052 転移5日目の報告会
「怪我人を出した以上、その責任は隊長の俺にあるのだが……」
相良が何とも言えない顔をする。
「いや、相良に非はない。宮坂が悪い。あれは誰が隊長でも防げない」
黒瀬が腕を組んだ状態で口を挟んだ。
「俺も黒瀬さんに同感だ。あれを相良さんのせいにするのは無理がある」
珍しく戸塚が続いた。
「……わかってる」
宮坂が申し訳なさそうに呟く。
この時点で、宮坂が派手にやらかしたことを確信した。
「宮坂は落ち着きを欠いていて、ユニークスキルの発動で下手を打った。佐伯はそれに巻き込まれた」
相良が言うと、「下手を打ったどころではない」と黒瀬が苛立ち気味に言った。
「宮坂が佐伯の足下にユニークスキルで壁を生やした。それで佐伯が魔物の前に吹き飛ばされた。幸い大事には至らなかったが、大怪我をしてもおかしくなかった」
「スミレのことが気になって集中できなかったんだよ。反省している」
相良が「もういい」と話を打ち切る。
おそらく、報告会の前に派手に揉めたのだろう。
蒸し返す必要はない、という意味だ。
だから、俺も宮坂のことをからかわないでおいた。
「それはさすがの相良でもどうしようもないな! 佐伯さん、怪我は大丈夫なの?」
「はい、問題ありません。治療を受けた時点で完治しています」
「それならよかった!」
話が落ち着くと、相良が俺を見た。
「吉岡隊の結果はどうだった? 第4のボスは強かったか?」
案の定、相良は俺たちが第4を全8攻略した前提で話す。
「相良、急かしたらダメよ。吉岡くんは隊員に報告させたがるのだから、楽しみを奪ったら怒られるわよ」
リカが笑いながら指摘する。
こちらも俺たちの第4全8を疑わない顔だ。
「すまない。楽しみを奪う意図はなかった」
「いや、気にしないでくれ! むしろ、今回はいい振りになった!」
そう言うと俺は立ち上がり、スミレを見た。
「スミレ、今回は俺が報告する。必要があれば補足してくれ」
「わかりました」
俺の顔を見て、スミレが口元から笑みを消した。
「吉岡隊の戦果だが、第4は通常種を倒したところで撤退した。危険個体とボスは倒していない」
「――!」
その場にいる誰もが驚いていた。
「吉岡くんが撤退をするほど厳しいダンジョンなのか?」
相良が険しい表情で尋ねてくる。
「それは何とも言えないな。危険個体とはまともに戦っていない。グリフォンらしき敵に魔法を当てたが、2発では倒せなかった。通常種は他の階層と同じで、的確に捉えれば一撃で倒せる」
「では、どうして撤退したんだ?」
「俺が風切りホークに気を取られている間に、スミレがグリフォンの奇襲を受けた」
「なんだと!? それはどういうことだ! 吉岡!」
宮坂がテーブルを叩く。
「待て、宮坂。まだ吉岡が話している途中だ。邪魔をするな」
黒瀬が止める。
俺は宮坂を無視して話を続けた。
「今回がたまたまそうだったのか、常にそうなのかはわからない。ただ、風切りホークとグリフォンらしき敵が連携していた。それで俺がホークを倒そうと躍起になっていたところ、その隙をグリフォンに突かれた。敵がどういう風に攻めてきたかはわからん。振り返った時には、グリフォンがスミレを押し倒そうとしていた」
「正確には、上空から急降下してきました。私は襲われる直前に敵の影で気づきました。ただ、反撃するより先にスキルを発動して身を守りました」
「……で、俺がグリフォンに攻撃をしたところ、グリフォンは逃げていった。ホークは俺の背後から攻撃しようとしたが、返り討ちにした。進めばボスまで行けたかもしれないが、自戒のために撤退した」
「自戒のためとは?」と相良。
「昨日、ナナと第3階層を攻略した時もそうだったが、俺自身ではなく、仲間が危ない目に遭った。結果的に無事だっただけで、それこそ宮坂が佐伯さんをスキルで吹っ飛ばしてしまった時と同じで、大怪我をしてもおかしくなかった。そして相良が普段から言っているとおり、怪我人を出せばその責任は隊長にある」
