050 自戒の撤退
「え、撤退ですか?」
スミレは驚いた様子で俺を見た。
対して俺は、真剣な顔で「そうだ」と頷いた。
「結果的に無事だったが、今のは危なかった。こんな危ない場面は、これまでにもあった。昨日もナナが怪我をしかけた。初日は梶原が額に石を受けている。さっきの君の件も含めて、どれも不幸中の幸いだ。対策と言うほどのことではないが、戦い方を見直す必要があると判断した。だから、一度、ギルドに戻ろう」
スミレは最後まで黙って聞いたあと、「わかりました」と頷いた。
「では、麦畑でイチャイチャするお話も……」
「今日は保留だ」
俺は来た道を引き返した。
霧島隊は、おそらくボスまで倒すだろう。
仮に厳しいとしても、非ボス7まではやり遂げるはずだ。
俺も、その気になればボスまで倒せるだろう。
この場の危機は去り、残っているのは危険個体とボスだけだ。
さっきと同じピンチには陥らない。
それでも、戒めのために、今日の第4階層攻略は中止した。
◇
ギルドに着いた時、時計の針は10時40分を示していた。
受付は混んでいて、どの窓口の前にも列ができている。
エリナの姿はなかった。
「昼前に戻ってしまいましたね」
列に並んでいると、スミレが言った。
「そうだなー。さすがに時間が余りすぎているし、安全性の高い第1階層と第2階層を攻略しよう」
「狩り自体を中止するわけではないのですね」
「お金が必要だからな! これまでの反省を踏まえて何かしらの対策を講じる場合、現実的には魔法や戦技に頼る可能性が高い。それでなくても技能枠が2つ余っている! なのでお金は必要だ! あと経験値もな! それに、戦いながら考え事をすることはできる! 俺はマルチタスクの吉岡だ!」
俺が長々と説明すると、スミレは口元に手を当てて笑った。
「吉岡さんがいつもの調子で安心しました。落ち込んでいるのかと不安でしたので」
「落ち込んでいるというより、反省しているだけさ。俺は霧島隊の怪我を茶化していたが、吉岡隊だって運が良かっただけで本質的には変わらなかった。間抜けなのは俺のほうだったなってさ」
「ですが、吉岡さんは気づくことができました。それは大きいことですよ」
「成長性もレジェンド級ってことさ! ふはは!」
話していると、俺たちの番がやってきた。
受付嬢に事情を説明し、通常種のみの依頼報酬を受け取る。
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【依頼報酬ログ】
・[通常]麦穂マウス:260G
・[通常]風切りホーク:290G
・[通常]丘ゴブリン:320G
・[通常]跳ね角シープ:350G
・[通常]風草スライム:380G
総額:1,600G
所持金:3,167G → 4,767G
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「では、危険個体2種とボスの討伐依頼はキャンセルでよろしいですか?」
「よろしいです! 依頼が残っていたら、うっかり第4階層に行きたくなっちまう! その代わり、第1階層と第2階層の討伐依頼を頼む!」
俺の記憶が正しければ、複数階層の依頼は同時に受けられるはずだ。
これが認められるなら、多少の効率化になるが――。
「かしこまりました。先に魔石の処理をし、それから第1・第2階層の討伐依頼に関する手続きをしますね」
普通に通った。
受付嬢が魔石を受け取り、謎のキーボードをカタカタする。
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【魔石換金ログ】
・[通常]麦穂マウス:10G×6個=60G
・[通常]風切りホーク:10G×5個=50G
・[通常]丘ゴブリン:10G×4個=40G
・[通常]跳ね角シープ:30G×4個=120G
・[通常]風草スライム:30G×3個=90G
総額:360G
分配人数:2人
分配後:180G / 残余:0G
所持金:4,767G → 4,947G
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言葉どおり、まずは魔石の換金が行われた。
そのあと、視界の隅に第1・第2階層の討伐依頼が表示される。
「長ッ! さすがに二つの階層の敵情報が続くと長いな……」
「ですね。視界の右側に違和感を覚えます」
などと言いつつ、俺たちは手続きを終えた。
◇
ポータルから第1階層に転移した。
「思えばスミレが戦っている姿をまともに見ていなかった。これも問題がある。そこで、この階層の通常種は戦闘のたびにスミレが1体は倒すことにしよう。危険個体とボスは俺がサクッと倒すよ」
「了解です。前に出て戦うことに慣れていないため、不格好かもしれませんが、笑わないでくださいね」
「いいや、笑う。めちゃくちゃ笑う。何なら指をさして笑ってやる!」
「……もう。困った方ですね、吉岡さんは」
スミレが口元に笑みを浮かべる。
「では、出発だ!」
俺たちは見慣れた草原を歩き始めた。
「ぷにーっ!」
最初の敵は青芽ネリュムだ。
今回はばらけた配置になっていて、目の前には3体しかいない。
近くに他の敵が伏せている気配もなかった。
「私が1体ですよね?」
「そうだ! 残りの2体は俺が倒す!」
「わかりました」
スミレが緊張の面持ちで短槍を構える。
「本当に戦い慣れていないんだな」
「……わかりますか?」
「そりゃあ、ネリュム相手にそこまで力んでたらわかるよ。初めて第1階層に来た時のカホみたいだ」
俺は笑いながら話しつつ、ノールックでネリュムに〈スター・ストライク〉を撃ち込む。
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討伐:青芽ネリュム×2
PT:2人 人数補正:90%
獲得:36G / 36EXP
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あっさり自分の担当を消し去った。
「カホさんも最初はこんな感じだったのですね」
「今のスミレよりもビクビクしていたよ」
「意外です。リカ隊で一緒に戦っていた時は、率先して前に出ていたので」
「君も慣れればそうなるさ。さあ、行け! スミレ! あのネリュムを宮坂だと思え!」
「そんなことを言われたら、ますます攻撃できなくなるじゃないですか」
と言いつつ、スミレは慎重に近づき、ネリュムを刺し殺した。
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討伐:青芽ネリュム×1
PT:2人 人数補正:90%
獲得:18G / 18EXP
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俺は拍手して、「できるじゃないか!」と声を上げる。
「やっぱり宮坂だと思ったのが効いたか!」
「違います……と言いたいところですが、実際に宮坂くんだと思ったら、妙に落ち着きました」
スミレは左の人差し指を口に当て、「宮坂くんには内緒ですよ」と微笑む。
「そう言って本当は言わせたいんだろー!」
「どうでしょう?」
スミレは明確な否定はせず、笑って誤魔化した。




