065 効率重視の霧島隊
「予定を変更したのか! すると第5全8か!?」
俺はユズとサキの肩から手を離し、テーブルに身を乗り出した。
霧島の誇らしげな顔を見ていると、こちらのテンションも上がってくる。
「いや、第1を4周した。もちろん全8だ」
「第1全8を4周!?」
「依頼報酬は最初の1回しか受け取れない。だが、経験値効率を重視した。宮坂の案だ」
霧島が言うと、宮坂は腕を組み「ふん」と鼻を鳴らした。
「俺たちの構成だと第2を攻略するのに時間がかかる。その点、第1は楽だ。走りながらでも攻略できる。第1と第2をそれぞれ全8するくらいなら、第1を4周するほうが効率がいい。それだけのことだ」
宮坂が雄弁に語る。
いつもよりも舌が回っていた。
その言葉に、俺たちやリカ隊から「おー」と声が上がる。
しかし――。
「それ、元々は相良が考えていた案だろ」
黒瀬が指摘した。
「ぷっ! 宮坂、あんた相良の案をパクったの?」とアヤがからかう。
その瞬間、宮坂の顔が赤くなる。
「うるせえ! たしかに相良隊の時に相良さんが発案したネタだけど、実行には移してないだろ。佐伯さんが色々と計算して、結局やめておこうってなった。だが、俺は実行に移したんだよ。そこが違う!」
「それなら堂々と『相良の案を俺が実行した』と言え。自分が閃いたかのように言うな」
「うるせえ! 黒瀬、黙ってろ! 俺が活躍したからって水を差すんじゃねぇよ!」
宮坂が吠える。
「くだらねえ言い合いはすんな。相良隊がどういう計算に基づいて実行に移さなかったのかは知らないが、宮坂の言うとおり俺たちは実行した。そして、大成功だ。金だって一人当たり8,000Gほど稼いでる」
「そんなに稼げているのか!? 依頼報酬1回分のわりにすげーな、おい!」
「念のために計算してみましょう」
佐伯がメガネをくいっと上げると、出所不明のペンと紙を取り出した。
それに驚異的な速度で書き込み、「できました」と再びメガネを上げる。
「こちらが、各隊の本日の獲得量になります。なお、霧島くんの発言に合わせて、一人当たりの数値で出しています」
佐伯が立ち上がり、紙をテーブルの真ん中に置く。
それを見るため、全員が立ち上がって紙に近づいた。
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【一人当たりの獲得量】
吉岡隊:2,288EXP、約10,000G
霧島隊:3,584EXP、約8,100G
相良隊:894EXP、約4,500G
リカ隊:894EXP、約4,500G
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「お金は吉岡隊、経験値は霧島隊の勝利ね」とリカ。
「俺の隊とリカ隊は第3にしか行っていない上に5人PTだから稼ぎが少ないな」
相良が呟いた。
「経験値の差をどう捉えるかだけど、ぶっちゃけ今日は俺らがMVPじゃね?」と梶原。
「うむ! 今日は競争していなかったはずだが、MVPは霧島隊でいいだろう!」
俺も素直に認めた。
霧島は「ふん」と鼻を鳴らしたが、その顔は嬉しそうだ。
昨日と違って誇らしげで、俺もにこやかな気分になれた。
「それにしても霧島、4周もしたならかなり走ったんじゃないか?」
俺が尋ねると、「まあな」と頷いた。
「ぶっちゃけ走るのはきつい。だが、どうってことねえ。慣れる」
「すげー根性だな! 俺には理解も真似もできないぜ!」
おそらく霧島隊は、ひたすら走っていたはずだ。
走る、休む、たまに戦う、また走る……その繰り返しである。
そこまでストイックになれるのは、素直にすごいと思った。
「せっかくの機会だ。全員の現状を整理しておきたい。レベルと経験値を確認しよう。佐伯、計算してもらえるか」
「わかりました」
佐伯は自身の背負い袋から手帳を取り出した。
謎のペンや紙と同じく出所不明の代物だ。
買ったとは思えないので、おそらくギルドでもらったのだろう。
その手帳に、佐伯は報告会の内容をまとめていた。
そして、それを参考にしながら紙にデータを書き出していく。
「計算が終わりました。皆さんの報告内容に誤りがなければ、理論上は次のとおりになります」
先ほどの紙の隣に、佐伯が新たな紙を置いた。
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【吉岡隊】
