068 登録名
以前、エリナに紹介してもらった3番通りの武具屋にやってきた。
「ここは見ての通り品数が非常に多い。しかも、これだけあって商品の最高ランクはDだ。ここならいい武器が見つかるだろう!」
ユズとサキが「おー!」と声を上げる。
「さあ、ユズ隊員! 俺の武器を見繕ってくれたまえ! Eランクで頼むよ!」
「了解であります! 吉岡隊長!」
ユズは嬉しそうに敬礼すると、目を輝かせて武器を物色し始めた。
「じゃあ、吉岡くん、待ってる間は私の武器を選ぶの手伝ってよ」
ユズが離れた瞬間、サキが俺の腕に抱きついてくる。
「それはかまわんが……妙にくっついてくるな!」
「私も負けず嫌いだからねー! ここまできたからには、吉岡くんにお持ち帰りされるよ!」
サキがニヤリと笑い、上目遣いで俺を見る。
「実に素晴らしい! しかし、悩ましい……! 俺はどちらかを選ぶ必要がある……! ユズか、サキか……! ユズっぱいか、サキっぱいか……!」
「サキっぱいはおろか、サキちゃんとも同じ部屋で眠れなくなるかもよー? 今日を逃すとね?」
そう言って、サキはEランクコーナーで槍を選び始めた。
槍の種類は豊富だが、彼女が見ているのは今使っているものと同じタイプだ。
「卑怯な……!」
「それで、どっちがいいかな? この槍と、この槍」
サキが二本の槍を選んだ。
形状は同じだが、刃の幅や槍の長さに微妙な違いがある。
また、どちらもデザイン性が高く、柄に洒落た模様が入っていた。
一方は柄が深紅で、もう一方は濃紺だ。
「赤い方にしよう!」
「その心は?」とサキがニッコリ。
「俺は大人っぽい赤色が好きだ!」
「リカの髪みたいな?」
「あれも素晴らしいな! お尻をペンペンしたくなる! とにかく、そういうことだ! その深紅の槍も雰囲気がいい! 二択で迷うなら、最後はデザインだろ!」
「あはは。吉岡くんらしい理由だね。じゃあ、そうする」
サキは「ありがとねー」とカウンターに向かった。
彼女がこれまで使っていた槍はFランクなので、定価は3,000ゴールド。
下取りは原則50%バックなので、半額の1,500ゴールドがサキの手元に戻ってくる。
「で、この槍はEランクだから8,000ゴールド……差し引くと6,500Gが必要だ」
「オッケー」
サキは軽い調子で支払いを済ませて、武器の新調を終えた。
その頃、ユズはというと――。
「決めたよ! 吉岡くん! これが吉岡くんの新しい武器!」
そう言って、とんでもないものを持ってきた。
なんとびっくり大鎌だ。
両手持ちでないと扱えない長い柄、草ではなく命を刈り取るための刃。
「こりゃあ、今後は令和の死神だな! まさか大太刀より派手な武器を選んでくるとはな!」
「普通の人なら使いこなせないだろうけど、吉岡くんなら大丈夫でしょ? だから、これにする!」
「はいよ!」
「え、本当にいいの?」
俺があっさり承諾したので、ユズが驚いた。
「当たり前だろ! ユズが選んでくれたんだから、迷わず買わせてもらうよ!」
その言葉に、ユズの顔がパッと明るくなった。
「うん! じゃあ、私は自分の槍を見てくる! 吉岡くん、武器を買ったらいっぱいイチャイチャしようね!」
「え? あ、そ、そうだな……」
ユズとサキのどちらにするか決めあぐねているせいで、返事の歯切れが悪くなる。
当然、ユズは見逃さなかった。
「もちろん、サキじゃなくて私を選んでくれるよね? 吉岡くんの大好きなユズっぱいと黒ニーハイが食い込んだ太ももがあるんだよ? ユズっぱい、捨てるの?」
「えっとぉ……」
上ずった声で返事を濁した後、俺は「とにかく武器購入だ!」とカウンターに向かった。
「サキを選んだら、二度とユズっぱいと太ももにお触りさせてあげないから!」
ユズの声が店内に響く。
他の客が何事かとユズを見る。
それが恥ずかしかったようで、ユズは顔を真っ赤にした。
サキにも聞こえていて、彼女は笑っていた。
「やあ、店主! 俺はこのクールな太刀を下取りに出し、カッコイイ大鎌を買うぜ!」
「下取りと購入だな。まいどあり」
店主が特に愛想を振りまくことなく手続きを進める。
50歳くらいの渋いおっさんだ。
---------------------------
【下取りログ】
装備:[F]雫石の大太刀
収入:1,500G
所持金:14,997G → 16,497G
---------------------------
先に下取りの処理が行われ――。