「そういう意味か」
「吉岡くんって、極端だよね。初日に梶原が頭をやられたときもそうだったけど、基本はイケイケドンドン。でも、何かあった瞬間、一転して慎重になる。それもカホよりも慎重なレベル」
アヤが笑いながら指摘する。
「本来なら、昨日、ナナがボスの攻撃を受けかけた時点で気づくべきだった。自分なら大丈夫っていう傲りがあったことは否定できない。だから頭を冷やすためにも、今日はホークを倒したところでギルドに戻った」
「自分で気づけるのは吉岡くんの強みだと思う」と、カホが頷く。
「とにかく無事でよかった。あと、風切りホークがグリフォンと連携して戦うという情報は助かる。吉岡隊と霧島隊が先行しているおかげで、他が安全に戦えている」
相良がいい感じにまとめる。
「でも、吉岡くん、報告はまだあるんじゃないかしら? 今の内容だけなら、昼には活動を終えているでしょ?」
リカがニヤリと笑う。
「おうよ! 第4は中止したが、狩りを終えたわけじゃない! 頭を冷やしがてら第1と第2を全8しておいた!」
「第1だけじゃなくて第2も全8したのか」と相良が驚く。
「それ、頭を冷やす人の動きじゃありませんよ、吉岡先輩!」とナナが笑う。
「吉岡くんが頑張りすぎるせいで、差が開く一方じゃないの。私と組む頃にはレベル差が10以上ありそうね」
リカが豊満な胸の下で腕を組む。
「スミレが無事ならそれでいい。今後はもっと気をつけろよ、吉岡」
宮坂は腕を組み、「ふん」と鼻を鳴らした。
「これで霧島隊以外は報告が出揃ったな」
相良がそう言ったので、俺は「そういえば」と手を挙げた。
「霧島隊って今日はちゃんと第4に行ってるの? 朝、見なかったけど」
「行っているはずだ。朝も一応、ギルドにはいた。吉岡くんが来た頃には食事を終えて動き出していたけどな」
「霧島の言葉を再現すると『吉岡とナナを待つ理由はねえ。俺たちは勝手に動くぞ』って感じ」
アヤが霧島の口調を真似する。
しかし、あまり似ていなかった。
「なるほど! それにしてもアヤ、霧島の真似へったくそだな! ユズとは大違いだ!」
「慣れてないんだから仕方ないでしょ。こういうのはユズやサキの担当なんだから」
アヤは両手のひらを上に向けて苦笑する。
「ところで、吉岡先輩、第1と第2を全8していると言っても、第4は通常種のみですよね? それだと、霧島隊やユズ先輩との勝負には負ける可能性が高いと思うのですが、問題ないのでしょうか?」
ナナが心配そうに俺を見る。
「そういえば、吉岡くんって霧島やユズと争っていたわね」
リカが思い出したように言う。
「自戒だかなんだかしらねーけど、お前が負ける姿が見られるなら見物だな。スミレに手を出した罰だ」
宮坂は愉快げに笑った。
「ナナ、問題ないかどうかで言えば問題ある! 大ありだ! 霧島との勝負も、ユズとの勝負も覚えている! きっと負けるだろう! そして俺は死ぬほど負けず嫌いだ! 君は一年だから知らないかもしれないが、二年生以上なら知っていることだ! 本当に負けず嫌いだ! 今この瞬間も悔しくてたまらない! 歯ぎしりのしすぎで歯が粉々になりそうだ! しかし、仕方ない! 昨日、君を危険にさらし、今日はスミレを危険にさらした! これは自戒せねばならない! たとえ霧島に煽られ、親友枠をよしぽっぽからユズに変更することになったとしても!」
「勝負を覚えていたうえで撤退したんですね。あと、吉岡先輩が負けず嫌いなのは見ていればわかりますよ」
ナナが笑いながら言った。
その時、遠くから金属の擦れる音が聞こえてきた。
「重装備の音だ! それにあの重い足取り! 間違いない! 奴だ! 奴が帰ってきたぞ!」
俺が声を弾ませる。
「……霧島」
ミオがボソッと呟く。
そして、間仕切りの向こうから霧島隊が姿を現す。
霧島、梶原、ユズ、サキが、疲労困憊の顔で俺たちを見る。
それを見て、アヤが真剣な表情で口を開いた。
「早川は?」
霧島隊に所属する一年の早川がいなかったのだ。




