056 三人で教本店
「策ってほどのことじゃないわ。ただ、相手が動けるとしても、半径1メートルの円環から出さなければ問題ない。カホのロープ戦術、アヤのユニークスキル……色々な手で敵を円環に閉じ込めるだけよ」
「リカのユニークスキルをメインにする点は変わらないんだな!」
「今のところ、それが最も安全に倒せる方法だからね。安全に倒せるならそのほうがいいでしょ?」
「同感だ! 正々堂々? 真っ向勝負? そんなもんはクソと一緒に捨てちまえ! 安全第一! 勝てば官軍! 戦争とはそういうものだ! では諸君、メシにしよう! もうお腹ペコペコだ! 今すぐユズっぱいにかぶりつきたい!」
「ユズっぱいは食べ物じゃないよ! 吉岡くん!」
ユズが笑いながら両腕で胸を隠す。
梶原は面白くなさそうに舌打ちした。
「吉岡くんに賛成だ」
相良が立ち上がる。
「お! 相良もユズっぱいに目覚めたか!」
「相良先輩まで!? ユズっぱい、かぶりつくの禁止だよ!」
「賛成したのはそこじゃない。メシにするという部分だ。もう日が暮れている。他に報告することがあるとしても、それは食事をしながらでいい。大事な報告は終わった。食堂に行こう」
相良が真顔で話をまとめ、長い報告会が終わった。
◇
食堂では、スミレとユズが俺の隣に座った。
スミレが右隣、ユズが左隣という先ほどと同じポジションだ。
テーブルを挟んで向かいの席には、怖い顔の宮坂が座っている。
宮坂の監視という名目で、その隣には黒瀬も座っていた。
報告会ではユズの隣にいたサキだが、今は梶原と向かい合って座っている。
二人の席は、俺たちから少し離れたところにあった。
「お待たせしました。ノーマルセット五人前です」
俺たちのテーブルに、五人分のノーマルセットが並ぶ。
同じセットでも、メインの一品は違っていた。
俺とユズが焼き肉、スミレが焼き魚、宮坂が唐揚げ、黒瀬がチキン南蛮だ。
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【支払ログ】
食事:ノーマルセット
支出:700G
所持金:13,815G → 13,115G
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「宮坂、黒瀬、君たちにとっては初めてのノーマルセットだな! 豪華だろ!」
宮坂は唐揚げを一つ食べ、「悪くない」と頷いた。
「だが、価格はシンプルセットの倍もする。今の俺たちには身の丈に合わない贅沢だ」
黒瀬がチキン南蛮を食べながら言う。
味は気に入ったようで、口の端が少し緩んだ。
「なら頼まなければよかったろ」と宮坂。
「俺だけシンプルセットにしたら浮くだろ」
「そもそもなんでお前が俺の隣にいんだよ。相良さんのところに行けよ。相良隊だろ」
「それを言うならお前も霧島隊だろ」
宮坂と黒瀬が言い合いながらも食事を進める。
「俺たち以外はもれなくシンプルセットだな」
俺は鉄板の肉をライスにバウンドさせてから口に運ぶ。
それから白米もかき込む。
思わず「うめぇ!」と声を上げる程度には美味かった。
「吉岡、お前は無駄遣いのしすぎなんだよ。部屋は個室、メシはノーマルって、やる気ねぇのかよ」
霧島が離れた場所でシンプルセットを食べながら言う。
シンプルセットは白米、味噌汁、サラダだけで、小鉢とメインがない。
「いやいや、メシと睡眠は大事だぞ! 俺はこの世界に転移してから欠かさずユズかナナと一緒の部屋で過ごしてきたけど、そうすると次の日の目覚めが違うんだよね! 『今日もこの世界を楽しむかー!』って気分になる」
「わかります。個室宿は一般個室ですら高いですが、それでも朝はすごくテンションが上がります。好きなタイミングでお風呂に入れるのも嬉しいです」
ナナが話に加わった。
「吉岡くん、お風呂大好きだもんね! いつもお風呂に入りまくってバスタオルを交換しまくってるもん!」
ユズが「私だって知ってるから」と言いたげな顔でナナを見る。
ナナは少し怯むも、「負けませんから……!」と呟いた。
「白瀬さん……」
三船が泣きそうな顔をしている。
梶原は気にしていない振りをして、サキにそのことをいじられていた。
「くだらねえ。まあ、お前はそうやって楽しんでいればいい。その間に俺は上に行く。アンチテーゼで最初に第30階層を攻略するのは俺だ」
「頼もしくて結構だが、次はもうちょっと格好のつく戦果で頼むぜ! 俺は今日、煽られるのを心待ちにしていたというのに、君が間抜けにも早川を負傷させたせいで消化不良だからな!」
「うるせぇ。言われなくてもわかってる。――梶原、宮坂、明日は9時にギルドの受付スペースに集合だ。メシは各自で済ませておけよ」
