054 勝負の行方
サキが続きを話す。
「ただ、梶原と早川の二人でワイバーンを止め続けるのはきつかった。敵は空を飛んでいるし、梶原の武器は短い双剣でしょ? それに早川は背が低い。だから、次第に状況が悪くなっていったの。早川か梶原のどちらかが怪我をするのは時間の問題だった。でも、先に怪我をしたのは二人じゃなくて霧島。オーガの攻撃で吹き飛ばされた」
「今度は霧島か」と相良。
「俺の怪我は治療所で治った。明日には狩りに出られる。問題ねえよ」
霧島が言うと、サキが「どうでもいい」と冷たく言い放った。
「吹っ飛んだ霧島を見て、ユズが白色の果実爆弾を霧島とボスの間に投げた。たぶん、煙幕で霧島を守ろうとしたんだと思う」
ユズが「合ってる」と真剣な表情で頷いた。
「これでユズの爆弾も、梶原の風刃も使い切った。全員のユニークスキルがクールタイム中。しかも霧島は負傷している。明日に響かない程度の怪我とはいえ、パフォーマンスに影響が出るレベルではあった。だから、私が撤退を宣言した」
「妥当な判断ね」とリカ。
「でも、そのままだと敵が追いかけてくるでしょ? だから、まず霧島を下げることにした。負傷している上に重装備だから、霧島は足が遅いのよ。あと、受け持つ敵を変えた。ワイバーンは私が一人で押さえることにして、ボスは梶原、ユズ、早川の三人に頼んだ。私がそう指示して、霧島を含む全員が承諾した」
「いい判断だ。ただ逃げるだけでは、敵の追撃をかわしきれない」
黒瀬が静かに言った。
「重装備なうえに負傷している霧島を先に下げる判断も正しいと思う」
戸塚も続き、相良と佐伯も頷く。
「それで撤退戦に入ったんだけど、ワイバーンはその時に私が仕留めた。ボスの攻撃には、三人で耐えられていた。霧島が負傷する前にだいぶ削っていたし、私とユズもダメージを与えていたからね。ワイバーンを倒した時点で、ほとんど勝ったようなものだった」
「確認ですが、その時点では、早川くんはまだ無事ですよね?」
佐伯が言うと、サキは「うん、無事。完全に無傷」と即答した。
「ワイバーンを倒したことで私もボス戦に加われるでしょ? だから、あとは四人で削りきることも可能だった。梶原の風刃も何本か撃てる状態に戻っていたからね。ただ、梶原は攻撃よりも撤退の支援を優先し、風刃を撃たずにキープしていた。その判断は正しいと思う。ボスは風刃に頼らなくても倒せる程度に弱っていたから」
「なのに早川が怪我をしたの?」とアヤ。
「馬鹿らしいでしょ? 本来なら早川は怪我をせずに済んだ。それなのに大怪我をして死にかけたのは、間違いなく霧島のせい」
サキが霧島を睨むと、霧島は何も言わずに目をそらした。
「サキ、続きを聞かせてくれ。早川はどうして怪我をしたんだ?」
相良は霧島を一瞥した後、サキに尋ねた。
「あのアホ、撤退せずに戦闘に参加したの。『ワイバーンを倒したんなら、もう問題ない。このまま押し切る』とか言って」
「怪我をした状態で戦線に復帰したのか」
相良が驚いた様子で霧島を見る。
「おいおい、それは悪手だろ霧島! 負傷者が前に出張っても邪魔にしかならないぜ!」
俺が笑いながら言うと、サキが「そのとおり」と頷いた。
「怪我をした霧島は本当に邪魔でしかなかった。そのくせ敵の正面に立ちたがる。それで、そんな馬鹿をかばって早川がやられた。オーガは宮坂の武器みたいなハンマーを片手で振り回すんだけど、それが早川に直撃したの。霧島がのろのろして避けられないから、早川が霧島を突き飛ばして犠牲になった。ちなみに、霧島がその前に吹っ飛ばされた攻撃は、ハンマーによるものじゃないからね。武器を持っていない方の腕で弾かれただけ。ここまで言えばわかるでしょ? 早川が食らった一撃は、霧島が食らったものとは比較にならない」
場が静まりかえる。
「早川の容態はどうなの? 後遺症とか大丈夫?」とアヤ。
「後遺症の心配はありません。治療所に運び込まれた時点で、早川くんは無事だと考えて問題ないでしょう」
佐伯が答えた。
「念のために再確認だが、ボスは倒したんだよな?」
相良が言うと、霧島が「倒した」と頷いた。
それから、俯いて呟く。
「……早川の件は、わるいと思ってる。俺のせいだ」
「それだけじゃないでしょ。事前の取り決めは無視するし、何もかも滅茶苦茶だった。昨日は我慢してたけど、さすがに限界。私はもう、霧島とは組まないから」
