064 技能と相性
「……私のユニークスキル【サイレンス・ドーム】は、設置型。半径10mのドームを設置する」
「半径10m? かなり大きいな!」
ミオは「うん」と頷いた。
「……ドーム内は完全に無音。敵だけじゃなくて味方の声も消える。無音になるから、詠唱が無効化される。動物系の魔物なら、聴覚障害で混乱させられる。魔法も使えなくなる」
「第3階層のボス・雫石ゴーレムが水の装備を作れなかったのは、詠唱できなかったからか」
「……そう思う」
「補足しますと、ミオさんのユニークスキルは効果時間が5分で、クールタイムはスキルの発動時点から5分です。また、設置したドームは任意で解除できます」
佐伯がメガネをくいっと上げた。
「すると、任意で解除しなければ、効果が切れるたびにまたドームを張れるのか」
「……うん。でも、味方の声も消える。使い勝手は微妙だと思う」
「たしかに味方の声まで消えるのはつらそうだ。声が出せない時って、撤退判断はどうするの?」
この質問にはリカが答えた。
「ハンドサインと撤退条件の事前決定で対処したわ。今回は『カホのゴーレムがやられる』というのが撤退条件の一つに含まれていて、それに該当したから撤退を決めたの。一応、ハンドサインで宣言もしたけど、しなくても伝わっていたと思うわ」
「なるほど、ハンドサインか……。カッコイイな!」
「でも、吉岡くんとミオのスキルは相性が悪そうだよね」
サキが俺の腕の中で言った。
それに対して、ユズが「わかる!」と笑った。
「吉岡くん、叫びまくりだからね! ミオのドームの中なら声が消えちゃう!」
「無闇に叫べば魔物が集まってくる。ミオのスキルで声を消したほうがいい」
黒瀬が言うと、皆が笑った。
「俺のかっこいい決めゼリフが無音になるのはきついが、ミオのスキル自体は面白いよなー! 詠唱の無効化は正直よくわからないけど、動物系の魔物が聴覚障害で混乱するのはいいと思う! 通用する魔物、結構いるんじゃない? 魔物の大半が動物っぽいじゃん!」
「……全部の動物が混乱するわけじゃない」
「そうだけど、吉岡くんの着眼点はかなりいいわ。混乱とまではいかなくても、大半の魔物がミオのドームに入ると動きが鈍るもの。通常種や危険個体と戦っている時に恩恵を感じることが多いわよ」
リカが言うと、ミオは「なら、よかった」と口元を緩めた。
それを見て、戸塚も嬉しそうにする。
「これで私たちの報告も終わり。次は吉岡くんの報告を聞かせてもらえるかしら?」
「いいぜ! じゃあ、今日の報告担当は――」
「はい! 私! 私がする!」
ユズが右手を挙げて立ち上がった。
「私はユズでいいよー」
サキが俺に体を預けたまま言う。
「ではユズ隊員、今日の戦果を報告したまえ!」
「やったー! スミレ、ざまあみろ!」
「えっと……何がでしょうか……?」
スミレが困ったように笑い、首をかしげる。
「そう言われたら困るんだけど、今日は私の勝ち!」
ユズが勝ち誇ったように腕を組む。
妙に嬉しそうだ。
「はい、ユズさんの勝ちです。今日は、ですけど」
「その余裕! もっと悔しそうにしてよ!」
「おーい、ユズー、報告報告ー」
サキが軽い調子で言うと、ユズは「そうだった!」と報告を始めた。
「今日の吉岡隊は第2と第4を全8! 吉岡くんはこれまでの反省を生かし、後衛だった! つまり、私とサキの二枚看板で前を担当した!」
「吉岡くんが後衛なのか」と相良が驚く。
「あと、吉岡くんは新しく覚えた〈バースト・ステップ〉で色々頑張ってた! 突っ込んで敵を攻撃したり、攻撃後の離脱に使ったり! あとあと、相変わらず吉岡くんは強かった! 特に問題なく大勝利! 報告終わり!」
ユズは席に座り、俺にもたれてくる。
それから俺の手を掴み、自分の肩に回させた。
俺がそのまま彼女の肩を抱き寄せると、満足そうな笑みを浮かべた。
「では、このレジェンド吉岡が〈バースト・ステップ〉の効果について補足しましょう! 皆さんは知らないだろうからな!」
そう言って、俺は〈バースト・ステップ〉の効果を説明しておいた。
「なるほど、一瞬で距離を詰められるのか。習熟度がビギナーやノーマルでも、一瞬で1mを詰められるのは大きいな。俺の戦い方とも相性がよさそうだ。もう少しお金が貯まったら購入を検討するか」
食いついたのは相良だ。
「ビギナーの時点で後ろに移動できていたら、緊急回避用に私も購入を検討していたわ」