霧島は一足先に食事を終えると、愛用のロングアックスを担いで去って行った。
「吉岡くん、今日の夜はスミレと過ごすの?」
ユズが幸せそうな顔で焼き肉を食べつつ尋ねてきた。
「スミレ次第だが、俺はそのつもりだぜ!」
というと、俺は「どうかな?」とスミレを見る。
さらに他にはバレないよう、こっそり彼女の袖を2回引く。
「――!」
スミレは俺の合図に気づいて驚き、頬を赤くする。
それから――。
「わかりました。私のほうも問題ありません」
といって、俺の頬にキスした。
「スミレ! 何しているんだ! 問題あるだろ! キスも問題! 宿泊も問題だ!」
宮坂がテーブルを叩く。
「よせ、宮坂。スミレが決めたことだ。お前が文句を言うのはおかしい」
「なんでお前はまだ冷静でいられるんだよ、黒瀬! 問題あるだろ! スミレが吉岡の頬にキスして、一緒の部屋に泊まるって言ったんだぞ!」
「わかっている。目の前で見ていた」
「だったら――」
「スミレの意思を尊重しろ。喚いても嫌われるだけだぞ」
「……くそっ」
宮坂は不満そうに唐揚げを頬張った。
「ということで、ユズ、俺はスミレと過ごすことに決まった! 嫉妬しまくってくれ!」
「嫉妬ならずっとしてる! でも、前みたいには泣かないよ!」
ユズが俺を見て「成長したの!」と笑う。
「成長といえるのか? 強がりではなく?」
「うん、成長! だって吉岡くん、おねだりしたらキスもハグもしてくれるでしょ? それに〈均等な愛作戦〉だっけ? 私はあれ、吉岡くんらしくて好きだよ! 前は私を霧島隊に送ってナナとイチャイチャしたから拗ねたんだけど、今はナナもリカ隊に飛ばされたもん!」
「ま、君が納得しているなら結構だ!」
そう言うと、俺はスミレの肩を抱き寄せた。
「ではスミレ、いっぱいイチャイチャしよう! その焼き魚、少し食べさせてくれ! 代わりに俺の肉も食べさせてあげよう! なんだったら口移しにする?」
「い、いえ、口移しは恥ずかしいのでダメです……。でも、食べさせるのは大丈夫です。私にもお肉を食べさせてくださいね。あと、熱いので気をつけてください」
スミレが焼き魚の身をほぐし、何度かふーふーしてから俺の口に運ぶ。
「スミレが吉岡に食べさせている……! それもふーふー付きだ……!」
宮坂が羨望と怨嗟の眼差しを俺に向ける。
「むぅ……」
黒瀬は唸ると、必死に目をそらしてチキン南蛮を食べ続けた。
◇
食事が終わり、その日はお開きになった。
相良隊の面々は防具屋に向かい、リカ隊は武器屋に向かう。
俺とスミレは教本店に来ていた。
いや、俺とスミレ以外に、もう一人いる。
ユズだ。
「なんでついてきたんだ? まさか君まで監視とか言い出すのか?」
「それも少しあるけど……私も教本に興味があったの! 私だって戦技や魔法を習得する可能性あるし!」
「たしかに。技能枠は一人三つまであるし、いずれは三つ習得したいよなあ」
俺たちは手分けして教本を見ていく。
しかし、その直後――。
「決めました」
スミレがあっさり決めた。
俺とユズが「早っ!」と口を揃える。
「最初から方向性を決めていましたので」
「そうだったのか」
「はい。吉岡さんと二人で第1・第2階層の敵と戦っている時に、私ももっと前に出て戦えるようになりたいと思いました。今回選んだのは、そのための技能になります。魔法を選ぶことになると思っていたのですが、戦技コーナーで見つかりました」
スミレが教本をカウンターに持っていく。
精算を済ませると、すぐに使用して仮習得状態になった。
「魔法っぽい戦技ってことか。どういう効果なんだ?」
「それは明後日のお楽しみです。でも、Fランクですので、あまり期待しないでくださいね」
スミレは微笑むと、俺の隣に移動し、静かに腕を組んできた。
それを見たユズがぷくーっと頬を膨らませる。
「すみません、ユズさん。ですが、今日は私の日ですので」
「わ、わかってるし!」
ユズはぷいっと顔を背けると、適当な教本を手に取った。
「吉岡さんも教本を買われるのですか?」
「その予定だ。ユニークスキルの性質上、Fランクでもいいからもう二つ技能を買っておきたい。できれば攻撃よりも戦闘補助系がいいな」
「戦闘補助系と言いますと……?」
「武器を使った戦闘を有利にするためのもの全般だ。動きを一瞬だけ速くするとか、そういう感じ。攻撃自体は武器と〈スター・ストライク〉で遠近両方に対応しているから、戦闘の質を高めたいわけだ」
「なるほど」
「それだったら、この戦技がいいんじゃない? ユズ隊員、いいの見つけたよ!」
ユズは一冊の教本を持ってこっちに来ると、「これ!」と言って俺に渡した。