サキは止まらなかった。
霧島は言い返さずに黙った。
「俺は……まだ霧島隊に残る。今日の霧島さんは本当に酷かったけど、反省して改善できるって信じてる。それで無理なら、俺も霧島隊を抜ける」
梶原が真剣な表情で言う。
その言葉に、霧島は少し救われたような顔をした。
「私もまだ残るかな。サキが抜けるなら、ユズ隊員が面倒を見てあげないといけないでしょ?」
ユズはなぜか俺を見て言った。
俺の腕に抱きつき、甘えるような顔で見てくる。
「別に無理しなくていいよ? 霧島隊は第4全8攻略で、我が吉岡隊は第4通常種のみだ。これにより争いの勝敗は決した。霧島隊とユズの勝利。よって、ユズが霧島隊に残る理由はなくなった!」
「そういえば、吉岡隊は通常種のみだったんだ! すっかり忘れてた! なんでそうなったの?」
「それ、私も気になってた。吉岡くんの大太刀が思ったより微妙だったとか?」
サキはテーブルに身を乗り出し、ユズの横から俺を見る。
怒りの炎は完全に消えていた。
「自戒の撤退ってやつだ!」
そう言うと、俺は今日の活動を説明した。
「第4で撤退したあとに第1と第2に行くのが吉岡くんらしいね」
サキが笑うと、ユズも「吉岡くん、ちゃっかり稼ぎすぎ!」と笑った。
「なんにせよ負けは負けだ! さあ霧島、好きなだけ煽るといい! そしてユズ、そのあとで君に報酬を支払おう! みんなの前で君が一番だと宣言して、キスをする! それからメビウスでデートして、日本に帰還したあとも最初にデートする! さらに親友枠を泣く泣くよしぽっぽからユズに変更! そして、もう一度『ユズが一番』と宣言する! ちゃんと覚えているぞ!」
俺が言うと、霧島は「ふん」と鼻を鳴らした。
「誰が煽るかよ。お前と一緒にすんな。だが、勝ちは勝ちだ」
「本当は煽りたかったけど、早川がやられたから煽れないだけでしょ」
アヤがトゲのある口調で言った。
図星だったようで、霧島は「うるせー」と目をそらす。
一方、ユズは「うーん」と考え込んでいる。
それから、顔をパッと明るくして言った。
「今日は引き分け! ノーカン!」
「ノーカン?」
「たしかに戦果では霧島隊の勝利だけど、内容を考えたら勝ったって言いにくいでしょ? そんな状態じゃ、『ユズ隊員の勝ち!』って勝ち誇れないもん。だから、今回は引き分け! ノーカン!」
そう言うと、ユズは俺の腕に抱きついたまま、ニィと笑い、さらに続けた。
「でも、無傷で帰ってきたご褒美はほしい! ここでハグして、キスして! これは勝利の報酬じゃなくて、頑張ったユズ隊員へのご褒美!」
「やれやれ、物は言い様だな! だが、よかろう! スミレ、すまないが俺は今からユズとハグしてキスする!」
「わかりました」とスミレが微笑む。
「ではユズ隊員――」
俺はユズと一緒に立ち上がると、頭を撫でてからハグした。
「――今日もよく頑張った! 無傷で帰還して、すごく立派だぞ!」
「えへへ、ありがとう、吉岡くん!」
「それに抱きしめるとわかる! 君の胸の弾力! 胸当てがあろうとわかる! たまらないな!」
「ちょっ、そこは言わなくていいから」とユズが言い、顔を赤くする。
その瞬間、俺はユズにキスした。
左手を彼女の背中に回し、右手で後頭部を押さえてのディープキスだ。
「早川じゃなくて俺が入院していたら、この光景は見ずに済んだのにな」
梶原が苦笑している。
「これでどうかな? ユズ隊員!」
「満足した!」
ユズは言葉どおり満足げな顔で座り直し、勝ち誇ったようにナナを見る。
「今日はユズ隊員の勝利だね!」
「あの、ユズ先輩……言いにくいのですが、今日の対戦相手は私じゃなくてスミレ先輩かと……」
ナナが苦笑しながら控えめに答える。
「え? スミレも吉岡くんといい感じなの?」
ユズが驚いたようにスミレを見る。
朝食の場にいなかったため、ユズは俺とスミレのキスを知らなかった。
「いい感じというほどのことではありませんよ。私はただ、吉岡隊の一員として活動しただけですから」
そう言うと、スミレは俺を見た。
「吉岡さんも座ったらいかがですか? 一人だけ立っていると目立ちますよ」
さらに、スミレは俺の袖を二回引く。
アクセルの合図だ。
「マジ?」
俺は思わずニヤける。
「はい、マジです。立っていると目立ちますから」
スミレは笑みを浮かべながら、改めて俺の袖を二回引いた。




