045 均等な愛作戦
みんなの視線がスミレに集まる中、スミレは言った。
「いえ、冗談ではありません。吉岡隊に移籍してもいいと考えています」
「それだったら俺と組もう! 宮坂隊だ! 俺も隊長になる!」
宮坂が立ち上がった。
「落ち着け、宮坂」と黒瀬が宮坂を座らせようとする。
「お前は何で落ち着いているんだよ、黒瀬! スミレが吉岡隊に行こうとしているんだぞ!」
「スミレが決めたことだ。口を挟む権利はない」
「またそれか! 大人ぶりたいだけじゃねぇかよ! それでスミレが吉岡に奪われるまで見てるつもりか!」
「そうは決まっていない。スミレは吉岡隊に行ってもいいと言っただけだ。吉岡との私的な関係については触れていない」
「宮坂くん、黒瀬先輩のおっしゃるとおりです。私は『吉岡隊に移籍してもいい方は挙手してください』とのお声がけに対し、手を挙げただけです」
スミレが困ったような顔で宮坂を見る。
「私とミオも手を挙げたんだけど、もうスミレで決まりな空気だね」
アヤが笑うと、ミオはこくりと頷いた。
「そしてカホが手を挙げていない! 俺たち結構いい雰囲気だったじゃん!」
俺が喚くと、カホは「まぁね」と笑い、続けて言った。
「吉岡くんのことが嫌なわけじゃないよ。今はリカ隊にいるほうが貢献できると思っただけ。吉岡くんに教わり、それから自分でも改良したゴーレム兄弟のロープ戦術、すごく役に立ってるの」
「カホ……つまり、吉岡ハーレムランドに入国する意思は変わらないが、今はあえて離れるわけだな! あえて!」
「ハーレムランドへの入国意思は今のところ未定だけど、大体そんな感じ」
「ならば、よかろう! 残る三名から決めよう! しかし、早川の負傷を考慮し、アヤは今回のハーレム選考から除外とする! 傷に響くと困るからな! よってミオかスミレのどちらかとナナのトレードだ!」
早川は顔をパッと明るくした。
しかし、何か言おうとして何も言わなかった。
「吉岡くん、それは配慮になってるの? それに私、早川とは何もないよ? というか、そもそも配慮すること?」
アヤがニヤニヤしながら早川を見る。
「ぐっ……! アヤ先輩……! 俺、強くなりますから!」
早川はそれだけ言った。
少し会話になっていない気もしたが、気にしないでおこう。
「配慮ではない、考慮だ! アヤ、言葉には気をつけるように!」
「はいはい、考慮ね」
アヤは笑いながら手を下ろした。
「吉岡……」
静かに俺の名を呼んだのは戸塚だ。
ミオが候補に入っていることで、俺たちのユウゴもピリピリしていた。
「……ユウゴ、私もスミレと同じ。移籍してもいいというだけ」
「わかってる」
宮坂とは違い、戸塚はそれ以上言わない。
「決めるのは吉岡くんよ。ミオにする? それともスミレにする? どちらを選んでも、場がざわつくわよ?」
リカがニヤリと笑う。
「だが、どちらを選んでも、三船は安堵する。見ろ、あの顔を。すでに安堵している」
俺の指摘で、全員の視線が三船に向く。
三船はナナが吉岡隊から外れると知り、露骨に安堵していた。
「三船くん……」
ナナが呆れた目で三船を見る。
「ち、違います! 僕は別に、何も考えていません!」
「三船、顔に全部書いてあるぞ」と早川が茶化す。
「早川は黙ってろ!」
三船は顔を真っ赤にして言い返した。
「さて、ひとしきり反応を見たし、今回はスミレにしよう!」
「わかりました。では、明日から吉岡隊の隊員として活動します」
スミレがこちらに一礼する。
こうして、明日の編成が確定した。
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【転移5日目の編成】
・吉岡隊:吉岡、スミレ
・霧島隊:霧島、梶原、ユズ、サキ、早川
・相良隊:相良、黒瀬、佐伯、戸塚、宮坂、三船
・リカ隊:リカ、カホ、ミオ、アヤ、ナナ
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「吉岡、お前、スミレに触れたらタダじゃおかねぇからな!」
「その忠告は聞けないなぁ。同じ隊で活動するんだ。触れることもあるだろう」
ここまでなら問題ない発言だ。
しかし、俺はニヤニヤしながら続けた。
「防具の留め具に問題がないか、武器の構え方が大丈夫か、隅々まで丁寧に触れるだろうなぁ……フヒヒ」
「吉岡ァアアアアアア!!!!!!!!!!」
「吉岡さん、隅々まで丁寧に触れられるのは困ります」
スミレは言葉に反して口元に笑みを浮かべていた。
「その顔! 本当に悪い子だなぁ! しかし、君のことでこれ以上、宮坂をいじるのはやめておこう!」
そう言うと、俺は体をナナに向けた。
「ナナ、この二日間、吉岡隊で活躍してくれてありがとう! それに昨夜は大変楽しく過ごせた! ユズに負けまいと、あの手この手で俺を誘惑しようとする姿も素晴らしかったぞ!」
