069 地獄の二択
「発表するぞ! 俺が今夜、一緒に過ごす相手は――」
ユズとサキが緊張の面持ちで唾を飲み込む。
「――君たち二人ともだ!」
「「え?」」
俺は驚く二人を抱きしめた。
「一人を選べば、もう一人を失う! それはできない! だから二人選ぶことにした! 折半ができるんだから、三人で支払いを分割することだって可能なはずだ! 三人で過ごせば問題解決! 一石二鳥! 第三の答え! それが正解!」
「ちょ、ちょっと待って! 待った待った! そんなのあり!?」
サキが驚く。
「サキと三人かー、悪くないかも!」
一方、ユズは乗り気だ。
「サキ、答えは『あり』だ! もちろん君がビビって逃げ出すなら、話は別だが……!」
俺は「どうする?」とニヤニヤしながらサキを見る。
ここまでの仕返しだ。
「そんな風に言われたら乗るしかないじゃん……! いいよ、三人でも。宿屋の交渉は吉岡くんがしてね。折半はできても、三人で泊まれるとは限らないから」
「あと、宿代は吉岡くんが1,400G、私とサキが700Gね! 三等分じゃないから! 女子は女子で割り勘!」
サキとユズが同時に言う。
「サキの発言はともかく、ユズの謎理論は本当に理解できないが……いいだろう! 俺が店主に交渉し、支払いは1,400Gだ!」
起死回生のウルトラCによって、俺は地獄の二者択一を乗り切った。
とはいえ、完全に解決したわけではない。
まだ一般個室宿の一部屋を三人で利用できるかどうかは不明だ。
ユズの言う支払い方法が認められるかもわからない。
しかし、そんなものは些事だった。
◇
「三人で利用? 支払いはあんたが1,400、嬢ちゃんらが700ずつだね。どっちも問題ないよ。部屋は2階の突き当たり……あんたら二人が前に使っていた部屋と同じだよ」
案の定、宿屋に関する問題は些事だった。
交渉するまでもなく、受付のおばさんは承諾した。
そのうえ、俺とユズのことを覚えていた。
そう、ここは以前、ユズと泊まるときに利用した宿屋だ。
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【支払ログ】
宿泊:一般個室
支出:1,400G
所持金:8,497G → 7,097G
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「外見からしてがっつりラブホだったけど、中もなんかそんな感じじゃん」
階段を上がりながら、サキが周囲をきょろきょろと眺める。
この宿は相変わらずお盛んな冒険者が多く、あらゆる部屋から声が漏れていた。
「楽しみだねー! あ、サキ、ここでも私が先輩だからね!」
ユズが先輩風を吹かす。
サキの初戦闘でも同じように振る舞っていたので、「ここでも」ということなのだろう。
「まあ……そうだね。ここじゃユズが先輩になるかな」
借りた部屋に近づくにつれて、サキの反応が小さくなっていく。
首筋や耳が早くも赤くなっていた。
「サキ、もしかして緊張しているのか?」
俺はサキの肩を抱き寄せた。
「そりゃあ、するでしょ。私、こういうキャラだけど経験ないし……」
「じゃあ、私が本当に先輩じゃん!」とユズが声を弾ませる。
そうこうしているうちに、俺たちは部屋の前に到着した。
ユズが俺の手から鍵を奪い、待ちきれない様子で部屋の扉を開ける。
「吉岡くん、最初に言っておくけど、私はユズやナナみたいにチョロくないよ。あくまで軽い関係だから。今日はノリでそういうのオッケーしちゃったけど、本気にさせたかったら頑張ってね」
サキが珍しく頬を赤らめながら俺を見る。
「わかっているさ。だが、果たして明日の朝まで同じ態度でいられるかな?」
俺はサキの顎をつまみ上げて唇を奪った。
「んっ……」
サキの顔が真っ赤に染まり、目がうっとりとしていく。
「こら! 吉岡くん、まだ部屋に入ってないよ! それにイチャイチャするなら私からでしょ! なんでサキからなの!」
ユズが俺の手首を掴み、部屋の中へ連れ込む。
それから俺の首に両腕を回し――。
「今日も頑張ったから、いっぱいイチャイチャしてね」
――そう言って、自分からキスしてきた。
「うわっ、ユズ、大胆……」
サキも遅れて部屋に入ってくる。
扉を静かに閉めて、普段より控えめな調子で俺たちを見ていた。
「ふふん! サキ、これがユズ隊員だ! サキにも、ナナにも、スミレにも……負けないもんね! でも、その前に……これは私の特権!」
ユズはキスを終えると、ベッドにダイブした。
無邪気に楽しむその姿は、良い意味で子供のようだ。
「今の私、めっちゃ緊張してるんだけど、ユズを見ていたらちょっと緊張がほぐれてきたかも。ていうことで、サキちゃんも、ドーンッ!」
サキもベッドに飛び込む。
「さあ、楽しい時間の始まりだああああああああああああ!!!!!!!!!」
俺もベッドにダイブする。
そうして、今宵は三人で楽しく過ごすのだった。
◇
翌朝、目を覚ました時は最高の気分だった。
俺は大の字で寝ており、右にユズ、左にサキが眠っている。
二人は俺の腕を枕代わりにして、俺に抱きついて心地よさそうだ。
(これがハーレム……! 思っていた以上だ……!)
