067 転移7日目の編成
「一緒に相良隊で、ですか?」
ナナが驚いたように目をパチパチしている。
「はい。僕は白瀬さんと同じ隊がいいです。相良先輩の隊は安心して戦えます。だから、一緒に相良隊に入ってほしいです」
三船にしては思い切った誘い方だ。
しかし、ナナは困ったように首をかしげた。
「私と三船くんのユニークスキルは、どちらも索敵系ですよね。同じ隊だと、役割が被りませんか?」
「それは、その……」
「自画自賛する形になるのですが、索敵系のユニークスキルはどのPTでも重宝されると思います。なので、別々の隊のほうがいい気がします」
残酷なまでに正しい意見だった。
誰も口を挟まないが、少なくとも何人かは頷いている。
「えっと、じゃあ、やっぱり今の話はなかったということで……」
三船が引き下がろうとする。
(なんてチキン野郎だ! 見てられん!)
もどかしさを覚えた俺は、テーブルの下で三船のすねを蹴った。
「あひぃん!?」
三船が飛び跳ねる。
「三船くん!?」
ナナが驚く。
サキは「急に何!?」と吹き出した。
「いや、今……」
三船は俺と目が合った瞬間、言葉を止めた。
俺が目で、いや、ジェスチャーで「もっと攻めろ」とアピールしているからだ。
ナナは気づいていないが、過半数がそれに気づいていた。
この状況なので誰も口には出さないが、口元には笑みが浮かんでいる。
相良も苦笑していた。
「白瀬さん!」
「は、はい!」
「それでも僕は、白瀬さんと同じ隊がいいです!」
「そ、そこまで言われるなら……わかりました。相良先輩、よろしいでしょうか?」
ナナが承諾し、相良に判断を仰ぐ。
「わかった。念のため言っておくが、今回の編成は恒久的なものではない。明後日以降も同じ編成とは限らない」
「はい、わかっています!」
そうナナが即答する一方、三船は「そんな……」と勝手に絶望していた。
「他には誰もいないな? では、残りはフリーとする。次は二人の隊長を決めよう」
相良が慣れた調子で進めていく。
俺は食事が終わったので――。
「ひゃっ!? 吉岡くん、いきなり!」
「手持ち無沙汰だし、ちょうどいいところにユズっぱいがあったからな!」
――ユズの肩を抱き寄せ、ユズっぱいを堪能しながら話を聞くことにした。
梶原は睨んできたが、反面教師の宮坂を一瞥して怒りを静めていた。
「隊長希望者はいるか?」
相良は俺の振る舞いなどおかまいなしに話を進める。
すると、三人が手を挙げた。
一人目は黒瀬だ。
四年生であり、意外性はない。
二人目はサキだ。
少し意外だったが、驚くほどではない。
本人は「そろそろ隊長をしてみたいと思ったんだよねー」と軽い調子だ。
だが、三人目は意外だった。
「おいおい、何の冗談だよ」
最初に反応したのは霧島だ。
次に俺が「おい、マジかよ!」と大声で言った。
「まさか君が立候補するなんて正気か!? ユウゴ!」
そう、三年の戸塚である。
安全志向の温厚な男で、隊長を希望するタイプではない。
俺や霧島だけでなく、誰もが驚いていた。
「吉岡、俺は正気だ。隊長って柄じゃないのはわかってる」
戸塚は力強い口調で言った。
「隊長候補が他に二人いるなら、俺は取り下げる」
黒瀬が手を下ろした。
それを見た宮坂が、すかさず鼻で笑った。
「取り下げないと人気がないってバレるもんな」
「そういう理由ではない。他に希望者がいないなら、上級生として隊長をするつもりだっただけだ」
「周りのことを考えてるってツラすんじゃねぇよ」
宮坂が煽るものの、黒瀬は無視して話を打ち切った。
「隊長は決まった。次は誰がどの隊に所属するかの選択だ。俺、戸塚、サキがそれぞれ隊の方針や募集条件などを言い、それを聞いて各々判断することにしよう」
相良が確認するように佐伯を見る。
すかさず佐伯が「賛成です」と頷いた。
カホも「異議なし」と続く。
「では、俺……相良隊の方針からだ。人数の希望はない。戦い方はメンバーを見て決めるが、ナナと三船がいる以上、奇襲を心配しなくていいから積極的に攻めたい。ただ、階層の選択で無理をする気はないし、ダンジョンへ行く前に戦い方を詰めておきたい。要するに今までどおりだ」
相良が淡々と言った。
それから「次は戸塚、頼めるか」と戸塚に振る。
戸塚は「わかった」と頷き、皆の顔を見ながら話し始めた。
「俺の隊は、簡単に言えば霧島隊とは真逆だ」
霧島が「はあ!?」と声を上げる。
戸塚はそれを一瞥すると、何も言わずに続きを話した。
「これは吉岡隊や霧島隊を批判するわけじゃないが、今の【アンチテーゼ】は、吉岡隊と霧島隊に引っ張られている気がする。もっとゆっくり進めていいはず……というか、そういう隊があってもいいし、あるべきだとも思う。だから、俺は立候補した。狩場で走ることはない。全8にもこだわらない。俺の方針に従える人なら、人数の希望はない」
「……いいと思う」
ミオが戸塚を見る。
戸塚もミオの目を見て、「ありがとう」と頷いた。
「要するにぬりぃ環境でやりたい奴向けってことだろ」
霧島は腕を組み、「ふん」と鼻で笑った。
