059 新フォーメーション
「相良隊の面々が訓練所に行く中、自分だけ休むわけにはいかない……とか、そういうところだろう。相良は癖のあるメンバーを束ねる男だからな」
俺が笑いながら言うと、スミレも「ですね」と笑った。
「さて、ようわからん朝食を堪能し、大量の水で口の中もすっきりした。今日の活動を始めるか!」
俺は太刀を担いで立ち上がる。
それを見て、スミレも自分のコップを空にしてから立ち上がった。
「頑張って戦技を身につけてきますので、明日は楽しみにしていてくださいね」
「おうよ! ところで、スミレ、一ついいかい?」
店を出る直前で、俺は足を止めた。
「どうかされましたか?」
俺は「おう」と頷き、ニヤニヤしながらスミレを見る。
「ここでビュンビュン、追い風だ」
さらにスミレの袖を二回引く。
「こ、ここで、ですか……!」
スミレの顔が瞬く間に赤くなる。
「どうした? ほら、合図が飛びまくってるぞ?」
さらにスミレの袖を二回引く。
「本当に……悪い方ですね、吉岡さんは……」
そう言いつつ、スミレは俺の首に両腕を絡め、情熱的なキスをしてきた。
真っ赤な顔で舌を絡める彼女の姿に、周囲の客がヒューヒューと盛り上がる。
中には「俺たちも負けてられねぇな」などと言ってイチャつき始めるカップルもいた。
「あー、スミレの唇うんめぇや」
「吉岡さん、言い方……!」
スミレが恥ずかしそうに俯く。
「はっはっは! これで今日も頑張れるわ! また報告会の場で会おう!」
「はい、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
店を出ると、スミレと別れてギルドに向かった。
◇
ギルドに着いたのは10時頃だ。
「遅い! 遅いよ、吉岡くん!」
中に入るなり、ユズに怒られた。
彼女は腕を組み、頬をパンパンに膨らませている。
大きな胸と黒ニーハイが食い込む太ももは今日も完璧だ。
「吉岡くんがスロースターターなの忘れてたよ。霧島隊は他よりも朝が早かったからギャップがやばい」
サキも茶色のポニーテールをゆさゆさと揺らしてやる気十分だ。
「では、金策に行くとしよう! 二人のレベルを教えてもらえるかな!? まずはユズ隊員から!」
「ユズ隊員はレベル7であります!」とユズが敬礼する。
「サキちゃんは6だよーん。でも、もうすぐ7になるかな!」
「よし、ならば第4階層に行こう! 昨日の反省を生かし、俺は後ろから魔法で援護する!」
「吉岡くんが後衛なの!?」
「霧島と同じくらい前に出たがるタイプなのに意外だね?」
ユズとサキが目を丸くする。
「もちろん前にも出るぞ! だが、基本は後衛だ! 二人の戦闘をスタストで支援する! 俺が前に出るのはここぞという場面だけだ! 俺が後ろを守ってやるから好きなだけ前で暴れろ!」
「じゃあ、今日は私とサキがダブル前衛だね! 霧島隊だと霧島先輩のサポートがメインだったから、新しい役割だ!」
「いいじゃん。私、前に出て戦うほうが性に合ってるし!」
二人の反応は上々だ。
「では、今日は第4階層と第2階層をこのフォーメーションで攻略するとしよう! まずは第2階層で試して、それから第4階層に行くぞ!」
「「了解!」」
俺たちは適当な列に並んだ。
エリナが不在だったので、人の少ない列を選ぶ。
「吉岡くんの新しい戦技のことはユズに聞いたよ。昨日撤退したことも踏まえて、どういう答えを出してくるのか気になってたんだけど、まさか吉岡くんが後衛になるとはねー」
サキが周囲を見回しながら言う。
「俺がいかに最強無敵の吉岡であるとはいえ、所詮は人間だからな。後ろに目はついていないから、背後の仲間の動きは把握できない。なら、自分が後ろに行くことにしたわけだ! もちろん、これはこれでリスクがある!」
「前衛のほうが敵に襲われる危険があるもんね」
「そういうことだ! しかし、少なくとも俺が突っ込んで陣形が縦に伸びすぎる問題はなくなる! 今まで合わせてもらっていた俺だが、今後は俺が仲間に合わせるわけだ!」
「じゃあ、明日以降も後衛とは限らないわけだね」
俺は「だな!」と頷いた。
「今回はメンバーがサキとユズの二人だから後衛に回っているが、明日はスミレとデートだ。その場合でも俺が後衛だと、スミレが一人で前を歩くことになる。これはリスクが高すぎる。だから、明日は俺が前衛か、もしくは並んで歩くだろう!」
話していると、俺たちの出番がやってきた。
可愛らしい見た目の受付嬢が相手だが、エリナに夢中の俺は口説かない。
「PT申請を頼む。この三人だ。あと、第2と第4の討伐依頼も」
手短に用件を伝える。
受付嬢も「かしこまりました」と事務的に応じた。
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【第2階層】
・[通常] Lv.3 白樹モス:6体(200G)
・[通常] Lv.4 枝走モンキー:5体(230G)
・[通常] Lv.5 樹皮ゴブリン:4体(250G)
・[通常] Lv.6 風鳴キツネ:4体(270G)
・[通常] Lv.7 苔甲ビートル:3体(290G)
・[危険] Lv.7 白樹マンティス:1体(340G)