---------------------------
【支払ログ】
武器:[E]大鎌
支出:8,000G
所持金:16,497G → 8,497G
---------------------------
――次に武器の購入が完了した。
「おいおい、店主! 大鎌ってなんだ? そのまますぎないか? 前の武器には『雫石の大太刀』って名前があったし、この防具にだって『ブルファムレザーの軽装備』って名前があったろ?」
俺は新しい鎌を背中に担ぎながら不満をこぼした。
「名前が必要なら登録すりゃいい。金はかからんぞ」
「名前の登録なんてできるのか?」
「できる。武器や防具を売ってる店だったり、ギルドの受付だったりで可能だ。『雫石の大太刀』や『ブルファムレザーの軽装備』は、俺が登録した名前だ。気に入らなければ名前の変更もできる。その大鎌は入荷したてだから名前を決めていなかっただけだ」
「そういう仕組みなのか! なら、この大鎌の名前を登録してくれ!」
「はいよ。何にするんだ?」
「決まっている――登録名は『吉岡デスサイズ』だ!」
すぐ傍にいたサキが、「武器に自分の名前をつけるんだ」と笑った。
一方、店主は――。
「完了した。その武器は『吉岡デスサイズ』だ」
――淡々と作業を済ませた。
なお、登録名をどうやって変更したのかは不明だ。
俺の見たところ、店主はただ突っ立っていた。
おそらく念じていたのだろう。
この異世界・メビウスでは、大体のことは念力で解決できる。
「では、本当に完了したか確認させてもらおう!」
俺はステータスを確認した。
---------------------------
【名前】吉岡
【レベル】14 EXP:312/1,130
【所持金】8,497ゴールド
【ユニークスキル】オール・レジェンド(P)
【技能①】[F]スター・ストライク(レジェンド)
【技能②】[E]バースト・ステップ(レジェンド)
【技能③】未登録
【武器】[E]吉岡デスサイズ(レジェンド)
【防具】[F]ブルファムレザーの軽装備
---------------------------
サキが「どう?」と聞いてくる。
「素晴らしい! ちゃんと吉岡デスサイズになっている! ありがとう! これで愛着が持てる!」
俺が大興奮で言うと、店主は「自分の仕事をしただけだ」と言いつつ、口元を緩めた。
◇
その後、1時間ほど悩んだ末にユズも武器の新調を済ませた。
これまでの素槍とは違い、新たな武器は斧槍だ。
カッコイイ呼び方をすれば「ハルバード」である。
「これでユズ隊員にも『斬る』攻撃が加わったよ! 少し重いけど、前よりカッコイイしお気に入り!」
「ユズは小さいから、武器を振り回すっていうより武器に振り回されそう」とサキが笑う。
「そこを使いこなしてこそのユズ隊員だから! 明日はサキ隊で活躍するよ!」
「期待してるよー」
俺たちは三人で並んで夜の街を歩いていた。
右を見ればユズの胸の谷間、左を見ればサキの横顔が目につく。
「それで吉岡くん、私とユズのどっちにするか決めた?」
サキがニヤニヤしながら俺を見る。
「どっちを選ばれても恨みっこなしだからね、サキ!」
ユズが勝ち誇ったように笑う。
「私たちはそれでいいけど、吉岡くんは大変だよね。ユズはユズっぱいと太もものお触り権をちらつかせてるでしょ? 私も今日選ばれなかったら一緒に寝てあげないって言ったんだよねー」
「え! そうなの!? 私より重いじゃん! ずるい! じゃあ、私も選ばれなかったら吉岡くんとはもう一緒に寝てあげないことにする!」
ユズが頬を膨らませながら条件を追加した。
「二人とも、俺を困らせるな……! 吉岡ハーレムランドに欠員は許されないんだ! リカ、カホ、ミオ、スミレ、ユズ、サキ、アヤ、ナナ、そしてエリナ……全員揃ってこそのハーレムランドだ! なお、今のは学年順に呼んだのであって、他意はないものとする! エリナは例外だ!」
「でも、私のほうがサキより早く名前を呼ばれた! 同じ学年なら私のほうが上ってことだよね!」
ユズが嬉しそうに声を弾ませる。
「で、どうするの? 吉岡くん。頑張って引き延ばしても解決しないよ? 私にする? それともユズにする?」
サキが足を止めて俺を見る。
「もちろん私だよね! サキじゃなくて、ユズ!」
ユズも足を止めた。
「よかろう……! ならば、もう逃げない……!」
俺は二人の顔を見て、答えを出した。