「俺たちのユウゴが急に立候補したから驚いたが、まさかそういう理由だったとはなー! いいじゃん! 霧島とかいう効率至上主義の狂った奴と、オールレジェンドの最強ハーレムキングに合わせようとするほうがどうかしている! 俺は賛成だぜ、戸塚!」
俺が言うと、戸塚は「ありがとう」と苦笑した。
ミオの時と同じセリフだが、表情や声のトーンが全く違う。
「じゃあ、最後は私ね!」
サキが手を挙げながら立ち上がった。
「私の隊は霧島隊に近い感じ! ガチガチの効率重視! 明日は第1を走るよー! 人数は3人か4人が理想かな! ちなみに、ユズはサキ隊で決定だからね」
「え! ユズ隊員、サキ隊で決定なの!? でもいいよ! サキと一緒なら楽しめそうだし!」
ユズはあっさり承諾した。
「方針の説明は終わったな。では、それぞれ希望する隊を教えてくれ。早川については、あとで治療所に行って――」
「いや、早川と私はサキ隊で。早川なら絶対にそう言うよ」
アヤが相良の言葉を遮った。
珍しく真顔だ。
相良は何秒か黙ったままアヤを見つめる。
それから、「わかった」と頷いた。
「先着順ではないが、アヤと早川はサキ隊でいいだろう。あとは俺の隊と戸塚隊だけだ」
その後は一人ずつ希望する隊を言っていった。
特に問題なく話は進み――。
「これで明日の編成が確定したな」
――全員の配属が決まった。
最終的な組み合わせは以下の通りだ。
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【転移7日目の編成】
・吉岡隊:吉岡、スミレ
・霧島隊:霧島、梶原、宮坂
・相良隊:相良、リカ、黒瀬、三船、ナナ
・サキ隊:サキ、早川、アヤ、ユズ
・戸塚隊:戸塚、ミオ、佐伯、カホ
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「戸塚隊、完全に安全重視ね」とリカが笑う。
「……ゆっくり歩くのも大事」
ミオが呟くと、戸塚は誇らしげに頷いた。
「好きにすればいい。だが、レベル差は開く。それに安全って言えば聞こえはいいが、日本に帰りたいならリスクを取る必要がある。今のうちに経験を積んでおかなかったら、あとあと苦労するだけだ。現実逃避と変わんねえよ」
霧島が苛立った口調で言う。
「そうかもしれない。それでも、リスクの取り方は人それぞれだ」
「くだらねえ。後悔しても俺は知らないからな」
「後悔したくないから隊長に立候補したんだ」
「……チッ」
霧島はもう一度「くだらねえ」と呟いた。
「霧島、他の隊のことなんかどうでもいいだろ。それよりこのあと、Eランクの武器を買いに行くぞ。梶原、お前もだ。武器を更新すればランク差補正で効率が上がる。明日は第1を10周するからな」
宮坂が言った。
その目は、なぜか霧島ではなくスミレに向いている。
「だから10周は無理だつってんだろ。ていうか、なんでお前が決めてるんだよ。隊長は俺だ」
「お前が隊長のくせに戸塚さんに突っかかってるから言ったんだろ。こっちはスミレがかかってるんだよ。やる気がないならお前を切って梶原と二人で行く」
「勝手に俺と二人で活動する話をすんのやめてくれない?」
「宮坂くん、私は景品ではありませんよ」
梶原とスミレが苦笑する。
「なんなんだよ、こいつ。転移前よりこじらせてるじゃねえか」
霧島ですら宮坂には呆れていた。
「ユズ、私たちも武器を買おっか。宮坂の言うとおり、Eランクの武器にすればランク差補正で狩りが快適になるよ」
サキの言葉に、ユズが「賛成!」と手を挙げる。
それからユズは、長らくユズっぱいを堪能していた俺の手を掴んだ。
「吉岡くんも新しい武器を買いに行こう! 私が選んであげる! それから宿屋でイチャイチャ!」
「俺の手を掴んでいる時点で予想はついているが、念のため断った場合の展開を教えてもらえるかい?」
「もちろんユズっぱい一生禁止!」とユズがニヤリ。
「よし、武器を買いに行こう! Eランクに新調だ! ユズ隊員、君が選んでくれ! 太刀じゃなくてもいいぞ!」
「やったー! って、太刀じゃなくてもいいの!? 令和の佐々木小次郎、もうクビ!?」
「クビかどうかを決めるのは君だ!」
俺はユズと一緒に立ち上がった。
「相良、報告会はもう終わったよな!? 俺は今から武器屋に行く!」
「報告会は終わっている。解散でかまわない」
「では、出発だ! 行くぞ、ユズ隊員! サキ隊員もついてこい! スミレ、また明日会おう! 朝9時30分……いや、10時までにギルドの受付に集合だ! 朝食は済ませておくこと!」
「わかりました。楽しみにしていますね」
俺は太刀を担いで歩き出す。
霧島が「俺たちも行くぞ」と立ち上がり、宮坂と梶原もそれに続く。
「果たして、吉岡くんはサキとユズのどちらを宿屋に連れ込むか。ユズはその気みたいだけど、サキだって私の見たところかなりノリノリだよ。リカはどう思う?」
「難しいわね……」
去りゆく俺の背中に、アヤとリカの会話が届く。
もちろん、両隣を歩くユズとサキにも聞こえている。
(たしかにユズはその気だが、サキも捨てがたい……! どうする、俺!)
俺は武器屋へ向かいながら、今宵のことを思案した。




