066 まさかの解散
「とりあえずメシにしようぜ! 編成はそこで考えりゃいいだろう! 俺はもう腹ぺこだぜ!」
俺が言うと、相良は「そうだな」と頷いた。
他にも腹を鳴らしている者がいて、誰も異論を唱えなかった。
◇
俺たちが食堂に移動したのは17時30分頃だ。
いつもより早いということもあり、食堂は空いていた。
あと1時間もすれば混み始めるだろう。
「席は選び放題。しかし、ここでどう座るか、それによって各人の感情が――」
「吉岡くん、あそこに座ろっ!」
俺の言葉を遮り、ユズが真っ先に中央のテーブル席を取った。
当たり前のように俺の手首を掴み、俺を隣に座らせる。
「テーブルをくっつけていいそうだ。みんなでくっつけて座ろう」
相良がスタッフに確認したあと、近づいてきた。
俺とユズが座っている間に、他のメンバーが周囲のテーブルを移動させてくっつける。
そうして、横長のテーブル席が完成した。
「じゃあ、左隣は私が座るねー! 今日は私も吉岡隊だし!」
サキが俺の左側に座る。
「じゃ、じゃあ、私は正面です!」
ナナは勇気を出して、俺の向かいに座った。
「僕は……白瀬さんの隣がいいです!」
三船がナナの隣に座る。
そうやって徐々に席が埋まっていき、全員が着席した。
「先に注文を済ませよう。それから編成を決める」
相良は近くのスタッフを呼ぶと、俺たちに向かって確認した。
「シンプルセットで済ませる者は挙手を」
この一言で、その場にいる17名の過半数が手を挙げた。
手を挙げなかったのは俺、サキ、ユズ、ナナ、霧島の五人だけだ。
もちろん、俺たち5人はノーマルセットを注文した。
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【支払ログ】
食事:ノーマルセット
支出:700G
所持金:15,697G → 14,997G
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「梶原、ノーマルセットにしなくてよかったの? ユズの近くを取ったのに、そこは合わせないんだ?」
アヤが驚き半分、からかい半分といった調子で尋ねた。
「張り合ったら吉岡に上手いことやられるからな。宮坂を見て学んだ」
「そこでなんで俺が出るんだよ」
「一番の反面教師だろ。スミレをダシにどれだけからかわれてるんだ」
「スミレとユズを一緒にすんな。スミレはある種の洗脳状態にあるんだよ。俺は守ろうとしてるんだ」
梶原が「だめだこりゃ」と肩をすくめる。
「宮坂くん、私は洗脳されていませんよ?」
「安心しろ、スミレ。洗脳されている奴はみんなそう言う。俺が強くなれば解決する。もう少しの辛抱だ」
スミレを含めて大半が呆れて笑う。
黒瀬は何も言わず、霧島は「くだらねえ」と鼻で笑った。
「お待たせしました。ノーマルセットでカツ煮、容器チェンジのお客様――」
「俺だ」
霧島が即座に反応した。
彼のご飯だけ、他と違って丼に盛られている。
ただし、量は他と変わらない。
そのため、丼の半分以上がフリースペースになっていた。
「やっぱり男はカツ丼だろ」
霧島は迷うことなくカツ煮を丼に流し込む。
卵でとじられたトンカツとタマネギが、丼の中で白米に乗っかる。
実にうまそうなカツ丼ができあがった。
「吉岡、メシでも俺の勝ちだ」
霧島はこの上なくご機嫌な様子で、カツ丼を頬張っている。
「すごいな、霧島! 今日は本当に上機嫌じゃないか! 俺が何も言っていないのに、ペラペラと舌が回りまくってるぞ!」
「お前が少しは悔しそうにしたら、もっと上機嫌な姿を見せてやれるぞ」
霧島が口元を歪める。
そのセリフがすでに、彼の機嫌の良さを物語っていた。
「……こんなに喜ぶ霧島、初めて見る」
ミオも思わず笑う。
「まるで別人だな……」と戸塚も苦笑していた。
「さて、全員のメシが揃った。食べながら明日の編成を考えよう」
霧島から少し遅れて、他のメンバーも食事を始める。