「吉岡先輩……! 嬉しいですが、そういう風に褒められると恥ずかしいです……!」
ナナが顔を赤くして俯く。
「へぇ、ナナ、私に張り合おうと頑張ってたんだ」
「頑張りました……!」
三船が「白瀬さん……」とダメージを受ける。
「さて! 次の議題だ! 次は俺が今宵、誰と宿屋で過ごすかだが……」
俺はちらりとスミレを見る。
「吉岡ァアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
それだけで宮坂が反応した。
両手持ちの大きなハンマーを手に取る。
「おー、こわ。ま、今日は誘わないから安心していいぞ! 今日一緒に過ごす相手はもう決まっている!」
「はい! 私!」とユズが手を挙げる。
「いや、ナナだ」
「私ですか!?」とナナの目が輝く。
「えー! またナナ? 私が最初に手を挙げたのに!」
「そうしょげるな、ユズ太郎! 君とも二日過ごしただろ? ナナとも二日過ごす! 名付けて〈均等な愛作戦〉だ! この作戦は、ユズとの経験から閃いた!」
「私との経験!?」
「昨日、俺がナナと過ごすって言ったら、君は泣いて喚いただろ? あと俺の褒め方が足りないとも言った。そこで俺は二日ごとに隊員を変え、隊員に愛情をたっぷり注ぐことにした! 事前にシステム化することによって、昨日のような悲劇を避ける狙いがある! 吉岡ハーレムランドの建国にも適した方策と言えよう!」
「なるほど!」
「ずいぶんと吉岡くんにとって都合のいいシステムね」とリカが笑う。
「まあ、今日みたいな感じなら許す! ユズ太郎は吉岡くんの改善の意思を尊重する!」
ユズが謎のドヤ顔をしている。
「もしかしてユズ、今、『理解できる私、大人の女』みたいなこと思ってる?」
サキが指摘すると、ユズは「大正解!」と頷いた。
「じゃあ、今日も吉岡先輩といっぱい過ごします! ユズ先輩にも、スミレ先輩にも負けません!」
「ナナちゃん、私は競争に加わっていませんよ。……今は、ですが」
スミレが含みのある言い方をして笑う。
「今はってなんだ! 今はって!」
宮坂が速攻で食いつくが、スミレは笑みを浮かべるだけで何も言わなかった。
「吉岡くん、話はまとまったか? 問題なければ今日の報告会を終えるが」
相良が口を開く。
「おう! 俺の方は問題ない! スミレ、明日の9時にギルドで会おう! 一緒に朝メシを食べるからな! 食堂で待機していてくれ!」
「わかりました」
「じゃあ、私たちリカ隊は防具の新調に行くわ。ナナ、あなたも隊員になったからには付き合いなさい」
「はい! リカ先輩! 吉岡先輩、昨日と同じ宿で21時に……お願いします!」
リカが立ち上がると、ナナも慌てて立ち上がった。
「あの、リカさん、私は……?」
スミレがリカを見る。
「スミレは吉岡隊に移籍したから、隊長に決めてもらいなさい」
「スミレ、君も防具を新調したまえ! 武器より防具だ! 明日は第4階層に行くからな! 安全第一!」
「わかりました。では、私もリカさんたちと防具を新調してきますね」
スミレは立ち上がると、壁に掛かっている槍を手に取った。
片手用の槍で、ユズやサキの使っているものより明らかに短い。
左手には、カホと同じタイプの小盾を装備していた。
防具は、カホと同じ中装備――鋼鉄と革の混合タイプ――だ。
「霧島隊も防具の更新だ。行くぞ。早川は宿屋で休んでいろ。防具は更新済みだし、明日に響くと困る」
「了解です! 明日は怪我しません!」
「吉岡くん、私は明日も無傷で帰ってくるからね! ユズ隊員は明日も大活躍!」
「サキ隊員もね!」
「あー、サキ! 私の真似してる!」
ユズとサキが話しながら出て行く。
その後もぞろぞろと席を立ち、霧島隊、リカ隊、スミレがいなくなる。
スミレの後を追うように宮坂が出て行き、その宮坂を監視するように黒瀬も続く。
「じゃ、俺も失礼する! 皆さん、また!」
野郎だけの場所に残る理由もないため、俺は足早にその場を後にした。
この時点で、時刻は19時30分過ぎだった。
ナナと合流する21時までには少し時間が余っている。
(エリにゃんでも口説こうかな)
そう考えて受付のあるスペースへ向かう。
しかし、そこにエリナの姿はなかった。
「うーむ……。微妙な時間が空いたな」
周囲を見回す。
複数ある受付窓口の内、受付嬢がいるのは二つだけだ。
時間が遅いせいか、受付カウンター付近の掲示板の前に冒険者がいない。
しかし、このフロア自体には数十人の冒険者がいた。
大半が数人組で、脚の長いイスに座り、小さなテーブルを囲んでいた。
一仕事を終えた顔で駄弁っている。
(たまには知らない世界の人間と話してみるか)
この世界には、地球以外の世界からも多くの人間が転移してきている。
俺たちと同じく、メビウスの神の都合で強制労働を課せられた同業者だ。
(よし、あの冒険者にしよう!)
数少ないソロの冒険者がいたので、俺はその一人に目を付けた。




