053 霧島隊の第4階層
アヤの問いに、霧島はばつの悪そうな顔で答えた。
「早川は……治療所で入院している。明日いっぱいまで入院で、明後日から復帰できる」
「過去に霧島くんが入院した際は、翌日の昼には退院していました。それよりも酷い状況ということでしょうか」
佐伯が表情を変えずに確認する。
「……そうだ。かなりやられた」
霧島が俺の向かいに座る。
梶原はその隣に座ったが、ユズとサキはこちら側に来た。
ユズが俺の左隣に座り、そのさらに左にサキが座る。
霧島隊の空気は、明らかに重かった。
「霧島、報告を頼めるか」
相良が言うと、霧島は「わかってる」と頷いた。
「先に言うと第4全8だ。敵の配置は、ホーク以外の通常種が先に来た。最初はマウスで、近くにゴブリンが伏せていた。問題なく突破した。ユズがユニークスキルで果実爆弾を作り、それを俺以外の4人が投げたあと、俺が残った敵を皆殺しにした」
霧島が最初から話す。
聞いている限り、敵の配置は俺たちと同じだったようだ。
「その後、シープとスライムの群れだ。サキのユニークスキルでかく乱しつつ、全員で倒した。ここも問題は起きていない。むしろ、今までで一番順調だったくらいだ」
第4階層のフィールドは、第1階層によく似ている。
第2階層や第3階層よりも動きやすそうに感じるのは当然だ。
霧島が順調に感じたのも頷けた。
「その後、ホークの群れやグリフォンと立て続けに戦った」
「吉岡隊と同じ展開だな」と相良が呟く。
「お前たちもそうだったのか」
そう言って俺を見る霧島だが、俺の返事を待たずに続きを話し始めた。
「ホークは梶原のユニークスキルで一掃した。だが、クールタイムが終わる前にグリフォンと戦うことになった。急いだわけじゃないぞ。相手から迫ってきたんだ」
「俺のときもグリフォンは少し遅れて登場したな」
ここで俺が反応した。
「配置自体は、吉岡隊とかなり似ていますね」と佐伯が頷く。
そのやり取りを見た後、霧島は報告を続けた。
「グリフォンは少し手こずったが、怪我をすることなく対処できた」
「少し手こずった? そんなレベルじゃなかったでしょ」
口を挟んだのはサキだ。
彼女は霧島を睨み、苛立った口調でまくし立てる。
「ホークを倒した時点で梶原の風刃は1本残ってた。それを大事に使う必要があった。梶原自身もそう言っていた。なのに霧島は、熱くなって無駄に消費させた。確実に通すべきだった1本を、『もうじき2本目のクールタイムが終わるだろ』とか言って撃たせた。結果的に怪我をしなかったのは、早川とユズと私がユニークスキルを使ったから」
「それでも怪我はしなかっただろ。問題ねえよ」
霧島が反論する。
それを聞いて、サキの顔がますます怖くなった。
だが――。
「サキ、まずは霧島に最後まで報告させてくれ。それから違う点や不満点などがあれば、まとめて指摘してもらいたい。すまないが、それでかまわないか?」
即座に相良が間に入ったことで、サキは「わかった」と矛を収めた。
普段とは全く違うぶち切れた目で霧島を睨み続けている。
「問題は次だ。全員のクールタイムが終わるまで待ったあと、ワイバーンを探した。だが見つからず、先にボスの風車オーガが見つかった」
「はい、嘘」
すかさずサキが口を挟む。
「サキ、嘘とは?」と相良。
「クールタイムが終わるまで待ったのは本当。でも、ワイバーンが見つからなかったってのは嘘。ワイバーンはいた。空を飛んでた。私が気づいて霧島に言った。梶原も見てる」
「あれがワイバーンだったってのは結果論だろ。ただの鳥だったかもしれねぇ。近くにいたわけじゃない。かなり離れていた。わかるかよ」
「霧島さん、さすがにその言い訳は無理がありますよ。たしかに離れていたけど、ワイバーンとただの鳥を間違えることはないって。あれはどう見ても魔物だった」
梶原が呆れたように言った。