俺も焼き肉を食べながら耳を傾けた。
刺身盛りと迷ったが、やっぱり戦いの後は肉である。
「隊を新設するにあたって、まずは動かせないメンバーを確定させよう。例えば吉岡くんとスミレがそうだ。明日は二人で狩りに行くのだろ?」
「おう! 第4を軽く流してから第5にいこうと思っている! 第5階層まではFランクだからな!」
念のため、「だよね? 佐伯さん!」と話を振る。
「はい、その認識で合っています」
佐伯は食事の手を止め、メガネをくいっと上げてから詳しく教えてくれた。
それによると、階層ごとの敵ランクは以下の通りだ。
・Fランク:第1階層~第5階層
・Eランク:第6階層~第10階層
・Dランク:第11階層~第15階層
・Cランク:第16階層~第20階層
・Bランク:第21階層~第25階層
・Aランク:第26階層~第29階層
・Sランク:第30階層
「だから、このあと武器をEランクに更新する予定だ。そうすれば、ランク補正で明日の戦闘がますます快適になる。第4と第5の二つを全8するという目標も、そう無茶ではないだろう!」
「なら俺たちも明日は――」
「ふざけたことを言うなよ、霧島。第1の周回だろ。武器を更新すれば効率を上げられる。攻略証明なんか後でいくらでもとれるだろ」
霧島が張り合おうとした瞬間、宮坂が食いついた。
「言い方はアレだけど、俺も宮坂に賛成だな。3人で稼ぐなら第1がいい。そういう戦い方もあるって証明したばかりだ。だから霧島さんも上機嫌なんでしょ?」
梶原が言うと、霧島は舌打ちして黙った。
つまり、明日も第1を周回する、という意味だ。
「話が逸れたから戻すが、この時点で吉岡くん、スミレ、霧島、宮坂、梶原は決まっている。俺も隊長をする予定だから決定済みだ。新しい隊に入れられないメンバーを先に確定させて、残ったメンツで隊を決めよう。リカも隊長ということでいいか?」
リカは少し悩んでから首を振った。
「いいえ、リカ隊は解散するわ」
これには誰もが「えっ」と驚いた。
霧島もカツ丼を食べる手を止めてリカを見る。
「今日のボス戦で思ったように戦えなかったのが影響しているのか?」
相良が心配そうに尋ねると、リカは「そうよ」と即答した。
「私のユニークスキル【紅蓮の審判】は嵌まれば強いわ。でも、今は第2階層のボスのような動けない敵にしか上手に運用できない。だから、色々な隊で戦って経験を積んでみたくなったのよ。ワガママなのは自覚しているわ」
「そうか……わかった。じゃあ、リカもフリーだ。吉岡隊と霧島隊を抜くと残っているのは俺の隊だけになるが、明日も俺の隊でなければ嫌という人は手を挙げてくれ。新しい隊に入れられないメンバーとして確定する」
相良が言うと、驚いたことに誰も手を挙げなかった。
だからといって、別に相良が嫌というわけではない。
新設される二つの隊を見て決めたいということだろう。
相良もこの展開を想定していたようで、特に残念がっていなかった。
そんな中、三船だけは手を挙げようか悩んでいた。
悩む理由は明らかにナナだ。
露骨なまでにナナをチラチラ見ている。
しかし、ナナは相良のほうに体を向け、真剣に話を聞いていた。
三船には背中を向けているため、その視線にも気づいていない。
「ナナ、三船が何か言いたそうに君を見ているぞ」
そう言いつつ、俺は「もらい!」とユズの皿から焼き肉を取る。
「あ! 吉岡くん! そんなことしたら天罰が下るよ! 天罰防止のために私ももーらい!」
ユズが俺の鉄板から焼き肉を取る。
佐伯は静かに「天罰ではなく神罰です」と訂正した。
「三船くん、どうかしましたか?」
ナナは俺とユズのやり取りを羨ましそうに見つつ、三船に尋ねた。
「あの、白瀬さん……! 明日、僕と一緒に相良隊で活動しませんか?」
三船が凄まじい緊張感を漂わせながら切り出す。
まるで愛の告白をしたかのようだ。
だからだろうか、誰もがナナの返答に注目していた。