そう言ったのはリカだ。
彼女は、女性でも片手で振り回せる細剣を使っている。
たしかに、緊急回避用のスキルとは相性がよさそうだ。
なお、ミオも同じタイプの細剣を装備している。
そのため、彼女も「わかる」と頷いていた。
「これで吉岡隊の報告は終了! 次はスミレだ! 技能は習得できたかい?」
「はい、無事に習得しました。本当は明日、実戦の場で披露しようと思ったのですが、せっかくなのでお見せしてもよろしいでしょうか?」
「周囲に損害を与えないものならかまわない」
相良が答えると、スミレは「わかりました」と立ち上がった。
それから小盾を俺に向けて、笑みを浮かべる。
「見ていてくださいね、吉岡さん――〈ホーリーシールド〉」
スミレが戦技の名を口にした瞬間、彼女の腕に装着されている小盾が光った。
その光が大きくなり、一般的な盾の形になる。
「これが私の覚えたFランク戦技〈ホーリーシールド〉です。盾に光の力を付与し、一時的に防御範囲を拡大します。盾を持っていないと発動できません」
「いい感じじゃないか! 習熟度はビギナーだよな? 戦技の持続時間とクールタイムは!?」
俺が尋ねると、スミレは「いえ」と首を振った。
「習熟度はノーマルです」
この発言に場がどよめく。
「確認ですが、スミレさんが訓練を始めたのは今日で合っていますか?」
佐伯が尋ねると、スミレは「はい」と頷いた。
「それでノーマル!? スミレ、どんなイカサマを使ったんだ!?」
「イカサマは使っていませんよ、吉岡さん。正確には、訓練開始から約2時間で習得が完了し、ビギナーになりました。そのあと、追加で3時間ほど訓練をしたらノーマルになりました」
「冊子の目安時間と全然違うじゃん!」とユズ。
「スミレと〈ホーリーシールド〉の相性が良かったんだろうな! 俺のエリにゃんも、相性次第では習得が早まることもあると言っていた!」
「まだ一例しかないから何とも言えないが、少なくとも相性が良ければ目安より大幅に早く習得でき、ノーマルまで上達できることがわかった。これは今後、技能を習得するうえで参考になるな」
相良が話をまとめた。
「……で、スミレ、その戦技の持続時間とクールタイムは!?」
「持続時間は2分で、クールタイムは終了時点から3分です。ビギナーの時はクールタイムが5分でした。あと、戦技は任意で解除可能です」
「2分あれば、ボス戦以外の戦闘中に効果が切れる心配もなさそうだな!」
「そうですね。まずは通常種との戦闘でも前に出られるようになりたいです」
スミレが嬉しそうに話す。
そこへ、霧島隊が帰ってきた。
霧島、宮坂、梶原の三人で、怪我人はいない。
「その光っている盾……スミレ、技能を習得したのか。魔法か?」
宮坂が真っ先に反応した。
「いえ、魔法ではなく戦技です。少しでも前に出て戦えればと思い、この戦技を選びました」
「スミレが前に……」
宮坂は複雑な表情をする。
「女心に疎い俺でもわかる。そこは『おめでとう』だ」
そう言って、霧島が俺の向かいに座る。
相変わらずぶっきらぼうだが、どことなく誇らしげだ。
梶原も自信に満ちた顔をしているし、良い結果だったのだろう。
「……おめでとう、スミレ」
「ありがとうございます」
スミレは〈ホーリーシールド〉を解除して席に着いた。
宮坂と梶原も、それぞれ霧島の隣に座る。
「霧島、よく戻ったな。先に報告を進めていた」
相良が言うと、霧島は「問題ねえ」と答えた。
「他の隊の結果だけ簡単に教えてもらえるか? 後ででもいい」
「いや、先に言おう。俺の隊とリカ隊が第3全8、無傷攻略。吉岡隊は第4・第2を全8。スミレはFランクの戦技〈ホーリーシールド〉を習得した。相性が良かったようで、約5時間の訓練で習熟度がノーマルになっている」
「約5時間でノーマル? 本当なのか?」
霧島が食いつき、スミレを見る。
「おい霧島、スミレを睨むな」
なぜか宮坂が怒る。
「はい、本当です。相性が良い場合、冊子の目安時間より大幅に短い時間で習得できるようです」
「なるほど。参考になった。じゃあ、俺たちの報告だ」
「霧島隊は第1と第2で金策だったっけ? 昨日、晩メシの時にそう言っていたよな!」
俺が言うと、霧島は待っていましたとばかりに口元を歪めた。
「ああ、たしかにそう言った。だが、今日の結果は違う。予定を変更した」