霧島は「チッ」と舌打ちする。
「第4のワイバーンはかなり大きいし、そもそもシルエットが魔物そのものだった。遠くても見間違えるなんてありえない。吉岡くんとスミレならわかるでしょ?」
サキが俺に振る。
「おっしゃるとおり! ……って言いたいんだけど、実は俺らにはわからないんだよね」
「吉岡隊は通常種だけ倒して撤退している。グリフォンは見たが、ワイバーンは見ていない」
相良が代わりに言った。
「「「「えっ」」」」
霧島隊が揃って同じ反応を示した。
「ウチらのことより、吉岡隊のほうが気になるんだけど」とサキが笑う。
「私も。吉岡くん、何かあったの?」
ユズも心配そうに俺を見る。
「後で話すよ。それより霧島隊の報告を続けてくれ。霧島はワイバーンを鳥と言い放ったんだよな? それで?」
俺は話を戻した。
「先にボスを倒すことにした。ユニークスキルのクールタイムは全員終わってたし、ワイバーンが近づくまで待つ理由がなかった」
霧島が苦々しい顔で言う。
「これだけは言わせて。私は反対した。ユズも反対した。梶原と早川は『気乗りしないけど、霧島が隊長だから指示に従う』ってスタンス。つまり、霧島の作戦に前向きだったのは霧島だけ」
サキが必死に怒りを抑えながら補足する。
「霧島、続けてくれ」と相良。
「わかった。俺たちは一気にボスを叩くことにした。ワイバーンの奇襲に備えて梶原の風刃だけ2本残し、撤退用にユズの爆弾を1個だけ残して、あとは全員のユニークスキルをぶっ込んだ。敵の正面に立ったのは俺だ。もちろん【雷神の加護】は使った」
「失礼、【雷神の加護】って何だ? 話の流れからすると霧島のユニークスキルか?」
俺は首をかしげた。
これに対して、佐伯が「はい」と頷いた。
「【雷神の加護】は霧島くんのユニークスキルです。自身の体に雷をまとわせることで、攻撃に雷の力を付与し、移動速度と攻撃速度を大幅に向上させます。持続時間は30秒と短いですが、クールタイムも5分しかありません。短期決戦向きのユニークスキルになります」
「へぇ、霧島のスキルってそういう効果だったんだ。なるほど、それで初日にソロで狩場に行ったのか! 納得した!」
「霧島のスキルなんかどうでもいいでしょ。それより、どうして早川が怪我をしたの? ボスの正面に霧島が立っているなら、霧島が怪我をしそうなものだけど」
アヤがテーブルを指で叩く。
「ボスと戦っている最中にワイバーンが攻めてきた。それで場が乱れて、早川がやられた」
霧島の語気が弱まった。
「急に報告内容が雑になってない?」
アヤの目つきが鋭くなる。
「私が詳しく話してあげる。相良、いいよね?」
サキが確認すると、相良が「わかった」と頷いた。
「まずボス戦だけど、元々は【雷神の加護】の効果時間中に倒せなかったら一度下がる予定だった。あと、私とユズが戦いつつワイバーンの動きも監視していて、近づいたら報告する手筈になっていた。で、ワイバーンが近づいても下がる決まりだった」
この時点で、皆の表情が変わった。
「案の定、ボスと戦っていたらワイバーンが突っ込んできた。だから、私がすぐに報告した。でも、霧島は『このままボスを倒しきる』って言い出して、梶原と早川にワイバーンの足止めを命じた。もちろん【雷神の加護】はすでに切れている。なのに、霧島は下がろうとしなかった。そのままワイバーンも戦闘に加わったんだけど、早川と梶原は粘っていたよ。梶原の風刃で牽制しつつ、早川が必死に戦っていた。でも、途中で梶原が危なくなった」
「危なくなったのは早川じゃなくて梶原なのか」
「そう。ワイバーンが早川を無視して梶原を狙ったの。かなり危なかったけど、早川が守った。今日の早川、すごく頑張ってたよ。梶原を守った時も怪我をしなかったから」
サキはアヤを見ながら言った。
アヤは真剣な表情で続きを待っている。