・[危険] Lv.8 白樹アラクネ:1体(450G)
・[ボス] Lv.9 白樹トレント:1体(790G)
【第4階層】
・[通常] Lv.8 麦穂マウス:6体(260G)
・[通常] Lv.9 風切りホーク:5体(290G)
・[通常] Lv.10 丘ゴブリン:4体(320G)
・[通常] Lv.11 跳ね角シープ:4体(350G)
・[通常] Lv.12 風草スライム:3体(380G)
・[危険] Lv.12 鎌羽グリフォン:1体(430G)
・[危険] Lv.13 暴風ワイバーン:1体(580G)
・[ボス] Lv.14 風車オーガ:1体(1,010G)
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問題なく討伐依頼の受注が完了する。
「ユズ隊員、間違うなよ! まずは第2階層だからな! 一人だけ第4階層へ行かないように!」
ポータルに向かいながら話す。
「行かないよ! でも、言われなかったら間違ってたかも……!」
俺とサキが笑う。
そして、俺たち3人はポータルから第2階層へ転移した。
◇
第2階層〈白樹の林道〉は、もはや見飽きた場所だ。
敵の動きも頭に入っている。
「サキ、ユズ、敵を見落とすなよー! あとスキルの制限はしない! 自分のタイミングで申告して使うといい!」
「了解! じゃあ、爆弾いっぱい作っちゃうもんね!」
ユズがさっそく【ボム・フルーツ】を発動して黄色の果実爆弾を作る。
「ユズ、吉岡くんにいいところを見せようとして突っ込みすぎないようにねー」
「サキだって同じでしょ! ちゃんと私に合わせてね! これ、ちゃんと持ってて!」
ユズは手に持っていた爆弾をサキに渡すと、自分用に新しい爆弾を生成した。
「私が合わせる側なんだ? でも、いいよー! サキ隊員は器用だからね。任せてちょ」
二人が楽しそうに前進する。
喋っているが、その目はしっかり周囲を警戒していた。
「なかなかいいじゃないか……」
俺は二人の後ろ姿を眺めながら呟く。
「吉岡くん、後衛が思ったよりも合ってる感じ?」とサキが前を見たまま言う。
「いや、それは何とも言えない。俺が評価したのはお尻だ。二人のスカート越しにぷりぷりと揺れるお尻が素晴らしい! 今まで胸と太ももばかり見ていたが、尻の揺らぎというのもそそられるものだな!」
「見ているところ、そこ!?」
ユズが顔を赤くしながら振り向く。
その瞬間、サキが槍でユズを制止した。
「ユズ、あの木、ゴブリンが擬態してるよ」
「え? ……あ、本当だ!」
ユズは慌てて前を向き、サキが槍で示した木を見た。
たしかに、その木には樹皮ゴブリンが張り付いていた。
しっかり見なければわからない擬態だ。
「あそこにゴブリンがいるってことは、他の木にもいそうだね」
一気にサキが戦闘モードに突入する。
ユズも表情を引き締めて周囲を見回す。
「いたよ! あの木!」
「こっちも発見。あそこと、あそこ」
二人が素早く報告する。
霧島隊で主力だっただけあって、どちらも手慣れていた。
「吉岡くん、戦っていい? 私の幻影を真っ直ぐ走らせて、ゴブリンの他にも敵がいたら釣る。ゴブリンはこっちが背中を見せるまで反応しないから、そのまま無傷で突き殺す」
サキが判断を仰いでくる。
「いいぜ! 二人に任せよう! 俺は初めての後衛だからな! 手探りでやっていくさ!」
「了解。ユズ、やるよ」
「うん! 吉岡くん、ユズ隊員の成長っぷりを見ていてね!」
サキとユズがそれぞれゴブリンに近づき、背中を刺していく。
同時に、サキはユニークスキル【ミラージュ・ドレス】で3体の幻影を前方に走らせた。
「キィ!」
サキの幻影に反応して、複数の魔物が姿を現す。
茂みに隠れていた風鳴キツネ4体が襲いかかり、白樹モス6体もそれに続く。
「モスとキツネは俺に任せておけ!」
俺はまず〈スター・ストライク〉を連射してモスを蹴散らした。
そして――。
「うおおおおおおおおおおおおおおお! せいやああああああああああああ!!!!!!!」
駆け寄って大太刀を横に払い、草むらもろともキツネをまとめて切り裂く。
さらに――。
「ここで新技! 〈バースト・ステップ〉!」
覚えたての戦技を発動し、ユズとサキの後方に一瞬で戻る。
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【戦闘結果ログ】
討伐:白樹モス×6 / 樹皮ゴブリン×4 /
風鳴キツネ×4
PT:3人 人数補正:80%
獲得:352G / 288EXP
所持金:6,365G → 6,717G
レベル:Lv.12
経験値:84 → 372/1,000EXP
依頼進捗:白樹モス討伐 6/6・達成
依頼進捗:樹皮ゴブリン討伐 4/4・達成
依頼進捗:風鳴キツネ討伐 4/4・達成
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その瞬間、ログが表示された。
「どうだ! これが新たな戦術! 吉岡式ヒットアンドアウェイだ!」
俺は誇らしげに二人を見る。
一方、俺の新たな戦い方を見た二人の反応はというと――。




