなかったな! 試してみよう! ただの垂直跳びだとおそらく【オール・レジェンド】の対象にならない。超高度にジャンプしてから攻撃するイメージだ! 30mは着地したときに死にかねないから、まずは5mからだ! せーのっ!」


「いや、5mでも骨折しかねない高さ――」


 スミレの言葉を無視して、俺は約5mの垂直跳びをイメージした。

 さらに最大高度に達したところで鎌を横に振るうイメージも重ねる。


 その瞬間、体が反応する。

 大きく跳躍し、きっちり最大高度で鎌を振るった。


 しかし――。


「かなり飛びましたが、5mには届かなかったですね。おそらく3mに少し届かないくらいです」


「俺の記憶では、垂直跳びの世界記録級でも2mにすら届かなかったはずだ。それを考えれば、3mに少し届かないくらいでも異常な跳躍力と言える。ただ、イメージを完全に再現できるわけではないとわかった」


「つまり、最終結論は『物理法則は無視できない。身体能力は大幅に強化されるものの、完全に無視されているわけではない』ということでしょうか」


「そんなところだろう! 付け加えるなら、動作の再現は重視される! 5mは飛べずとも約3m飛んで鎌を振るうことはできた! つまり、超人的な動きはできるが、超人ではないということだ! ネトゲで喩えるならカンストレベルではある! ただし、不正者(チーター)ではない!」


 俺の演説じみたまとめに、スミレは「ですね」と頷いた。


「ですが吉岡さん、鎌ブーメランのような複雑な軌道を描く遠隔攻撃の際には、事前に試しておいてくださいね。吉岡さんのイメージとは異なる挙動になることがありますので、他の方が巻き込まれるかもしれません」


「そうだな! 真っ直ぐ投げるだけとかならいいが、曲がったり戻ってきたりさせる場合は試し撃ちが必要だ!」


 長い検証の末に、俺たちが辿り着いた結論は以下の通りだ。


---------------------------

■オール・レジェンドの再現優先度

・物理法則>補正後の身体能力>脳内イメージ


■イメージの完全再現に必要な条件

・物理的に可能であること

・補正後の身体能力で実行可能であること


■イメージを再現できない場合の処理

・物理法則に反する部分は再現されず、実際の運動は物理法則に従う。

・補正後の身体能力だけが不足する場合、可能な範囲までイメージへ近づける。

・武器や技能を扱う一連の動作そのものは、可能な限り正確に再現される。

---------------------------


「はー、スッキリした! よーし、残りもぱぱっと片付けるぞー!」


 満足したので、俺たちは移動を再開した。


 ◇


 この第4階層に残っている敵は危険個体2種とボスだけだ。


「スミレ、君が戦いたい気持ちはわかるが、俺も鎌ブーメランをもっと試したい。俺に出番を譲ってくれるかい?」


「わかりました。では、私は吉岡さんの後方で警戒していますね。ただし、私は第4階層の攻略証明を取得していません。ですので、ボス戦では最初に有効参加条件を満たさせてください。【聖花の結界】と〈ホーリーシールド〉を発動しながら距離を詰め、ボスに一度だけ攻撃します」


「いいだろう! では、その手筈で!」


 ということで、残りの敵は俺が担当した。


「アチョオオオオオオオオ!!!!!!!」


「行け! 吉岡デスサイズ! ワイバーンを切り裂いてやれ!」


「我こそは吉岡! 令和の死神なり! がーはっはっは! はっはっはのはー!!!!!!」


---------------------------

【戦闘結果ログ】

討伐:鎌羽グリフォン×1 / 暴風ワイバーン×1 /

   風車オーガ×1

PT:2人 人数補正:90%

獲得:1,044G / 720EXP

所持金:7,611G → 8,655G

レベル:Lv.14 → Lv.15

経験値:1,059 → 649/1,210EXP

依頼進捗:鎌羽グリフォン討伐 1/1・達成

依頼進捗:暴風ワイバーン討伐 1/1・達成

依頼進捗:風車オーガ討伐 1/1・達成

---------------------------


 三体とも危なげなく倒せた。

 スミレの攻略証明も取得できている。


「それにしてもクソ弱かったな! これがランク差補正か!」


 通常種との戦闘では、武器のランクが上がったことの恩恵を感じなかった。

 前から一撃だったからだ。


 だが、危険個体やボス戦では明らかに違っていた。

 危険個体はどちらも通常種と同じような感覚で倒せたのだ。

 ボスもそれに毛が生えた程度のイージーモードだった。


「色々な投げ方をされていましたね」


 スミレが大鎌を見ながら上品に笑う。


「検証の続きさ。おかげで、投げ方を大きく変えると飛距離や軌道が変わる場合があるとわかった」


 危険個体と戦う前に、上から振り下ろす投げ方を試したときは、ブーメランにはならなかった。

 一方、ボウリングの玉のような下手投げでは、縦回転のブーメランとして成立したのだ。


 また、上から下に振り下ろす投げ方でも、ブーメランとして成立させられるとわかった。

 ただし、ブーメランの射角はかなり上向きになり、そこから縦に回転して地を這うように戻ってくる。

 つまり、上から投げる場合でも、物理法則に反しないイメージなら成立するわけだ。


 そんな感じで、投げ方によって差が生じることを確認できた。

 同時に、片手投げと両手投げでは結果に差がないこともわかった。

 おそらく、片手でも投げるのに必要な身体能力がすでに足りていたのだろう。


 ただ、これ以上、細かいところまで突き止めようとは思わない。

 そういうのは佐伯の役目だ。

 彼に頼めば喜んで付き合ってくれるとは思うが、面倒くさいので黙っておくことにした。

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【ノクターン】異世界ゆるっとサバイバル生活
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異世界ゆるっとサバイバル生活 第4巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第5巻 異世界ゆるっとサバイバル生活 第6巻
『成り上がり英雄の無人島奇譚』
成り上がり英雄の無人島奇譚 第1巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第2巻 成り上がり英雄の無人島奇譚 第3巻
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