吉岡:Lv.14 312/1,130EXP
サキ:Lv.9 530/830EXP
ユズ:Lv.10 484/880EXP
【霧島隊】
霧島:Lv.10 664/880EXP
梶原:Lv.11 613/940EXP
宮坂:Lv.10 196/880EXP
【相良隊】
相良:Lv.6 591/690EXP
黒瀬:Lv.6 536/690EXP
佐伯:Lv.6 424/690EXP
戸塚:Lv.6 424/690EXP
三船:Lv.6 479/690EXP
【リカ隊】
リカ:Lv.6 475/690EXP
カホ:Lv.7 184/730EXP
ミオ:Lv.6 532/690EXP
アヤ:Lv.6 475/690EXP
ナナ:Lv.9 433/830EXP
【技能訓練】
スミレ:Lv.8 230/780EXP
【入院治療】
早川:Lv.7 536/730EXP
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口々に「合ってる」「正しい」という声が飛び出す。
「さすが佐伯さん! 相変わらず完璧だな! 俺も合ってるぜ!」
この場にいない早川を除き、全員の確認が終わる。
「言い忘れていたが、早川には借りた2,000Gを返し終わっている。第1を周回している途中に、休憩がてら治療所に寄ったんだ。梶原と宮坂も見ている。嘘じゃねえ。佐伯、全員の貸付もメモしているなら、返済済みにしておいてくれ」
「わかりました。霧島くんに対する早川くんの貸付は返済済みにしておきます」
「それより、霧島と宮坂のレベルが私より上になってるじゃん!」
サキが声を上げた。
「私も抜かれてしまいました……」とナナが肩を落とす。
「それでも、白瀬さんは僕よりずっとレベルが高いです」
三船が謎のフォローをする。
案の定、ナナも「あ、ありがとう?」と首をかしげていた。
「吉岡、これでお前とのレベル差は4だ。この調子で抜いてやるから首を洗って待ってろ」
俺は「おう!」と言いたかったが、皆が集まっているせいで誰の発言かわからなかった。
間違いなく霧島か宮坂のどちらかだが、どちらが言ったのかは五分五分だ。
「――これ以上、お前にスミレを穢されてたまるか」
あ、宮坂だ。
さっきの発言は宮坂で間違いない。
俺は確信した。
「わかったぜ! 宮坂! 楽しみにしている!」
そう言うと、俺はスミレの隣に移動し、彼女の肩を抱き寄せた。
さらに耳元で「追い風、頼むわ」と囁く。
「……っ!」
スミレは驚き、顔を赤くする。
それから、宮坂に見せつけるように、俺の頬にキスした。
「あー! 今日は私の番なのに!」
ユズが頬を膨らませる。
「私の番でもあるけどね」とサキが笑う。
「そう言われましても、私から求めたわけではありませんから……」
スミレは口に手を当て、お淑やかな笑みを浮かべた。
「吉岡ァアアアアア!!!!!!」
宮坂がぶち切れる。
顔が真っ赤になり、首筋に血管が浮かぶ。
そんな彼を見て、俺は「はっはっは」と笑った。
「早くしないと、明日も明後日も、さらにその後も……スミレとイチャイチャしちゃうぜ!」
「霧島! 明日は10周するぞ! 第1、10周だ!」
「さすがに10周は無理だ」
「チキン野郎がよ! なら俺と同じ中装備に変えろよ!」
宮坂が自分の防具を手で叩く。
「防具を中装備に変えても10周はきついって」と梶原が苦笑した。
「それより明日の編成を決めようぜ! 俺は明日、スミレとのラブラブPT復活だ! つまり、ユズとサキがパージされる! しかも早川が復活する! だが、宮坂は効率を重視しているからPTの人数を増やすことには反対するだろう! つまり、明日はどう転んでも、もう一つ隊を増やす必要がある!」
「吉岡に同意したくないが、間違っていない。ユズ、サキ、早川を入れたら6人PTになる。経験値効率がダダ下がりだ。攻略証明の取得に向かうならそれでもかまわないが、今は稼ぐターンだろ。なら、俺、霧島、梶原の3人で十分だ」
案の定、宮坂は人数を増やすことに難色を示した。
「そもそも私は霧島隊に戻る気はないけどね」とサキが冷たく言い放つ。
霧島は舌打ちしたあと、「わかってる」とだけ言った。
「吉岡くんの指摘は正しい。隊の新設が必要になる。明日の編成を決めないといけないな」
相良が真面目な顔で考え始めた。