天井を眺めながら、俺はニヤついた。
今までの人生において、女と一夜を明かした経験は数え切れない。
異世界に転移する前から、俺の女遊びは噂になるくらい派手だった。
しかし、二人の女と同時に一夜を明かしたのは初めてだ。
今までは口にしていただけの「ハーレム」を、ついに体験できた。
最高の気分だ。
想像していたよりもずっといい。
(もっと増やしてぇなぁ……俺を圧死させるに足るほどの人数に囲まれたいぜ……)
イイ女に埋め尽くされて死ぬ自分を想像する。
まさに理想の死に方だと思った。
(吉岡ハーレムランドの建国、頑張らないとな……!)
今まで以上の強い覚悟で、俺の転移7日目が幕を開けた――。
◇
ユズとサキが起きたので、軽くイチャイチャしてから宿屋を出た。
出発前にシャワーを浴びたのでサッパリしている。
衣服や防具も〈洗濯クローゼット〉のおかげで新品同様に綺麗だ。
「ここにしよう! いい香りが漂っている!」
朝食は、昨日に引き続き知らない店を選んだ。
サルーン――西部劇に出てくる酒場――のような外観で、肉料理がメインらしい。
シンプルセットの内容は、250グラムの牛ステーキだ。
棒状にカットした野菜の酢漬けが添えられている。
ノーマルセットにした場合、肉が増量されてライスが付くらしい。
今回はシンプルセットにした。
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【支払ログ】
食事:シンプルセット
支出:350G
所持金:7,097G → 6,747G
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「へい、お待ち!」
カウガールのような風貌の女性店員が、俺たちの肉を運んでくる。
熱々の鉄板の上でジュージューと食欲をそそる音を立てていた。
「350Gのステーキだから期待していなかったけど、これ絶対に美味しいやつじゃん」
サキが目を輝かせる。
「ハーレムの日を祝して……いただきます!」
俺が宣言すると、二人も「いただきます!」と言ってから食事を開始した。
コスパは抜群。見た目も完璧。香りも最高。
あとは味だが――。
「美味しー! 吉岡くん、このお肉、すごく美味しいね!」
ユズが興奮する。
「ああ、たまらんな! 普通にいけるぞ!」
高級和牛というより、スーパーで安く売られている牛肉に近い。
部位はおそらく肩ロースだろう。
そのため、お高いステーキのように口の中で溶けることはない。
しかし、味は文句なしに美味い。
牛肉の旨みがしっかり感じられるし、専用のタレもいい感じだ。
筋も丁寧に処理されているため、食べていて不快にならなかった。
「ここは大当たりだね。決めた! サキ隊は今後、ここで朝食を食べることとする!」
サキが言うと、ユズは「おー!」と嬉しそうに声を弾ませた。
◇
最高の朝食を堪能したあと、俺たちはギルドにやってきた。
掛け時計によれば、時刻は9時55分。
スミレとの集合時刻を9時30分ではなく10時にしたのは正解だった。
「おはようございます、吉岡さん。新しい武器は大鎌ですか。相変わらず派手ですね……」
スミレはすでに到着しており、受付の近くで待っていた。
「おう! おはよう、スミレ! それに――早川とアヤも!」
俺はスミレの隣に目を向ける。
そこには、サキ隊の隊員・早川とアヤの姿があった。




